MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2286 現在の円安が意味するもの

2022年11月01日 | 社会・経済

 10月31日、財務省は直近1カ月(9月29日~10月27日)で、総額6兆3499億円に及ぶ為替介入を実施したと公表しました。これは9月の2兆8,382億円を大きく上回る水準で、円買いドル売りとしては記録を開示している1991年度以降、2カ月連続で過去最大規模になるということです。

 日銀による一連の介入の結果、10月21日に151円90銭台まで値下がりした円相場は一時5円以上の円高に戻しました。しかし効果は長続きせず、足元では再び148円台の安値で推移している状況です。鈴木俊一財務相は11月1日の閣議後記者会見で、為替介入について「一定の効果があると感じている」と述べ、為替動向については「引き続き高い緊張感を持って注視していく」との考えを強調しています。

 政府としては、極端な円安に対しては繰り返しの介入も辞さないという覚悟を示したということなのでしょうが、構造的な要因が解消しない限り、現在の円安水準があっさり解消するとは思えません。市場介入はあくまで一時的な手段であり、市場の動きを前提とした根本的な対策を求める声は依然大きいようです。

 こうして円安基調で推移する現在の外国為替市場に関し、10月19日の日本経済新聞の経済コラム「大機小機」に『「構造的ドル高」は終わらない』と題する一文が掲載されていたので、参考までに紹介しておきたいと思います。

 円安が進行する中、政府・日銀は24年ぶりに外国為替市場に介入した。物価上昇が国民生活を直撃しているおり、急激な円安の進行を放置できないとの判断であろうが、介入で円安の勢いが一時的に削がれても円安自体が止まるわけではないというのが筆者の認識です。

 円安であることは間違いないが、今年に入ってドルは主要国通貨に対して2割ほど上昇し20年来の高値となっている。米国はインフレ抑制のため躊躇なく利上げを継続しており、ドル高是正には消極的だと筆者はしています。

 米国以外の各国もインフレ抑制に躍起であるが、自国通貨の下落によるインフレ加速を回避しようと追随利上げを続けることで、景気落ち込みリスクを高めるというジレンマを抱えている。英国は景気対策として大規模な減税に踏み切ろうとして、財政赤字拡大とインフレ加速懸念を招き、英国債とポンド、株価のトリプル安に見舞われ、影響は他市場にも及んだということです。

 ドル高で世界の金融市場がきしみ、金融危機を懸念する声も上がっているが、これまでのところ金融政策や為替政策で協調を模索する動きはみられない。一部には、利上げの浸透によってインフレがピークアウトすれば、循環的なドル高局面も終わるとの思惑があると筆者は言います。

 しかし、インフレが簡単には落ち着かず、インフレ目標値が引き上げられる可能性もある中、ドル高は本当に循環的なものだろうかと筆者は(その認識に)疑問を呈しています。加えて、米国経済の強さも指摘されている。米国は今やエネルギー大国であるのに加え、高水準の設備投資が続いており、脱グローバル化の下で、国内投資のさらなる拡大も予想される。とりわけ、国内総生産(GDP)比でみた研究開発投資は他国を凌駕しているということです。

 その投資が米国の経済力に反映されていくとすれば、ドル高局面はしばらく続くものと筆者は見ています。さらに今回の円安が、日本の金融政策スタンスだけでなく、日本経済の劣化を反映しているとの声もある。米国との比較で言えば、その指摘自体あながち的外れなものではないというのが筆者の見解です。

 バブル崩壊後の1995年、国民一人当たりGDP が4万4千ドルと、米国の2万8千ドルを大きく上回っていた日本経済。しかし、それからおよそ四半世紀の歳月を経て、2022年の米国の一人当たりGDPは7万6千ドルに及び、日本の3万9千ドルの2倍に及ぶ状況です。他の先進各国と比較しても、この間、日本だけが成長していないことは明白で、給料もほとんど上がっていないことはデータが示しています。

 やはり今の日本に必要なのは、物価上昇に負けない賃上げを実現すること。そして、円安メリットを生かし企業の投資拡大を促すなど、日本経済を活性化する方策を真剣に考えることだとこの論考を結ぶ筆者の指摘を、私も重く受け止めたところです。



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