多様な働き方の実現、リカレント教育の環境整備などの観点から、政府の経済財政諮問会議において(希望者が週3日休めるようにする)「選択的週休3日制」の導入の議論が始まったとの報道がありました。
今年4月には自民党内に設置された一億総活躍推進本部も選択的週休3日制の導入支援を政府に提言しており、6月に策定される予定の政府の「骨太の方針」(経済財政運営と改革の基本方針)にも盛り込まれる見込みとされています。
日本で週休二日制が一般に浸透するようになってから30年以上の月日を経て、いよいよ週休三日制が具体的に議論されるようになったかと、感無量に思う向きもあるかもしれません。
選択的週休三日制が導入されれば、育児・介護、治療、学業、ボランティア、兼業・複業など、様々な事情を抱える人々にとって仕事との両立がしやすくなる。企業は企業で人材の確保をしやすくなり、雇用者のスキルアップによって生産性の向上が見込めると考えられています。
また、経済全体で見たときには、週休三日制の導入によって休日が増加することで、休日(余暇時間)の増加による「消費拡大効果」が生まれると期待する向きもあるようです。しかし、(もちろん)休日の増加による労働時間の短縮によって収入が減るのであれば、個人消費にマイナスの影響を与えることは明らかです。
日本でも(既に)いくつかの企業が週休三日制を導入していますが、(問題の)給料の扱いについては主に(以下の)2つのパターンがあるようです。
ひとつは、みずほフィナンシャルグループなどが実施している「給与は減るが1日あたりの労働時間は変わらない」というパターン。そしてもう1つが、ユニクロを運営するファーストリテイリングなどが実施している、「給料は変わらず、その分、1日分の労働時間が平日に振り分けられる」パターンです。
「休んだ分は給料が出なくなる」もしくは「1日の労働時間が長くなる」という現実に、「なーんだ…」とがっかりする声も聞こえてきそうですが、具体的な検討が進むこうした週休三日制には(企業や労働者にとって)いくつかのメリットとデメリットがあるようです。
6月4日の日本経済新聞の投稿欄「私見卓見」では、インターネット広告を手掛けるサイバーエージェント社専務執行役員の石田裕子氏が、「週休3日制、導入の課題」と題する寄稿を行っています。
議論が進む(希望者が会社を週に3日休むことができる)「選択的週休三日制」の導入に関し、多様な働き方を実現できるようになる制度は本来歓迎すべきだというのが石田氏の基本的な立場です。
多くの会社が社員一人ひとりの働き方について真剣に考え、そのための環境を構築していく必要があることは疑いがない。しかし、制度を導入すること自体がゴールではなく、大事なのは制度の目的や運用、定着させる方法なども含めて考え実行することだと、氏はこの論考で指摘しています。
これらを明確に定義しないうちは、安易に導入を判断することは避けた方がよいというのが氏の認識です。
週休三日制を導入した場合、育児や介護などの事情を抱える人も仕事を続けやすくなるメリットがある。趣味など自分の時間を確保できるし、資格取得、スキルアップのための勉強に時間を使える。副業などもしやすくなるだろうと氏は言います。
従業員がワークライフバランスの実現をしやすくなれば、企業にとっても優秀な人材の確保につながる。満足度が高まり、離職率も抑えられるということです。
ただし、従業員にとっては給料が減ったり、出勤日1日あたりの労働時間が増えたりするというマイナスの要素が生じる可能性もある。社内や取引先とのコミュニケーション不足、情報共有の不足が発生するかもしれないし、従業員の会社に対するエンゲージメント(愛着心)が下がる可能性もあると氏は説明しています。
単に休みを増やすだけでは、従業員の収入は減るだけとなってしまう。さらに、少子高齢化が進み労働者の確保が一段と難しくなっていく中、企業が週休3日制の導入を実現するには「生産性の大幅な向上」が不可欠だというのがこの論考における氏の見解です。
無駄な仕事を減らし、少ない人数で効率的に仕事をする体制に変えない限り、導入は難しい。また、例え制度や仕組みを整えても、その制度を利用しやすい雰囲気を社内に醸成していかないと、確実に定着していかないだろうということです。
今、各企業で行うべきは、制度導入の議論よりも解決すべき社内の課題を明確化し、解決策を模索していくことだと氏はこの論考に綴っています。
週休三日制の導入は、その延長線上の議論において判断されるべきもの。そして導入する際には、社員に使われる制度として機能していくための風土を築いていく必要があるということです。
さて、週休三日制の導入が(もしも)このままの状態で広がっていったら、ごく一般のサラリーマンの生活はどのようになるのか。
1週間に5日働くとして、その中には1日中仕事に忙殺される日もあれば、半日くらいはデスクでゆっくり過ごせる日だって(フツーのサラリーマンなら)週に1日や2日はあるはずです。曜日によって、また週によって、繁忙期もあれば閑散期もあるのが普通の勤め人の姿ではないでしょうか。
一方、そこにもしも週休三日制が導入され、同じ仕事を週4日の勤務時間の中でやれと言われればどうでしょう。
(きっと)できないことはないかもしれません。始業から就業まで、目の前の仕事に集中し目を三角にして頑張れば、(たぶん)同じような成果は上げられそうです。
しかし、仕事としての持続可能性や創造性を考えれば、そこが幸せな職場でないことは明らかです。そこでさらに、くたびれ果てて疲れて帰った後の(給料も出ない)空いた時間を「資格取得」や「スキルアップ」に使えと言われても、やってられないというのが本音なのではないでしょうか。
「多様な働き方」と言えば聞こえばよいが、そこに従業員への愛がなければただの労働強化で終わってしまう。そんな可能性を大いに秘めた週休三日制の導入には十分な注意が必要ではないかと、氏の寄稿から私も改めて感じたところです。
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