9月28日の日本経済新聞は「国民年金5万円台維持へ 厚労省、厚生年金で穴埋め」と題する記事において、マクロ経済スライドの停止・先送りなどによりひっ迫する国民年金財源に充てるため、政府が厚生年金保険料の活用を検討していると報じています。
記事によれば、厚生労働省は、全ての国民が加入する基礎年金(国民年金)の給付額を抑制する「マクロ経済スライド」を前倒しで終えるための検討に入ったとのこと。(国民年金の)支給額を今の物価水準で月5万円以上に保つため、サラリーマンが支払っている厚生年金保険料や国庫負担で埋め合わせるということです。
「マクロ経済スライド」とは、現役世代の人口減などを反映し、経済状況を踏まえ実質的に給付を減らす仕掛けです。しかしながら、目先の給付を下げないよう政府が同スライド適用を見合わせてきた結果、足元の年金給付は2004年時点の想定に比べて年8.8兆円程度も膨らんでいると試算されています。
長い目で見た年金の収支をバランスさせるためには、本来(当然ながら)今後の給付を抑え込み足元の超過給付を取り戻す必要があると記事はしています。これに対し、国庫ばかりでなく(苦し紛れに)厚生年金にまで手を伸ばすとなれば、今後の年金制度全体への信頼が大き失われかねないというのが記事の指摘するところです。
さて、こうして財源基盤が揺らぐ国民年金制度に関し、9月28日のYahoo newsに関東学院大学教授の島澤諭(しまさわ・まなぶ)氏が「国民年金の立て直しは厚生年金の流用などではなく全額税方式で行われるべき」と題する論考を寄せているので、参考までに紹介しておきたいと思います。
国民皆年金・国民皆保険が成立した1961年から60年以上経って、あちこち傷んできた社会保障制度の中でも特に綻びが目立つのが国民年金制度だとこの論考で氏は話しています。
国民年金加入者のうち、厚生年金(や旧共済年金)に属していない者を第一号被保険者と呼ぶ。これは主に自営業者、農林漁業従事者等を対象とするものなのだが、近年では非正規労働者も多く含まれるようになり、被雇用者を対象とした厚生年金との区分が曖昧になってきているということです。
また、2020年3月末時点で、第一号被保険者 1238.4万人のうち保険料の納付を全額免除されている者が206.2万人、学生納付特例者が177.9万人、納付猶予者が56.1万人、さらに24カ月以上保険料を滞納している者が193.1万人おり、実際に保険料を納付している人は605万人しかいないという実情があると氏はしています。
つまり、第一号被保険者として保険料を納付すべき者のうち、保険料を実際に納付しているのは全体の48.9%に過ぎず、(未加入者も含め)残りの51.1%が何らかの形での「未納」者だということ。
滞納者のうちの76%は国民年金保険料を納付しない理由について、「保険料が高く、経済的に支払うのが困難」としており、支え手から見た国民年金の空洞化は深刻だというのが氏の指摘するところです。
一方、実際に支払われる年金を見ても、夫婦二人世帯の年金額は(ともに国民年金だけであるとすれば)単純に2倍した112,716円でしかない。
それに対し、生活保護費は、(年齢、家族構成、健康状態、居住地などによって支給額は異なるものの)例えば65歳の高齢単身者の場合、東京都区部で月額130,580円、地方郡部でも101,640円と、65歳以上の夫婦二人世帯であれば183,916円、149,249円となり、結果、国民年金に加入していなかったり、年金だけでは生活できないお年寄りは生活保護に流れることになると氏は言います。
その意味するところは、(生活保護の財源は消費税なので)結局、困窮高齢者の生活費は主に現役世代が面倒を見ているということ。そう考えれば、厚生年金保険を流用して国民年金を守るのも、国民年金の空洞化を放置して生活保護で対応するのも、実体は大きく違わないということです。
したがって、国民年金の空洞化や破綻を避けようと思えば、生活保護の活用や厚生年金の流用などという弥縫策に頼るのではなく、国民年金を全額「税」で賄うことが適切ではないかと島澤氏はしています。
日本の高齢者の暮らしを、そのベースの部分で支えてきた国民年金制度。しかし、少子高齢化の進展の中で制度を支える現役世代が減少し、このままでは制度の維持が困難になってきていることは誰もが認めるところです。
雇用者の賃金の上昇が期待できない一方で、厚生年金を支える社会保険料は高騰の一途をたどっていることからも、この際、国民年金制度の抜本的な見直しが必要ではないかと考える氏の指摘を、私も興味深く受け止めたところです。
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