MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#1914 効率的なコメづくりを進めるために

2021年07月25日 | 社会・経済


 ゴールデンウィークも終盤に差し掛かったある日、友人の誘いを受け、初夏の日差しで汗ばむ陽気の中を生まれて初めてグライダーという乗り物に乗りました。
 印旛沼にほど近い河川敷から離陸し、関東平野を流れる利根川に沿って上昇気流を探しながら舞い飛んでいく。筑波山や成田空港を遠目で目で見ながら、眼下の田園風景を静かな風の音を聞きつつ眺めるのは、これまで知らなかった全く新しい体験でした。

 折しも、見渡す限りに広がる水を引いたばかりの田圃では、農家の皆さんによる田植え作業の真っただ中。大区画にきれいに整備された水田のあちらこちらで、大型のトラクターや田植え機が効率よく動いている様子が手に取るようにわかります。
 実は、水を引いた水田の上空には上昇気流が生まれにくく、(友人によれば)そこをうまく避けつつ住宅地や森林の上を選んで飛ぶのが、この季節のフライトのコツだということでした。

 こうして上空から眺めると、このあたり一帯の農地には既にかなりの投資がされており、きれいに整備された農業基盤の上で、大規模営農によって農地が効率よく耕作されていることが改めて気づかされます。
 地域の農家が総出で田植え作業に追われるというような以前の姿はもうなく、トレーラで持ち込まれた大型の農機具が一定の間隔でくるくると動いている。おそらくその中には、GPSを備え半自動的に動いている最新鋭のトラクターなども混じっていることでしょう。

 さて、戦後の農地解放を経て、私たちは、日本の農業の中心となっているのは兼業農家であり、その多くが耕作面積が(一戸当たり)おおむね1ha前後の小規模農家だと、社会科の時間に教えられました。
 そうした中小零細農家によって支えられてきた日本の農業も、その後の後継者不足、担い手不足の中でいよいよ営農がかなわなくなり、全国的に耕作放棄地が増えています。しかしその一方で、(関東平野などの条件の良い一部の地域では)こうして農業生産の集約化が順調に進んでいるのでしょう。

 5月26日の日本経済新聞は、「コメ生産、集約化進む」と題する記事を掲載し、水田を中心に大規模生産が進む日本の農業の実態を伝えています。

 コメ生産の現場では、生産者の大規模化が進んでいる。農林水産省によると水田で15ヘクタール以上稲作をする生産者はこの5年で4割増えていると、記事はその冒頭に記しています。
 農水省がまとめた農林業センサス(2020年)によると、規模な農地の目安とされる15ha(東京ドーム3.2個分)以上の農地に水稲を作付けする経営体は1万2193に及ぶ。団塊世代の高齢化による離農や規模縮小が集約につながり、前回調査(2015年)からの5年間で、実に38%増えたということです。

 一般に、農地は面積が広くなるほど大型トラクターなどを使った機械化を進めやすく、作業の効率化につながると記事は説明しています。しかし、日本は戦後の農地改革で小規模農家が多く生まれ、耕地面積の狭さが営農コストの引き下げを阻んできた。そして、一定の大規模化が進んでいる現在でも、大規模化は営農コストの下落になかなかつながっていない現状があると記事は言います。

 農業経営統計調査によると、稲作の作付け規模別の10a当たりの全算入生産コスト(個別経営、全国平均、2019年産)は3~5haで11万9880円、5~10haになると10万9741円と1万円超(8.5%)圧縮されるということです。しかし、これが10~15haでは10万3789円と5952円(5.4%)減。15ha以上では9万8374円と、5415円(5.2%)のマイナスにとどまるというのが記事の指摘するところです。

 その背景にあるものの一つが「農地の分散」だと記事はしています。同調査では15ヘクタール以上の1経営体あたり、10アール未満の農地数は2019年で31.9枚で、2012年の12.2枚から大幅に増えていることが判ります。後継者の減少から、大規模化の過程で別の集落の農地を譲り受けたりするケースが増えているのだということです。

 また、記事によれば、隣接する水田のあぜを残したまま、耕作を引き受ける場合もあるとされています。面積が増えても1農地あたりの面積は小さく、機械化などの障害になる。田植え作業の時間(10a平均)でみると、5~10haで2.07時間、10~15haで2.03時間だが、15ha以上は1.95時間と労働時間はあまり減らないのが現実だということです。

 大規模化の成果を出す、果実を得るためには、ただ単純に経営面積の拡大に走るばかりでなく、使い勝手の良い農地づくりへ政策などの支援も必要になってくるということでしょう。

 折しも農林水産省では、目標策定を市町村などに義務付けるよう関連法を見直したり、交付金削減などのペナルティーを導入したりするなど、農地集約のルール見直しに着手するとされています。年内にも具体策をとりまとめ、来年の通常国会に農業経営基盤強化促進法の改正案提出をめざすということです。

 後継者不足によって、相続による農地の分散や耕作放棄地の増加が懸念される中、法制化で大規模集約を促し、農家や農業法人の経営基盤を強化することは重要な意味を持つことでしょう。
 であれば、併せてこの機会に、行政などの関係機関には農地を引き継ぐ大規模経営体がより効率的な営農を継続できるよう、一定の調整機能を果たしてほしいと改めて感じるところです。



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