MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯350 ホームレスの定義

2015年05月26日 | 社会・経済


 駅周辺の路上や公園などで暮らす「ホームレス」と呼ばれる人々が、この数年にわたり減少傾向を見せているとするひとつのデータがあります。

 バブル崩壊後の2003年1月~2月に実施された厚生労働省の調査では、全国において25,296人のホームレスの人々が確認されていました。しかし、4年後の2007年1月の調査では18,564人へと大きく減少しており、さらに今年の調査では、これが6,541人と、4分の1程度にまで減少しているということです。

 2007年の調査時点で、彼らの95%が中高年の男性であったことが判っています。当時の平均年齢は57.5歳。現在はその多くが65歳を超え、高齢者の仲間入りをしているはずです。そうした彼等は、一体どこへ行ってしまったのか。

 このような疑問に対し、聖学院大学客員准教授でソーシャルワーカーの藤田孝典(ふじた・たかのり)氏が、4月30日のYahoo newsに「ホームレスの定義と調査手法の課題」と題する興味深い論評を寄稿しています。

 全国で6,541人という、この調査におけるホームレス数をどう思うか…読者に対し藤田氏はそう問いかけています。日本の人口を約1億2千万人としてその約0.005%。日本人の大よそ2万人に1人がホームレスだという計算です。

 「そんなに少ないわけがないだろう!」…藤田氏はこの論評においてそう断じています。

 厚生労働省が行ったこの調査では、全国の都道府県市などの福祉事務所職員らが昼間、管内を巡回し、ホームレスか否かを「主観」で判断してカウントしているということです。氏はこうした調査手法に対し、現在のホームレスを目視で判断することは極めて難しいのではないかと指摘しています。

 最近では、ホームレスであっても身なりが綺麗でスーツを着ている人もいる。ヒゲも剃れているし車で暮らしている人すらいる。現在では、日雇い派遣などの一時的な仕事を得る機会も広がり、そうして得られた収入でも利用できるネットカフェやマンガ喫茶などが全国各地に普及していて、シャワーも浴びられればヒゲを剃ることもできるということです。

 もはや、ホームレスであることに誰も気づかない、見分けがつかない時代がやってきていると藤田氏は言います。厚生労働省が調査を始めた2003年当時は、ホームレスへの支援が全く不足していた。そのため、公園などで生活していたホームレスは、見た目からして明らかに支援の要否が判断できたということです。

 しかし、そのようなホームレスは既に少数派となっているというのが、現状に対する藤田氏の認識です。

 「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」では、支援の対象とする人々を「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所として日常生活を営んでいる者」 と位置付けているということです。つまり、福祉の世界では、いまだに旧来のホームレスのイメージを持ちながら、支援の手が差し伸べられるべき人々を判断していると藤田氏は指摘しています。

 そこには、ネットカフェで暮らす人々や、友人宅や知人宅を転々とする人々などの不安定居住者は含まれていない。また、夜間に移動しながらホームレス生活をしている者は、そもそも発見されないということです。

 氏によれば、ヨーロッパなど海外では、日本のような(ある意味いいかげんな)定義や調査手法で、支援対象の把握をしていないと藤田氏はしています。

 例えば、イギリスではホームレスの定義を
1 占有することができる住居を持っていない状態にある世帯の一員
2 家があってもそこに立ち入れない場合、そこが住むことが許されない車両、船である場合
3 そこが継続的に占有する理由をもっていない場合
4 28日以内にホームレスになる可能性がある場合
などに限定し、家賃滞納をしている者やネットカフェ生活をしている者、車上生活者などを幅広く含んで支援の対象としているということです。

 藤田氏によれば、厚生労働省のホームレス調査で浮かび上がる数字は、住居を失い健康的な生活の継続が難しくなった人々のうちの極々一部であるということです。

 日本に暮らすホームレスの人々は、世界的な先進国の基準に当てはめればそれこそ膨大な規模に及んでいる。日本の貧困と格差は広がり続けており、家を失うリスクは身近に迫っていると氏はこの論評で指摘しています。

 確かに、以前は駅近くの路上や公園などでよく見かけた段ボールハウスやブルーシートのテントの数は少なくなっているかもしれません。しかし、藤田氏が指摘するように、住む家を失いながら日々を何とか食いつないでいる人々、生活の糧を失い明日の暮らしが想定すらできない人々は、恐らく厚生労働省の調査の何百倍もいることでしょう。

 現在の調査のままでは、住まいの貧困やホームレスの実像など何も浮かび上がってこない。

 支援を必要としている人々の実態を直視し、今、手を差し伸べるべき存在をきちんと把握すべきだとする藤田氏の論評を読んで、生活困窮者への支援の在り方について、私も改めて考えさせられたところです。



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1 コメント

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Unknown (名乗るほどの者ではない)
2015-08-12 14:04:27
今は臓器移植技術が上がった為、ホームレスの人が、臓器売買目的でヤクザに捕まって、生きたまま海外に売られ、臓器移植提供させられて、殺されている虞がある。
路上生活は大変危険だから、早急に国がホームレスを全員、シェルターに保護すべき。
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