MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯1645 結婚と寿命(その2)

2020年06月12日 | 日記・エッセイ・コラム



 6月10日のNewsweek日本版に掲載されていた「日本の未婚男性は長生きしないのに、女性は既婚より未婚の方が長生きする不思議」と題するレポートにおいて、筆者で教育社会学者の舞田敏彦氏が興味深い指摘をしています。

 それは、未婚の男性は結婚している男性よりも短命な一方で、結婚している女性は未婚の女性よりも寿命が短いというもの。

 厚生労働省の人口統計によれば、有配偶男性の死亡年齢中央値は(2018年現在)81.3歳で未婚男性の66.3歳より15年も長いが、女性の死亡年齢中央値は未婚者が81.9歳、有配偶者が78.3歳で未婚者の方が3.6歳長いと氏は指摘しています。

 氏はこのレポートで、未婚男性が短命な理由として、食生活をはじめとした生活習慣が乱れやすいことなどを挙げています。また、未婚女性よりも有配偶者女性の方が短命な理由には、出産による身体への負荷や男性に比べ家事の負担率が高いことなどが考えられるということです。

 そう言われればそうなのかもしれない。女性には我が身を削って子育てや家事をしてもらっているのかと思えば、本当に申し訳ないことをしていると反省の意を強く持った男性読者も多いことでしょう。

 さて、それはそれとして。今回、舞田氏が示した婚姻属性別の死亡年齢(中央値)のデータに、ちょっとした違和感を感じているのは私だけではないでしょう。

 例えば、一般に男性よりも女性の平均寿命の方が6年以上長いのに、なぜ有配偶者男性の死亡年齢中央値(81.3歳)よりも有配偶女性の死亡年齢中央値(78.3歳)の方が低いのか。未婚男性の死亡年齢中央値(66.3歳)と、未婚女性の死亡年齢中央値(81.9歳)との差が15年以上あるもの気になるところです。

 もちろん統計数値に間違いはないのでしょうが、さらに言えば、1980年の死亡年齢の中央値が未婚男性で37.1歳、有配偶者では70.0歳と2倍近い差があることや、有配偶者女性の死亡年齢の中央値が64.8歳と男性の有配偶者のそれより5年以上若いなど、一般的な常識とはかなり違った姿を見せているようにも感じます。

 そもそも「未婚男性・未婚女性の死亡年齢」と聞けば、私たちは「ずっと独身で来た人が歳をとって亡くなる年齢」と受け止めがちで、また「有配偶者男性・女性の死亡年齢」と聞けば、「若い時に結婚して配偶者がいる生活をしてきた人が亡くなる年齢」と捉えがちです。

 一方、厚生労働省の人口動態統計から拾われているとされるこのデータが示す数字の属性が、例えば「死亡時に配偶者がいなかった人」を「未婚」、「配偶者に看取られて亡くなった人」を「有配偶者」と位置付けていたらどうでしょう。

 振り返れば、1980年に「高齢者」だったのは、明治の終わりから大正にかけての日本に生を受けた、いわゆる「戦中派世代」の方々です。もちろん、彼らの多くが結婚をしており、団塊の世代の親たちとなっていた。一方、戦争の影響もあって、平均寿命に関しては女性の方がはるかに高かったのもひとつの現実と言えるでしょう。

 さて、そうした中で「独身」として亡くなる男性のボリュームゾーンと言えば、(団塊ジュニア世代を形成していた)子供たちか暴走族などをやっていた結婚前の若い人、あとは妻に先立たれた中高年男性ということになってきます。

 さらに、そこに(当時は)高齢者の数や割合が現在よりもずっと少なかったことを計算に入れれば、1980年時点での未婚男性の死亡年齢の中央値が37.1歳と極端に若くなっているのも頷けようというものです。

 また、ほとんどの成人男女が結婚していた当時、有配偶者として亡くなる女性(つまり御主人よりも早くに病気や事故で無くなる女性)は、現在よりもかなり少数派だったはず。

 当時も、男性よりも平均寿命の長い女性の多くがご主人と死別後に「独身」として亡くなっていたことを考えれば、有配偶者女性の死亡年齢の中央値が、同じく有配偶者として亡くなった男性より5年以上若くてもそれほど不思議ではないと思われます。

 いずれにしても、(そう考えれば)現在、未婚男性の死亡年齢の中央値が66.3歳と低いのは若年のうちに未婚で亡くなる男性を含んでいることが大きな要因で、有配偶者のそれが81.3歳と高いのは、奥さんに看取られて天寿を全うできた幸せな男性を多く含んでいるからと考えるのが妥当な線かもしれません。

 また、未婚の女性の死亡年齢の中央値が81.9歳と有配偶者女性の78.3歳よりも高いのは、(未婚女性が有配偶者女性よりも苦労していないから長生きできたのではなくて)ここでいう「未婚女性」には旦那さんが亡くなった後もしばらく頑張って、天寿を全うされた高齢女性を多く含んでいるからということになるでしょう。

 さて、このレポートに示されたデータからだけでは何とも言えませんが、いずれにしても統計数字には(細かく見ていけば)いろいろな読み取り方があるのも事実です。

 少なくとも、本当に家事や子育てをすることで女性の寿命が(本当に)有意に削れらているのであれば現在の日本の少子化は当然の成り行きであり、政府が総力を挙げて政策的な対応をすべきなのは言うまでもありません。

 よくよく分析してみる必要がありそうです。



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