MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2627 就活生は会社に何を期待しているのか?

2024年08月27日 | 社会・経済

 夏休みも終わりかけた8月下旬。例年のように、私が部屋を構えているオフィスでも、インターンとして職場を訪れる大学生たちの姿をちらほらと見かけるようになりました。

 せっかくの機会ということで、人事担当者にお願いして、彼らの何人かから直接話を聞く時間を作ってもらうことに成功。雑談形式で、就活活動を始めてみての感想など、あれこれと伺うことができました。

 (具体的な内容はともかくとして)そこで強く感じたのは、彼らが「就職したら、会社や組織が自分に何を与えてくれるのか」という部分に大きな関心を持っているということ。少子化に伴う企業の人手不足感を背景に、売り手市場となった昨今の就職環境の下、企業は若者に「選ばれている」んだなあ…と改めて感じた次第です。

 就活生とはいえ、そこはそれ20歳そこそこの大学生のこと。一番の「条件」は残業の量や休暇の取りやすさなど…などといった話を実際に聞かされたりすると、(これは愚痴でもなんでもなく)就職で苦労した昭和育ちの我が身としては、正直「仕事への向き合い方」が変わったのだなと感じるところです。

 さらに聞けば、近年では特に、スキルアップのための研修制度や資格取得制度の有無などに、結構な重きを置く就活生が増えているという話。「会社は学校じゃないんだがなあ…」と思うと同時に、誰かに「与えられること」に慣れきっている彼らの姿に、一抹の不安のようなものを感じたことも告白しなければなりません。

 ある意味物わかりが良く、スマートで合理的な彼らの感性に関し、総合ビジネス情報サイトの「現代ビジネス」が作家で精神科医の片田珠美氏の指摘を紹介していたので、参考までにその概要を小欄に残しておきたいと思います。(『意外と知らない、若者が「頑張るだけ無駄」と思い込んでいるワケ』2024.8.21)

 現在20代の若者、いわゆるZ世代には指示待ちタイプが多いとされるが、これは教育によるところが大きいのだろうと、片田氏はその冒頭で語っています。

 少子化の影響もあって親や教師から大切にされ、全てお膳立てしてくれる環境で育ってきた。傷つくことも転ぶことも防ぐべく、周囲の大人は危険物を極力取り除き、危いことは一切させないように配慮されてきた(はずだ)と氏は言います。

 なので、子どもが自発的に何かをやる機会はどうしても限られる。せっかく子どもが自分から「~したい」という意思表示をしても、大人に「危ないからダメ」と却下されることもあったろう。そして、こうした環境では必然的に受け身になりやすく、自主性も育ちにくいというのが氏の認識です。

 また、試験では、あらかじめ正解が決まっていて、それに沿った答えを答案用紙に書くほど点数が高くなる。教師からの評価も、指示されたことをきちんと実行するほうが上がると氏はしています。

 指示されていないのに、自分の頭で考えて余計なことをすると(逆に)教師からの評価が下がることさえある。当然、周囲の仕事の進捗状況を見ながら気を利かせて、必要であれば同僚を手伝うような柔軟性はなかなか身につかないということです。

 それに拍車をかけているように見えるのが、彼らが持つ高い「コスパ意識」だと氏は続けます。

 最近の若者は、コストパフォーマンスに敏感で、「コスパが悪いから」という理由で恋愛にも結婚にも消極的になっていると聞く。さらに最近では時間対効果を意味する「タイパ」なる言葉も登場し、自分がかけた時間に対してどれだけの見返りがあるかを重視する姿勢も際立っていると氏はしています。

 こうして「効率のよさ」を何よりも重視し、時間の浪費をできるだけなくそうとする若者たち。なので、彼らが同僚の仕事を手伝わないと聞いても、私(←片田氏)はあまり驚かない。むしろ、当然のように思われるというのが氏の見解です。

 さらに言えば、頑張っても報われないとか、頑張るだけ無駄とか思い込んでいる若者も少なくない。こうした思い込みの背景には日本経済の低迷もあるように見えると氏は言います。

 Z世代が生まれた1990年代後半以降、日本経済は停滞を続けた。(会社という組織の理不尽に耐えた「見返り」としての)終身雇用や年功序列などが次々と失われていく状況を目の当たりにして育った彼らが、「辛抱して頑張っても、理不尽に耐えても報われない」と思い込むようになったとしても何ら不思議ではないということです。

 このような経緯に加え、さらに勤務先への帰属意識が希薄になったことも大きく影響していると氏は続けます。

 昭和の時代は定年まで同じ会社で働くのが当たり前だったが、昨今は必ずしもそうではない。離職や転職に対して抵抗感をあまり覚えない人も増えたため、「どうせ定年までいるわけではないので、我慢して嫌な仕事を引き受ける必要はない」という認識が生まれやすい環境が整ったということです。

 (そこにはまた、)例え自分がここで無理して頑張ってたとしても、会社の倒産やリストラに直面する可能性がある。そうなれば「働き損」になりかねないが、そんなのは嫌だという心理が潜んでいるのではないかと氏は言います。

 名だたる大企業でさえ、早期退職を募集しているこの御時世。そういう現状を自らに重ねれば、誰だって不安になる。特に、先の長い若者たちが、自分が仕事で費やす時間にどれだけの見返りがあるのかをよりシビアに計算しようとするのは当然の反応だということです。

 そうした中、現在の職場に将来性がそれほどないと判断すれば、おそらく若者たちは早々に見切りをつけるだろうと、氏はこの記事の最後に断じています。

 在職中にスキルアップし、できれば資格も取得して、より有利な条件で転職したいというのが彼らの本音に違いない。そのためには時間を有効に使わなければならないので、他人の仕事を手伝うなんて論外なのだと話す片田氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。



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