2021年に入り、欧米を中心とした自由主義各国および国際世論からの孤立化が進む中国。香港や新疆ウイグル地域などの人権問題が大きくクローズアップされる中、国内では急激な経済成長に伴う格差の拡大や高齢化や少子化などの社会構造的な問題が重くのしかかっているのは想像に難くありません。
新型コロナの影響もとりあえずは収まり、中国の国内情勢は一見落ち着きを取り戻しているように見えます。しかしその一方で、そんな中国社会でも世代交代は確実に進んでおり、極端な中華ポピュリズムから無気力主義まで、14億人民の多様化はさらに加速しているような印象を持つところです。
こうした社会の動きを背景に、国内統治の姿を変えようと試みる中国共産党や習近平政権の動きが、(ここに来て)次々と伝えられるようになっています。
昨年11月のアリババグループ企業の上場中止や、今年4月のテンセントに対する(独金法違反による)100億元に上る罰金の支払い命令など、中国共産党は昨年末頃から国内テック企業に対して強権的な姿勢を見せています。こうした経済活動への政治的介入は、最近ではテック企業に限らず、たとえば、有名女優の脱税摘発やアイドルグループの活動やファンミーティングへの規制など、エンターテイメント業界への取り締まりの強化などにもみられるようになりました。
これらは、大きな利益を上げセレブ化していく企業経営者や共産党が文化的退廃とみるポップカルチャーの若者への浸透など、自由主義的な「無秩序」な状態を問題視する習近平政権の姿勢が、急激に先鋭化していることの証左と言えるでしょう。
また7月には、「教育格差の拡大」や「教育産業の過熱」などを問題視する立場から、学習塾の非営利事業への転換が命じられ、事実上1,000億ドルの産業が壊滅しました。なんとしてでも出生率を高めたい共産党。そこでは、過熱する教育需要に対する経済的および精神的な負担とそれにともなう子育てへの意欲低下が少子化の大きな原因と捉えられ、強い措置が講じられたと考えられます。
さらに驚いたのは、中国のメディアなどを管理する国家新聞出版署が、未成年者(18歳未満)によるネットゲームの利用を厳しく制限する方針を発表したこと。ゲーム企業に、未成年者へのサービス提供を週末や祝日などに限定し、時間も1日1時間までとするよう求めるとともに、学校現場や家庭の指導により未成年者のネットゲーム利用を金曜、土曜、日曜と祝日の夜8時から9時までに限定するというものです。
マルクスレーニン思想を国内に浸透させるには、まず(だらけきった)子供の生活習慣を改めさせる必要があるということなのでしょう。しかし、まるで「夏休みの過ごし方」のような細かな行動規制を国家単位で権力的に行おうと考える、このような(ある意味「子供じみた」)政策が飛び出してくること自体が、彼らの危機感の率直な表れと言えるかもしれません。
そして、中でも極めつけなのが、9月1日の新学年から始まる、全国の小中高等学校における習近平思想教育の義務化です。小学校から高校まで教科書は合わせて4冊。小学校低学年では「習近平おじいさん」と呼び、第1章から「私は中国を愛する」と題して「愛国心」を強調、高学年では「強国には強軍が必要」という章や習主席の「台湾独立勢力の分裂工作を打ち壊す」との言葉も学ばせるということです。
カリキュラムには、中国文明の功績の他、貧困削減、新型コロナウイルスとの闘いにおける共産党の役割などが盛り込まれており、習氏の愛国主義や義務に関する発言や、市民との交流の逸話なども含まれているとされています。
今回の決定に関しては、(さすがに)国民の中にも文化革命を推し進めた初代指導者・毛沢東への個人崇拝を想起させるという抵抗もあったようです。しかし、習近平国家主席を巡っては(中国共産党が)11月にその功績や指導的地位を突出させる「歴史決議」をまとめるなど、個人崇拝を進めていくのは既に既定路線と考えられているということです。
いずれにしても、中国共産党と習近平政権が強力に進める企業経営やメディアへの介入、教育による思想統制強化の背景には、中国人民の多様化とそれに伴う社会の不安定化への懸念(の高まり)があるはおそらく事実でしょう。そして、そこにはまた、富裕層の自主的な富の還元に基づく「共同富裕」の構想も含め、社会の分断が決定的となったアメリカをはじめとした自由主義社会へのアンチテーゼを世界に示そうとする思惑もあると考えられます。
しかし、このような(あからさまな)思想統制が、共産党一党支配への中国人民の反発を招きかねないこともまた事実。極端な政策を矢次早に導入する現在の中国共産党の姿勢に、彼らの「焦り」のようなものを感じ取っている私だけではないはずです。
経済格差や自由主義の浸透の下、14億の人口を抱える中国の内情(内圧)は、思ったよりも深刻な状況にあるのかもしれない。そうした理解の下、(東アジ化地域の安定のためにも)私たちは中国の国内政治の動向に十分な注意を向けていく必要があると、ここにきて改めて感じているところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます