MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2243 中高年男性の自己肯定感

2022年08月31日 | 日記・エッセイ・コラム

 内閣府が2019年に実施した「ひきこもり」の人たちの実態調査「生活状況に関する調査(平成30年度)」によれば、全国で、いわゆる引きこもり状態にある中高年(40~64歳)は61.3万人程度に及ぶとされています。

 報告書は「大人のひきこもり」が増えている要因として、1990年代半ばから約10年にわたって続いた就職氷河期で新卒採用が大幅に抑制され正社員になれない若者が社会に出るタイミングを逸し、そのままひきこもりになっている例などを挙げています。

 学校でいじめにあった。就職しても長続きしない。人間関係が上手くいかずに出かけるのがおっくうになり、そのうち外に出る自信も失って気が付けば何年も引きこもり状態で暮らしている。そんな中高年が、あなたの隣にもひっそりと暮らしているということでしょう。

 さらに、この報告書で指摘されているのが、中高年のひきこもりには顕著な「男女差」があるということです。調査結果を見ると、中高年の引きこもりには男性が76.6%、女性が23.4%と圧倒的に男性が多いことが判ります。「就職氷河期」がきっかけならば、男女共に新卒採用は抑制されているはずなのですが、これほどまでにひきこもりの数に性差があるのは一体どういうわけなのか。

 7月29日の「東洋経済ONLINE」で紹介されていた医学博士で株式会社「脳の学校」代表の加藤俊徳氏の近著『脳の名医が教えるすごい自己肯定感』では、(この問題に関し)人の行動に「自信」を与える「自己肯定感」には、実は大きな男女差があると説明しています。(『年齢が高い男性ほど自己肯定感が低い納得の訳』(2022.7.29)

 自己肯定感の低さに悩む多くの人に、「自己認知が弱い」という共通点があることは広く知られている。「自己認知」とはありのままの自分を認識し受け止めることであり、この自己認知が弱いと、本来はその人の特性であり個性であるものでさえもマイナスとして捉えてしまうと加藤氏はこの著書に記しています。

 そして、氏が医師として多くの人を診る中で気づかされたのは、自己認知に関しては男女で大きな違いがあるということ。一言で言ってしまえば、男性は女性に比べて自己認知力が弱い…言い換えれば、自己に関して女性ほど関心がないように感じるというのが臨床医としての加藤氏の見解です。

 では、それはなぜなのか?(おそらくは)男性と女性の社会的な立場や環境の違いが大きく影響しているのだろうと、氏は推測しています。

 男性はそもそも、初めから社会に出て仕事をすること、仕事をして収入を得てそれで家計を成り立たせることを前提として成長している。自分への評価は(少なくとも男性社会では)肩書や地位、収入によって明確に下されるものであり、自分の価値は、それらの社会的な尺度である意味ハッキリと示されるということです。

 一方、女性はどうかというと、男性ほど社会的な評価の軸が定まっていないと氏は言います。歴史的には、女性は家庭を守ることが役割とされてきた。家族からの信頼や愛情を受けることはあっても、男性のような目に見える形での社会的な評価というのは乏しい環境にあった。

 さらに、女性の社会進出が言われる中で、仮に男性と同じような、あるいはそれ以上の能力があっても、なかなか正当に評価されないという状況もある。そこで女性は、(社会的な評価に頼ることができないぶん)自分で自分を見つめ、自己評価せざるを得ない環境だったというのが氏の認識です。

 そうしたこともあり、自己認知力は、はるかに女性のほうが男性よりも高いと氏はここで断じています。

 自己肯定感というのは、自己認知をもとにしたもの。男性は社会の基準に身をゆだね、それによって自分の価値を測ることにすっかり慣らされてしまった。それゆえ女性のほうが、自己肯定力も自己肯定感も高いということです。

 男性は、女性ほど自己認知に意識を向けない。そのため、そもそも自己肯定感を育むのが苦手な生き物だと氏は話しています。

 男性の場合、自己認知ではなく「他者認知(=社会評価で自分を判断する傾向)」が強いといえる。男性が社会でバリバリと働いているうちはそれでもとくに問題はないが、定年を迎えそれまで自分が属していた集団から離れると、途端に自分の評価のよりどころを失ってしまうというのが氏の感覚です。

 自分なりの価値基準や評価基準で、自分を判断することに慣れていない多くの熟年男性は、(定年とともに)突然、自己評価、自己認知の必要に迫られることになる。 自分とはどういう人間で、どんな価値をもっているのか?自分が好きなことは何なのか?突然突きつけられるこれらの問題に、即答できず途方に暮れてしまう男性も少なくないということです。

 それに対して、中高年の女性たちは元気いっぱい。若いときから自己認知によって自己評価せざるを得なかった彼女たちは、こうした問題を若いときから自分に突きつけ続けてきた。そのなかで自己を見つめ、自分の特徴や長所をひそかに磨いてきた結果、心の余裕と自由度が増し、年を取るほど自己肯定感が高まっていると氏は指摘しています。

 子育てが終わって自由な時間が増えたら何をしたいか、多くの女性たちは明確な目的と方向性を持っている。積極的に前向きに人生を楽しみたいという気持ちであふれているのは熟年女性のほうが圧倒的に多いというのが、この著書で加藤氏の指摘するところです。

 毎日の化粧をするたびに鏡に向き合い、何十年間も自分を見つめてきた女性たち。

 今日は何を着てどのようにふるまうべきかを考え、自分のポジションを自ら作り上げてきた彼女たちと、地位や名誉、収入といった形で明確に序列化され、(「今の君のポジションはこの辺ですよ」と)他者から言われ続けた男性とで、心持ちや覚悟が異なるのは当然の成り行きでしょう。

 自分を測る物差しがなければ何もできない。誰かに評価してもらわなければ自信がない。(気が付けば還暦を超え)そうした(家の中に引きこもりたくなる)中高年男性の気持ちもわからないではないと感じる今日この頃です。

 



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