MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2620 少子化対策としてまずすべきこと

2024年08月12日 | 社会・経済

 昨年の12月11日に政府の「こども未来戦略会議」(議長・岸田文雄首相)がまとめた「こども未来戦略」。岸田政権が鳴り物入りで進める「異次元の少子化対策」の目玉の一つとして、「3人以上の子どもを育てる家庭に対して大学の費用を無償化する」という施策が打ち出されています。

 勿論、子供2人の場合は蚊帳の外。人口減少を食い止めるには、合計特殊出生率を人口の維持が可能な2.07を達成する必要がある。そのためには、世の女性たちに(どうしても)「第3子」産んでもらう必要があるということなのでしょう。

 しかし、今のご時世、(政府が推奨するように)若い夫婦が正規雇用で働きながら3人の子供を大学まで育て上げるのがどれだけ大変なことかは想像に難くありません。それなりのパワーカップルであるとか、親がすぐ近所に住んでいるとか、環境にも相当恵まれなければ踏み切れない決断かもしれません。

 もはや戦前の大家族ではないのですから、子供の面倒を見てくれる人はそう簡単には見つかりません。いくらお上から「産めよ、増やせよ」と言われても、現実的には二の足を踏むカップルも多いことでしょう。

 そもそも、日本の少子化の原因は、結婚した夫婦が子供を3人以上産まなくなったからなのか?6月27日の総合情報サイト「Newsweek日本版」に、教育社会学者の舞田敏彦氏が「日本の夫婦が生む子どもの数は70年代以降減っていない」と題する一文を寄せていたので、参考までにその概要の一部を小欄に残しておきたいと思います。

 第3子を出産した家庭に祝い金を支給したり、児童手当を手厚くしている自治体が多い。ここで国が多子世帯の学生について大学の授業料を無償にする方針を示したのも、子どもを3人、4人と育てる家庭の負担を軽減しようという配慮からだと舞田氏はこの論考に綴っています。

 勿論その背景には、「今の夫婦は、子どもを1人、多くても2人までしか産まない」「少なく産んで大事に育てる考えが広まっている」という認識がある。実際、「子を1人育てるのに何千万円」という試算を聞かされ、第2子・3子の出産を控えようとする夫婦もいるだろう。こうしたことから、「少子化が進むのは夫婦が産む子どもの数が減っているためだ」といった意見もしばしば耳にするということです。

 しかし、実際のデータを当たってみると、そうとばかりも言えないと氏はこの論考で話しています。出生数は、第2次ベビーブームを過ぎた1970年代半ばから減少の一途で、2022年では77万人にまで減っている。そして、このうち第3子以降は13万人で、割合にすると17.4%とのこと。

 実はこの数字、これまでの他の時期と比べると、低いとは言えない。むしろ高いほうの部類だというのが舞田氏の指摘するところ。あえて言えば、氏が生まれた1970年代半ばの頃よりも、今の夫婦のほうが第3子以降を多く産んでいるということです。

 既婚女性ベースの出生率でみても、過去最低というわけではないと氏は続けます。30年ほど前の1990年では、20~40代の有配偶女性は1861万人。出生数は上表にあるように122万人なので、出産年齢の既婚女性100人あたりの出生数は6.56人。2022年の同じ数値は6.84人で、これよりも若干多いということです。

 過去との比較において、夫婦が産む子どもの数が減っているとは一概には言えない。むしろ近年では微増の傾向すらあるというのが氏の見解です。

 何故こうした状況が生まれているのか。それは若い世代の未婚化が急速に進んでいるから。未婚率の高まりにより、結婚している(できている)夫婦の割合は小さくなっているが、それは「選ばれし層」しか結婚できないという状況がもたらしているのではないかと氏は説明しています。

 データで見ると、6歳未満の子がいる世帯の年収中央値は、2007年では528万円だったのが2022年では692万円にまで増えている(総務省『就業構造基本調査』)とのこと。東京に限れば650万円から946万円と、15年間にかけて300万円近くも増えており、国民全体が貧しくなっているのとは裏腹に、子育て世帯の年収は大きく上がっているということです。

 今では、少ない年収では(出産につながる)結婚すらおぼつかない。「結婚」に対する階層的閉鎖性が強まっていると氏はしています。少子化対策に当たって、子育て世帯の負担の緩和が重要であるのは確かだろう。しかし、高いハードルを越えた「選ばれし層」だけを支援の対象にしていては、その効果にも限界があるというのが氏の指摘するところです。

 全国民から徴収する(話題の)「少子化支援金」にしても、この部分だけに注がれるとしたら、持たざる者から持てる者へとお金を流してしまうことになりかねないと氏は言います。(結婚・出産・子育てができるような階層だけでなく)未婚者層をも含む、若者全体を支援の対象として見据える必要があるということです。

 増税もあり、今の若年層の可処分所得は減っている。社会保険料の負担増などで少なくなった手取りから重みを増した消費税で日々の買い物をし、学生時代に借りた奨学金の返済もあったりして、(多くが)結婚どころではないと氏は言います。

 そんな彼らに必要なのは、まず、減税をして彼らが自由に使えるお金を増やすこと。人生のイベントアワーにある若年層の可処分所得を増やすことは、昨年に策定された「こども未来戦略」の基本理念にも示されているということです。

 子育て負担を減らすだけでなく、若者の生活意識を総合的に底上げ・活性化しなければ、根本的な解決策にはつながらないということでしょうか。もしも本気で少子化を食い止めたければ、まずは若者層の可処分所得を増やすことに力を注ぐべきと(ストレートに)話す舞田氏の指摘を、私も興味深く読んだところです。



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