現在、国内には、うつ病を中心とした「気分障害」に悩む人々が100万人以上いるとされ、社会にもたらす損失も、直接費用で1,800億円、罹病費用が9,200 億円、死亡費用は8,800億円など、総計で2兆円を超えると推定されています。
今から2年ほど前の記事になりますが、2013年7月3日の「PHP Biz Online」において、国際医療福祉大学大学院教授で精神科医の和田秀樹氏が、そんなうつ病を予防する「3つの方法」について興味深い論評を行っているので、備忘の意味でこの機会に内容を採録しておきたいと思います。
憂うつな気分が長く続き、不眠や身体に異様なだるさを感じるうつ病は、悪化すれば自殺企図につながる非常につらい病気です。以前と比べれば、投薬を中心とした効果的な治療方法が増えているということですが、このような状態を招かないためには予防するに越したことはないのは当然です。
そこで、和田氏はこの論評において、うつ病を予防するための簡単で効果的な3つの方法を示し、気分に変調が認められた際の実践を提案しています。
その1つ目は「考え方のパターンを変える」ということです。
例えば、うつ病になり易いとされる「二分割思考」の人は、「100点でなければ零点」という考え方をして、中間的なものを認めようとしないということです。
どんなことにも完璧を求め、徹底的に高いクオリティを追求する。それがプラスに働いているうちはいいのですが、行きすぎると、「まだ不十分」「もっといいものができる」と徹底的に根を詰め、結果として心身に大きな負担をかけがちだということです。
特に40歳代を超えると体力的にも限界が低くなるうえ、残業などにより睡眠不足を招くことでうつ病のリスクが一層高まると和田氏はしています。
このような「不適応思考」を改善していくためには、思考パターンをその都度チェックし、危ないなと思ったら思考方法そのものを変えていくことが必要だということです。
少し考え方をリラックスさせて凝り固まった考え方を「ゆるい」方向に変えていく。そうした普段からの少しの注意がうつ病への予防となり、それができれば、仮にうつ病になっても軽症ですませられると和田氏は説明しています。
予防法の二つ目は、「バランス良く食べる」ということです。
うつ病は、脳内のセロトニン不足が発端となって発症すると考えられており、これを予防するには、体内でセロトニンを形成するトリプトファンという物質を含んだ食品を食べることが有効だと和田氏は指摘しています。
トリプトファンは、肉類をはじめとして、納豆、たらこ、チーズ、牛乳などに多く含まれており、こうした食材を意識して摂取することで、体内のセロトニンのベースラインを高めることができるということです。また、トリプトファンは、睡眠と関係の深いメラトニンという神経伝達物質の原料でもあることから、トリプトファンをとることは快適な眠りにもつながると和田氏はしています。
併せて氏によれば、痩せている高齢者より少し太めの高齢者のほうが元気で活動的なことからも判るように、肉を食べ、コレステロールをきちんと摂取しておくことが健康には必要だということです。
さて、うつ病を予防する3つ目の方法は、「外出して太陽光に当たること」だと和田氏は述べています。
うつ病の中には、冬季に起こるタイプの冬季うつ病というものがあるのだそうです。日照時間の減少が影響していると考えられているこの「季節性うつ病」の治療には、照明装置で強い光を浴びる「高照度光療法」が用いられています。睡眠障害の治療にも用いられるこの療法は、光を浴びることで体の状態を整えていこうとするものだということです。
和田氏は、光を浴びる一番簡単な方法は、昼間に外出し自然に太陽光を浴びることだと言います。外に出て散歩をすれば、多少の運動により気分も変わり、うつ病の予防つながるというものです。
さて、和田氏の示したこれらの予防策を簡単に言ってしまえば、おおらかに物事を考え、規則正しい生活をし、昼間は屋外で体を動かしたうえできちんとバランスのとれた食事を採るという、ある意味人として当たり前の生活を送ることが、うつ病対策には欠かせないということになります。
見方を変えれば、私たち現代人は、それほどまでに健康な生活を送るための生活のペースを見失っているということなのかもしれません。
ストレスフルな現代に生きる私たちにとって、自らの状況を客観的に見つめ、生活を整え、必要なケアをしていくことがいかに大切であるかを、私もこの論評から改めて考えさせられた次第です。
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