MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2386 目指すべきは和平か戦争継続か

2023年03月25日 | 国際・政治

 日本の岸田首相がウクライナの首都キーウを電撃訪問した3月21日。中国の習近平国家主席はまさにその日に、ロシアの首都モスクワのクレムリンでプーチン大統領と首脳会談を行っていました。

会談後には、両国首脳による共同声明が発表され「二国関係は歴史上最高のレベルに達し、着実に成長している」と緊密な関係維持を改めて国際社会に誇示する形となりました。

 懸案のウクライナ情勢に関し声明では、「責任ある対話が危機の持続的な解決を見いだす最善の方法。国際社会はこの点で建設的な努力を支援すべき」と強調するにとどまり、具体的な解決策には触れることはなかったようです。

 しかし、プーチン大統領は会談後の共同記者会見において、中国が示した「対話による停戦」の立場を支持する姿勢を示し、「むしろ西側が、徹底してロシアと戦うことを決めたようだ」と述べて、ウクライナへの軍事支援を強める欧米を揶揄しています。

 また、一方の習主席は、「中国は一貫して客観的かつ公正な立場を堅持し、和平交渉を積極的に促してきた」など、戦闘終結に向け労を惜しまないとする中国の立場を繰り返し示したとされています。

 ロシアによる一方的な軍事侵攻で始まったウクライナへの戦闘行為ですが、気が付けばこうして、中ロが和平交渉による平和的解決を口にする一方で、欧米諸国および日本がウクライナの戦争継続を支援するという皮肉な状況が生まれています。

 アメリカNSC(国家安全保障会議)のカービー報道官は中国・習近平国家主席とロシア・プーチン大統領による首脳会談を受け、「中国はウクライナから軍を撤退させるようロシアに圧力をかけるべきだ」と、早速、注文をつけたと伝えられています。

 一方、アメリカのこのような動きに対し中国外務省は、同22日の会見で「中国は対話による危機の解決を積極的に推進してきた」と主張。「戦場に武器を送り続け衝突をエスカレートさせることが公正なのか」と欧米の動きを批判し、「中国への責任転嫁をやめるべきだ」と強調したということです。

 一進一退を続ける戦闘の長期化とともに、ますます混迷の色を深めるウクライナ情勢。日本は自由主義社会の一員として(このヨーロッパを戦場とする戦争に)どのように向き合っていったらよいのか。

 3月23日のYahoo newsに、中国問題グローバル研究所所長の遠藤誉氏が『中露共同声明 ウクライナ戦争の「和平交渉を求める中露陣営」と「戦争継続に寄与する日米欧陣営」浮き彫り』と題する論考を寄せているので、参考までにその概要を小欄に残しておきたいと思います。

 3月21日の日本時間の真夜中、中露首脳会談のあとに両首脳による共同声明の発表があり、続いて二人の首脳による共同記者会見が設けられた。共同声明の基軸は「ウクライナ問題は話し合いによって解決すべき」というもので、「それをロシアが言うんですか?」と問いたくなるが、ロシアが「和平交渉をできるだけ早く再開することを重ねて言明する」という立場にあることに改めて驚かされたと、氏はこの論考に綴っています。

 さらに、「国連安全保障理事会によって承認されていない、いかなる一方的な制裁にも反対する」という中露両国の共通認識が、共同声明文の最後に記されていることは注目に値すると氏はしています。

 「和平案」の冒頭にある「国家の領土主権は尊重されなければならない」という中国側の主張は(ウクライナの領土主権を重視していない)プーチンと相矛盾するが、そこは互いに目をつぶりながら、両国は共通する認識を優先しているものと解釈できるというのが氏の見解です。

 他国の領土の侵略だけをとれば、台湾問題やウイグルなどの少数民族問題を抱える習近平にはプーチンの行動を肯定することはできない。しかし「アメリカに一方的に制裁を受けている」という意味では(中ロの間には)被害者同士の連帯感があると氏は言います。

 それが今般の中露共同声明にも盛り込まれているが、中でも「NATOの東方拡大への危機感」は、両国が共有しているものの一つ。中国はNATOの東方拡大が、中国の裏庭である中央アジア諸国に及ぶのを警戒し、上海協力機構を設立しているということです。

 さて、わが国の岸田首相がウクライナを訪問したのは、まさに中ロ両国の首脳が共同声明を出している時だった。ポーランドから陸路に変えたのは、ウクライナが制空権を持っていないためで、それはアメリカが戦闘機を供与していないから。結局のところ、戦争レベルの許容度は「基本、アメリカが決めている」というのが氏の認識です。

 一方そのアメリカは、習近平提案の「和平論」によって停戦するのを断固阻止しようとしている。そして、アメリカの思惑通りに動いている岸田首相は、その意味で「中露の話し合による停戦には応じない」というアメリカの戦列に加わっており、そのことを「誇り」に思っているようだと氏はしています。

 岸田首相は、NATOを東アジアに引き込んでくる役割をバイデン大統領から与えられ、それを忠犬のように「誇らしく」実行しようとしている。しかし、これまでも(「自由主義」の名のもとに)多くの戦争を仕掛け数えきれないほどの人命を犠牲にしてきたアメリカにとって、次に「ターゲット」になるのは(もしかしたら)日本かもしれないというのがこの論考で遠藤氏の指摘するところです。

 中国を、何としても台湾武力攻撃をせざるを得ないところに追い込んで、その最前線で日本人に戦わせる。ウクライナ同様、アメリカ兵を戦わせることはせず、実際に戦場で血を流すのは(ウクライナ人同様)日本人となる可能性もある。そしてそのことが岸田首相には見えていないようだというのが、現状に対する氏の見解です。

 CIA長官やバイデン大統領の言うことを聞いて、今まさに「戦争継続」を煽る戦列に並ぼうとしている日本政府。一方では、発展途上国や新興国を味方に付けている中露陣営が、「話し合いによってウクライナ危機を解決しよう」と呼びかけるという(何とも皮肉な)状況が生まれていると氏は言います。

 先進国連盟が「戦争継続」を主張して、「ウクライナの完全勝利まで停戦しない」と叫んでいる。もちろん、プーチンが攻撃をやめればそれで済むだろうと言いたくはなるが、今となっては習近平に「強制終了」してもらうのを(心のどこかで)待っているのかもしれないとこの論考を結ぶ遠藤氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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