総務省が発表した2021年の「家計調査」によると、2人以上の世帯の平均貯蓄額は前年比5・0%増の1880万円。3年連続して増加しており、比較可能な2002年以降で過去最高を記録したと5月10日の朝日新聞が報じています。
総務省統計局によると、21年は外食やパック旅行などの支出が減少したとのこと。コロナ禍で消費活動全体が縮む中でこうした教養・娯楽関係の支出が減り、預貯金に回ったと見られるということです。
一方、負債額の方も年間の平均で567万円(△0・9%)減っていて、貯蓄額から負債額を差し引いた純貯蓄額を世帯主の年齢別にみると、60~69歳が2323万円で最も多く、次いで70歳以上が2232万円だったとされています。
世帯当たりの貯蓄額が平均でも1900万円近くあり、しかもコロナ禍の下でそれが1年間で5%も増えていると聞けば、一体何のための(国民一人当たり10万円の)給付金だったのかと訝しくもなりますが、「あるところにはある」ということばかりでなく、「不安だからこそ貯め込むという」心理もあるのでしょう。
こうした状況は(どうやら)日本ばかりのことでなく、米国を中心とした世界各国で家計の貯蓄が積みあがっているとの話も聞きます。コロナ禍の下で増えた貯蓄は、今後どこへ向かうのか。果たして、リベンジ消費はあるのかないのか。5月17日の日本経済新聞が、「「コロナ貯蓄」日本50兆円 米300兆円、インフレ要因に」と題する記事を掲載しています。
日銀の試算では、国内で消費されずに貯蓄に回った額は2021年末時点で約50兆円と、わずか1年で2.5倍に膨らんだ。新型コロナウイルス禍で消費が滞り、家計に貯蓄が積み上がっていると記事はその冒頭で指摘しています。
貯蓄が物価高の痛みを和らげ、個人消費を押し上げるというのが日銀のシナリオ。しかし、実際にはシナリオ通りに物事は進まず、将来不安からさらに貯蓄が積み上がる可能性があるというのが記事の懸念するところです。
記事によれば、日銀ではコロナによる移動制限などを受け、可処分所得のうち半ば強制的に貯蓄に向かった金額を推計しているということです。21年4月の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」によれば、その額は20年末時点で約20兆円。日銀は、「感染症が収束に向かう過程でその一部が取り崩され、個人消費を押し上げる可能性がある」と分析していたと記事はしています。
しかし、この「展望リポート」から1年間、日本は断続的なコロナの感染拡大に見舞われてきた。度重なる緊急事態宣言や長期にわたるまん延防止等重点措置で、「コロナ貯蓄」は3月末時点で55兆円程度まで膨らんだということです。
一方、海外でも貯蓄は積み上がっている。日本総合研究所の試算によると、米国ではコロナ禍で消費に回らなかった過剰貯蓄がすでに2.4兆ドル(約310兆円)超に達していると記事は言います。
これは、米政府がコロナ対策として1人あたり合計で最大3200ドル(約41万円)もの現金給付を行い、失業保険の上乗せを景気回復局面でも続けた影響が大きい。そして米国では、このような貯蓄が個人消費を下支えしているというのが記事の認識です。
需要回復と供給制約が重なり、約40年ぶりのインフレに見舞われているにもかかわらず、米国の1~3月の実質個人消費は前期比で年率2.7%も増えている。同時期のクレジットカードの利用残高は8410億ドル(約110兆円)と前年同期比で、710億ドル(約9兆円)あまり増えたということです。
対して日本は経済再開が大きく出遅れたと記事は話しています。まん延防止等重点措置が全国の都道府県で解除されたのは3月下旬。ゴールデンウィークに少しずつ人出は戻ったが、まだマスクを外せず海外からの観光客を受け入れた諸外国との差は大きいということです。
さらに日本には、高齢者を中心とした「将来不安」というハードルも横たわると記事は指摘しています。金融広報中央委員会が21年に実施した調査では、金融資産保有の目的のトップは「老後の生活資金」で、コロナ禍の下、社会保障への不安などを背景に家計が貯蓄志向を強めている状況が伺えるということです。
加えて、賃上げの動きが鈍いことも、日本の消費拡大にとっては逆風となると記事はしています。ロシアのウクライナ侵攻に伴う原材料やエネルギー価格の上昇に円安も加わり、消費者物価の上昇率は年内に2%を超えるとの見方が多い。一方、22年春季労使交渉の平均賃上げ率は2.1%にとどまるとされており、物価上昇に賃上げが追いつかなければ消費意欲は鈍るということです。
さて、欧米の(いわゆる)「リベンジ消費」と同様、日本でも個人消費がいつ戻るかが経済成長の鍵を握っているというのが記事の認識です。足元では個人消費には持ち直しの兆しもみられる。クレジットカードの利用情報を見ると、4月の消費支出は16~18年度に比べて4.6%の増加を見ており、ゴールデンウィークの人出などを見れば、滞ってきた消費活動の回復にも本格化の兆しが見られるということです。
日銀も、コロナ貯蓄が米国のように「エネルギー価格上昇による家計の実質所得減少のバッファーとして作用する」(黒田東彦総裁)シナリオに期待を寄せていると記事は話しています。
問題は、メディアの動きも含め、消費や経済活動の再開に向けた「空気」がどのように変わっていくか。コロナ貯蓄が家計の物価上昇への耐性を高め、消費を押し上げるか、将来不安に備えた貯蓄に回るのか。日本経済の行方を占う試金石となると結ばれた記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます