
新型コロナウイルスの感染拡大が続く中、小売業、旅行業、飲食業などを中心に経済への影響が次第に顕在化するようになってきています。
さらに、年度末の日本銀行の調査では、製造業を中心とした大企業の景況感の指数も7年ぶりにマイナスへと転じており、インバウンドが減少した宿泊・飲食サービス業に限定すれば実に70ポイントの折り込みを見せ、過去最悪の数値となっています。
トヨタ、ホンダ、日産を含め、日本経済を引っ張って来た国内の自動車メーカー8社は、世界的な自動車需要の落ち込みを踏まえ国内での自動車生産を既に休止している状態です。
世界規模での先行きの不透明な経済状況に伴い、非正規を中心に雇用も悪化の兆しを見せています。今春の内定者の採用取り消しを決めた企業も相次いでおり、厚生労働省によれば、3月31日までに(新型コロナウイルスの影響で)内定取り消しとなった人は少なくとも58人、雇い止めや解雇された人は1160人に及ぶとされています。
ここ数年、団塊の世代の労働市場からの退出やそもそも(少子化の影響による)若い世代の減少などから空前の売り手市場となっていた新卒者の就活ですが、このような状況が続けば「やっぱり公務員」「安定が一番」などと言う声も再び上がってくるかもしれません。
新卒者に対する民間企業の待遇が良くなり、ここのところ年々公務員試験の受験者数は右肩下がりとなってきたようですが、今回の新型コロナウイルス騒動により国家公務員や地方公務員を志望する学生が再び増えてくるとみる向きも多いようです。
実際、6月18日の日経新聞は、コロナで景気の不透明感が増す中、首都圏を中心に公務員への就職志望者が増えていると報じています。
東京都は一般行政職の採用試験で申し込み倍率が4年ぶりに前年度を上回り、千葉県や埼玉県、横浜市や相模原市などでも軒並み受験申込者数が増えているということです。
これまでも様々な景気の動向に左右されて来た公務員人気ですが、その一方で、「親方日の丸」と言われて来た役所勤めがこれから先も本当に安定した職場でいられるのかはいささか疑問の残るところです。
そんな折、4月3日の経済情報サイトPRESIDENT ONLINEには、千葉商科大学准教授の常見陽平氏が「公務員になれば一生安泰神話はもう崩壊している」と題する興味深い論考を寄せています。
日本の官僚は、出世が遅く給料も安い。しかも将来に先行き不透明感が漂う。霞ケ関が「ブラック職場」と評される中、東大生の官僚離れがしばしば話題になるが、それもまっとうな判断の結果だろうと常見氏はこの論考に記しています。
公務員が安定していると言われるが、もし公務員として就職したとして、あなたは一生公務員でいられるのだろうか?概してそうとは言い切れないというのがこの論考における常見氏の認識です。
地方公務員は安定していると思い就職しても、その自治体自体が地盤沈下する可能性は大いにある。官僚についてもそう。これまでも官公庁は「行政改革」の名の下に再編を繰り返してきたが、今後も再統合の動きは否定できないと氏は説明しています。
国鉄、電電公社、専売公社、郵政の民営化の他、国立大学の法人化などに続き、国営、公営事業の民営化の動きがまだまだ広がっていく可能性もあるということです。
いずれにしても、現状、公務員が担っている業務を民営化、外部化させていくことは、既に大きな流れとしては決まっている。なので(一旦公務員になったからといって)常に仕事があると思っていて良いわけではないと常見氏は言います。
さらに、キャリア組はともかく、一般職などに関してはAIに置き換わる可能性だって(大いに)ある。経理や係数処理などのルーチン業務は、ウェブ化、AI化の流れにより雇用が激減してもおかしくないということでしょう。
これから20年、30年先のことを考えれば、試験に合格して公務員になったところで、自分たちの仕事がなくなっていくリスクと向き合わなくてはならない。目の前にある現実をみただけでも、既に安定とは程遠いというのが常見氏の見解です。
さらに、キャリア形成に関する環境が不安定であることが、公務員にとっては(再就職を妨げる)大きな壁になるだろうと氏は続けます。
無期無限定の日本的雇用システムにどっぷりつかる公務の職場では、必ずしも専門性が磨かれないし個人の生活上の事情もスルーされる。その古きよき、そしてその悪しき働き方が温存されているのが公務員の働き方だというものです。
さて、メディアでは「官僚」「役人」と括られ、叩かれまくる彼ら公務員も、一緒に仕事をしてみると大変に聡明な上、使命感が強い人が多い。さらに大胆なプランを提案する「攻めている」公務員も多く、既にその実態は大きく変貌しつつあると氏はこの論考で指摘しています。
実際、官僚たちは実にユニークなプランを多様な人を巻き込んで実現している。「攻めてるな…」と感じることも多く、「堅物」「保守的」という官僚、役人像は既にそこにはないということです。
また自治体においても、地域のB級グルメ、ゆるキャラのPR、スポーツチームの誘致や運営まで、職員の仕事の中身は依然とは大きく変わっていると氏は説明しています。
そして、そんな彼らと接していて切なくなるのが「異動」の存在だということです。公務員には必ず異動がある。しかも、必ずしもこれまでの専門分野とは関係ない部署に3年、4年ごとに異動して、またそこで新しい仕事にガッツを持って取り組んでいくということです。
そんな彼らを見ていて、「今、最もロックなのは公務員志望の君だ!」と言いたいと氏はこの論考に綴っています。
このように多様な経験を積むことができる一方で、(市役所や町村役場を除けば)必ずしも地元で働くことができるわけでも、専門性が磨かれるわけでもないのが、公務員の仕事である。
実際に、公務員の仕事を見たうえでみた上で、「安定しているから公務員」という若者にはそうではないことに気づいてもらいたいというのが、この論考で氏が強調しているところです。
一方で、ハイリスク・ローリターンなのにも関わらず、国や地域に貢献したいと言う若者たちはまるで青年社会起業家のようだと氏は言います。
今さら安定した仕事でも、未来が約束しているわけでもない公務員に進む若者を見ていると「ロックだな」と思う。よく「もう一度、就活するならどこに行きますか?」と言われた時、私の選択肢の一つは「公務員」だとこの論考を結ぶ常見氏の指摘を、私も大変興味深く読んだところです。
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