1月11日の日本経済新聞に、1月3日付け英経済紙「フィナンシャルタイムズ」の「中国が失敗することを望むな」と題する(同紙コメンテーターのギデオン・ラックマン氏による)署名記事が掲載されていました。
米バイデン政権が台湾防衛のために中国の戦争に臨む意思があることを表明し、欧州連合も中国を体制上の脅威と位置付けている現在、ある国をライバルと見なすのであれば、当然(誰もが)その国の経済が急成長を続けることなどは望むはずはない。しかし、現実を直視すれば、中国の経済的な成功が続くことは、今でも西側の利益にかなうとする主張にはしっかりした妥当性があるというのがラックマン氏の認識です。
既に中国は世界経済の大きな一部を占めている。こうした状況で中国の景気後退を願うことは、世界の景気が後退することを望むのと同じだと氏は言います。例えば不動産業界が破綻するなど、中国経済が崩壊するようなことがあれば、その影響は世界の金融システム全体にも(瞬く間に)波及するということです。
もちろん、そこには倫理的な問題もあると氏は続けます。まだ貧しい人が多い14億人以上の中国人が、「より貧しくなればよい」と願うことにあなたの良心は傷まないのか。中国から多くの投資を受けているアフリカなどの途上国の人たちが再び飢えることも望むのか。
もとより、(こうして)失敗する中国は世界の安定に対する大きな脅威になる一方で、習氏もしくは別の国家主義的な独裁者が率いている限り、成功する中国もまた脅威になり得るとラックマン氏はこの論考に綴っています。
しかし、これは自由主義諸国の先頭を走る米国にも当てはまる。中国、米国の双方が、最悪の場合には自滅しかねない重大な国内問題を抱えているのは明らかで、だからこそ、米国にしても中国にしても、互いに破綻することを前提に政策を考えるのは愚策としか言いようがないというのが氏の指摘するところです。
さて、コラムニストの荒川和久氏によれば、誰もが持つ「他人の不幸は蜜の味」とか「他人の不幸で今日もメシがうまい(メシウマ)」といった心理を「シャーデンフロイデ」と呼ぶそうです。(「他人の不幸で今日もメシがうまい」というメシウマ心理で人は幸福になるか?不幸になるか?」2022.12.28 Yahoo news)
これは、「Schaden(損害)」と「Freude(喜び)」を合体させたドイツ語で、とどのつまり、「他人の損害を見聞きする喜び」を意味するということです。
普段偉そうな政治家や売れているけど自分としては別にファンでもない芸能人が、何か不祥事を起こして謝罪会見などしているときに感じる、「ざまあみろ」といったすっきりした気分。この心理は特殊なものではなく、多くの人が持っているものだと氏は言います。
因みに、(これまでの研究によれば)「シャーデンフロイデ」は男性より女性の方が強く、未婚男性で6割に対して未婚女性は8割、既婚男性5割に対して既婚女性は7割が感じており、全体的に圧倒的多数派を占めると氏は言います。この感覚は「向社会性」と密接に結びついており、集団の空気を読めない人間に対する不快感とも連動している。集団での協調性や公平性を重視する傾向は女性の方が高いため、この男女差も生まれているというのが氏の説明するところです。
いずれにしても、(誰もが経験するように)協調性のない自分勝手な振る舞いに、罰を与えてほしいと願うこと。上から目線の強者が失敗したときに、「調子に乗りやがって」「ざまあみろ」と思う気持ちが、件の「シャーデンフロイデ」というもののようです。
しかし、それは一時的な感情で劣等感を排し、心の平穏を保とうとする反応に過ぎないのもまた事実。もしも、そうした(相手が困った)時に手をあえて差し伸べたりできれば、相手にとってばかりでなく自分自身にとっても実利的なメリットにつながっていくことでしょう。
荒川氏によれば、自身の幸福感が低い人ほど、無意識に他人の不幸を追い求める「シャーデンフロイデ中毒」に陥りやすいということです。中毒になった「メシウマ」は、残念なルサンチマンとしかなり得ない。それは不幸感の解消どころか、(お互いにとって)不幸の再生産にしかならないというのが氏の見解です。
勝ち負けに固執して、誰かを妬み、その不幸を願うばかりの人生よりも、誰かの幸福や成功を自分のことのように喜べるようになることが、実は幸福への一歩なのだろうと、氏はここで強調しています。
ここのところの力ずくの強引さが目に余る中国や、何かと癇に障ることの多いお隣の韓国の振る舞いに、苛立ちを隠せない日本人も(きっと)多いことでしょう。しかし、もしも彼らが実際に大きな失敗をしたとしても、(ただ単に留飲が下がるだけで)日本へのメリットはおそらくほとんどないはずです。
結局、国ごと引っ越しはできないわけだし、ここは東アジアのお隣り同士。癇癪を起さず、冷静に共存共栄、ウィン・ウィンの道を探っていくことが我々の進むべき道なのだろうなと、私も改めて感じたところです。
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