今年の4月から導入されることになった「リフィル処方箋」を巡り、政府と日本医師会との間で激しいバトルが続いていると、多くのメディアが伝えています。
問題のリフィル処方箋とは、症状の安定した患者に対し、一度書かれた処方箋で最大3回にわたって薬をもらうことができるというもの。患者は薬をもらうためだけの(いわゆる)「お薬受診」の手間を省けると同時に、医療機関側も医師の労働時間を減らすことができ、さらに政府も年額470億円程度の国民医療費を節約することができるという、いわば「三方良し」の政策として期待されていました。
しかし、いざ始まってみると、診療所をはじめとした地域の医療機関が利用を拒むケースが相次ぎ、中には処方箋の「リフィル可」の欄を予め削除してしまう医療機関も現れるなど、制度が浸透していかない状況が生まれているようです。
どうやらその背景には、受診者の診察料収入や処方料収入の減少、薬剤師との分業拡大に反発する医療機関の反発があるとされています。医師の働き方改革が叫ばれている昨今、「3時間待ちの3分診療」などと陰口をたたかれている状況を鑑みれば、再診料の1300円や処方料の680円などを気にするのはなんとも「けち臭い」話のような気もするのですが、地域の診療所にとって常連さんが減ることは、それほど心配なことなのでしょう。
こうした地域のお医者さんからのプレッシャーを念頭に、日本医師会の中川俊男会長は「医師法により処方県は医師にある」として、リフィル処方は慎重に取り扱うよう(つまり、「医師の皆さんは簡単にリフィル処方箋を出さないでね」と)繰り返し発言しています。
参院選挙後の7月には、医療提供体制改革の議論が本格化するとされている昨今、今回の(政府との)対立は、その前哨戦として重要な意味を持っていると考えている医師会関係者も多いのかもしれません。
さて、そんな折、「週刊東洋経済」誌の5月21日号に同誌コラムニストの野村明弘氏が、「ついに勃発!政府vs.日本医師会のバトル」と題するタイムリーな一文を寄せているのが目に留まりました。
7月10投開票と見込まれる参議院議員選挙。与野党いずれが勝利するとしても、その後しばらくは国政選挙が予定されない「黄金の3年間」になる。その間に、政府が画策する大きな改革のひとつが、医師会などの抵抗が強い医療提供体制改革だと野村氏はこのコラムに綴っています。
改革のキモとなるのは、(もちろん)「プライマリーケア」の導入だと氏は話しています。
プライマリーケアとは、国民ひとりひとりが診療科に関係なく、自身のあらゆる健康問題や疾病を一元的に管理させる総合診療医を登録し、継続的な関係を築いていくというもの。予防接種や健康診断、在宅医療はもちろん、必要に応じて行政や介護との連携、大病院の専門医への受け渡しなども担うと氏は説明しています。
限られた医療資源の下、地域の診療所や中小暴飲における総合診療医が外来などの日常的な医療を担うことで、緊急医療、特殊医療などの急性入院患者に特化する大病院と機能分担する。プライマリーケアは、手持ちの医療機関の役割を整理することで足元の超高齢社会を乗り切ろうという、政府の構想の切り札だということです。
一方、政府のプライマリーケア構想に対する医師会の反発は、(リフィル処方以上の)本格的な対立までに発展しそうだと野村氏は見ています。
プライマリーケアによく似たシステムに、現在、既に導入されている「かかりつけ医」の制度がある。実は「かかりつけ医」という言葉は日本医師会による造語で、(プライマリーケアにおける)総合診療医と機能は似ているものの、(選ぶか選ばないかも含め)「かかりつけ医は患者の側が自由に選ぶもの」、つまりフリーアクセスの原則の下にある制度という位置づけが強調されているということです。
医療へのアクセスに制限を設けず、保険証1枚あれば自由に医療機関を選ぶことができる「フリーアクセス」にこだわる日本医師会は、もちろんプライマリーケアの制度化には絶対反対の姿勢です。しかし、そうした中で今回のコロナ禍が突き付けたのは、発熱外来を拒否する診療所が続出し、結果、入院医療がパンクしたという現実だと氏は指摘しています。
実際、患者が(「熱が出たんですけど」と)いつもの診療所に行ったら、「当院の医師はあなたのかかりつけ医ではない」と受診を断られたというケースも後を絶たなかったということです。
結局、自由なアクセスどころか、医療機関サイドのみの都合によって医療に全くアクセスできない患者が続出した。そうした現実を直視し、現在、政府が検討を進めているのが、(まずは希望者を対象に)患者と総合診療医を登録して紐づける、プライマリーケアの制度化だと氏はこのコラムに記しています。
果たして、コロナ禍の教訓は、7月から始まる「黄金の3年」を使ってプライマリーケア制度の実現に結実できるのか。高齢化社会のピークを目前に控え、患者の立場に立った政治判断が求められるところです。
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