文部科学省が行った学校における生徒等の事故に関する実態調査を見ると、学校における事故は部活動中に発生したものが最も多く、全体の3分の1以上を占めていることがわかります。特に、死亡したり障害が残ったりする重大事故の多くは運動部の活動中に発生しており、昨年度1年間でも156件に上っているということです。
さて、日本の特に中等教育において部活動は極めてポピュラーな存在であり、全国調査によれば、7割以上の中学生と5割以上の高校生が運動部活動に加入しているとされています。
一方、文部科学省は、こうした「部活動」をあくまで児童生徒の自発的・自主的活動と位置付けており、 各学校に対し通知等により、生徒の個性の尊重と柔軟な運営に留意するとともに、児童生徒の参加が強制にわたることのないように指導しています。また、事故防止などの観点から、外部の指導者や諸機関を利用するなど、必要に応じてスポーツ医・科学に関する情報を活用するよう求めているということです。
このように、一般的でありながらも実は位置づけが曖昧な「部活動」という存在が学校現場を負担や強制により歪めているのではないかとして、名古屋大学大学院准教授の内田 良(うちだ・りょう)氏が、4月25日の自身のブログにおいて興味深い指摘を行っているので、備忘の意味でその論点を整理しておきたいと思います。
内田氏は、日本の部活動は学習指導要領により、「生徒の自主的、自発的な参加により行われる活動」(中学校学習指導要領、第1章総則)と定義付けられているとしています。
つまり、どの部活動に所属するかはもちろん、部活動に参加するかどうかも生徒が自分で決めてよい。さらに言えば、「部活動には入らない」という選択肢も、当然生徒が自主的に判断するべきものだということです。
しかし、現実はそうなっていないのではないか。実際、正規の教育活動ではない部活動が、生徒全員の強制加入とされている場合が多いと内田氏は指摘しています。
少し前のデータになりますが、1996年の全国調査では中学校の54.6%が全員加入をとっており、2008年の時点の調査でも、例えば最も多い岩手県では、99.1%の学校が部活動への参加を生徒に義務付けているということです。静岡県では54.1%、香川県でも50.0%と半数を超えており、全国的に見ても中学校の部活動では、生徒は全員加入の歴史が続いてきているということです。
また、この問題は、実は教員側の「全員顧問」の問題とも密接な関係にあり、正規の教育活動ではない(また、専門の知識や経験がない)部活動を強制的に担当させられことへの問題点が指摘されているところです。
部活動は「明確な制度的規定を欠いたまま、長い間慣習として存続されてきた」ものであり、その間、自主的にはそれを望まない生徒や教員の声はずっとかき消されてきたというのが、この問題に対する内田氏の問題意識です。
さらに、内田氏は昨年12月30日のブログにおいて、こうした部活動の活動日数につても触れています。
氏によれば、中学校や高校では、平日の朝夕はもちろん土日・祝日まで部活動を実施しているところは少なくないということです。
神奈川県で教員と生徒に対して実施された中学校・高校の運動部活動に関する調査を見ると、活動は週に6日以上行われている一方で、教員と生徒のいずれもが「理想は周5日以内」としており、「活動日数が多すぎる」と考えていることがわかる。つまり、部活動ありきの世界では、教員と生徒がお互いに、あるいは教員の間や生徒の間でもお互いに、「みんなやりたいと思っている」と勘違いしているだけなのではないかと、内田氏はこの論評で指摘しています。
また、10年前に行われた同調査の結果と比較すると、1998年から2007年にかけて、中学生の「6日以上」の活動割合が増加しており、(少なくとも神奈川県では)土日・祝日の部活動が強化されていることがわかるということです。
さて、制度上定められている訳でもなく、また生徒も指導者も望んでいるわけでもないのに休養もなく部活動が続けられている背景には、疑問を持つことすら許されない「体育会系」のプレッシャーや何らかの強迫観念が、職員や生徒(先輩、後輩、レギュラー、補欠)などの間にあるのもまた事実でしょう。
部活動とは一体何なのか。いずれにしても、これ以上グレーな状況を放置しておいてよいはずはない。授業の教育水準や生徒の安全の確保を図る意味からも、慣習に頼るのではなく、明確な制度設計が必要であるとするこれら論評における内田氏の指摘を、私も改めて関心を持って読んだところです。
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