MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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♯156 人口減少社会の設計図

2014年04月29日 | 社会・経済

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 元総務大臣で前岩手県知事の増田寛也氏が4月4日の日本経済新聞に寄稿した人口減少社会における都市戦略に関する論評が、現在いくつかのメディアに取り上げられ話題を呼んでいます。

 東京圏(特に東京23区内)は政治、経済、文化、そして教育の集積効果が極めて高く、昭和30年代に始まった経済の高度成長以降60年間近くにわたって全国から若者を吸引し続けてきた結果、実に日本の全人口の約三分の一にも及ぶ3700万人が東京一極に集中する現状を生み出しています。

 先進各国では社会、経済の成熟とともに大都市への人口流入は収束していく傾向にあるようですが、こと日本においては東京圏への人口流入が現在でも止まる気配を見せていません。それどころか、今後の人口構成の高齢化に伴って、地方から大都市圏への更なる大規模な人口移動が起こる可能性が高いと、増田氏はこの寄稿において指摘しています。

 これまで若年層が流出し続けてきた「地方」は既に人口の再生産能力を失っており、大都市圏よりも一足早く高齢化が進んでいます。つまり、今後の10年、20年で順次高齢者が減り始め、人口減少がかなりの高い確率で「一気に」進んでいくだろうと増田氏は予想しています。

 一方、大都市圏では流入した人口がこれから高齢化していく過程にあり、特に東京圏では2040年には高齢化率が35%を超えるなど、現在の地方を上回る超高齢時代を迎えると考えられています。こうした中、首都圏における医療や介護サービスの供給能力不足は深刻化し、医療、介護の人材が地方から首都圏に大量に引っ張られる可能性が高いというのが増田氏の予測するところです。

 増田氏によれば、今後の日本の人口減少は、東京への人口集中と地方の人口消滅が同時に進行するという形を取り、そして、一定規模を維持できなくなった地方は、必要な生活関連サービスを住民に提供することが難しくなり最終的には消滅していくことになるだろうと見ています。そしてその東京も、当面は人口シェアを高めていくものの、このままではやがて地方からの人口供給が途絶え、やはり消滅の道筋をたどることになるだろうとしています。

 こうした結末を見ないためにも、人口減少社会の到来に備え東京と地方のあり方を見直し、人口の社会移動の構造を根本から変える必要があるというのが増田氏の主張です。

 まずは地方から東京圏への若者の流出を抑制し、逆に東京圏に暮らす高齢者の地方への移住を促進する。また、地方においても、生活関連サービス機能の維持に向けて辺縁部の高齢者の中心地への移住を促し、コンパクトシティ化に向けた取り組みを進めることが有効であると増田氏は言います。

 増田氏はこの場合、特に国土全体を俯瞰するかたちで国が地域ブロックごとに「戦略的拠点都市」を絞り込み、(いわゆるバラマキではなく)集中的に資本を投下していくことが肝要であると主張しています。「国土の均衡ある発展」でも「多極分散型国土形成」でもない、地域の特徴を踏まえた戦略的開発とネットワーク化を通じて日本全体の総合力を向上させようという考え方です。

 人口の移動をコントロールしていくために、現実的にどのような対策を打つことができるのか。増田氏は、若者の社会移動対策として効果的な方法は、第一に産業政策の立て直しであるとしています。それは戦略的拠点都市を中心に雇用の場を作り、ここを若者を地方にとどまらせる「ダム」にしようという発想です。

 もともと東京は労働力や土地などの生産コストが高く、日本企業の高コスト体質の原因の一つとなっていると増田氏は言います。実際、上場企業の本社のおよそ半分が本社を首都におくような国は日本だけであり、こうした企業体質を変えるだけで、地方のあり様は随分と変わってくると考えられるということです。

 また、地方産業政策において、産業のシーズとなる研究開発機能の創出に力を入れていくことが重要になるという指摘もあります。政策の一環に人材供給や地方大学の機能強化を組み込み、地元で学び地元で働く「人材の循環」を地域に生み出すことが必要だという視点です。

 さらに地方においては、高齢者対策として生活関連サービスの多機能集約化が必要とされると増田氏は言います。地域ブロックごとに医療・介護の拠点を作り、そこを中心に多様なサービスを提供する。若者の雇用を守るためにもこうした集約化により高齢者を誘導して街全体のコンパクトシティ化を進め、さらには都市部の高齢者の受け皿としての機能を付加していこうという手法です。

 地方が魅力的になれば、大都市圏の高齢者を呼び寄せることもできます。老後を自然豊かな地方で過ごしたいという高齢者のニーズに応えられるような街を作り上げていくことも、地方の活性化のひとつの方策になるでしょう。そうしたことから増田氏も、都市部の高齢者が元気な時に地方にセカンドハウスを持つことを支援するような施策も必要ではないかと提案しています。

 人口が減れば、国民一人当たりの土地や社会資本は増えることになる。これを如何に有効に活用できるかがこれからの日本の豊かさの鍵を握るのではないかとする増田氏の指摘には、言われてみればなるほど「自明の理」が感じられます。大都市圏、特に東京圏と地方の国土利用に関するグランドデザインを国家戦略として描き、人口の社会移動を強力に推進すべき時が来ているという増田氏の見解を、今回大変興味深く読んだところです。

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