MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

 伊皿子坂社会経済研究所のスクラップファイルサイトにようこそ。

#1986 中国のナショナリズムとどう向き合うか

2021年10月07日 | 国際・政治


 10月6日、米国ホワイトハウスで国家安全保障を担当するサリバン大統領補佐官と中国外交トップの楊潔篪政治局員がスイスのチューリッヒで会談し、バイデン大統領と習近平国家主席による首脳会談を年内にオンライン形式で開催することで基本的に合意したと報じられています。

 アメリカ側の発表によれば、サリバン補佐官は新疆ウイグル自治区や香港、南シナ海、台湾など幅広い問題を指摘し中国側に懸念を伝えるとともに、米中が協力できる分野や両国関係のリスクを管理する手法について提起したとされています。

 一方、中国外務省の発表では、楊政治局委員は台湾や人権などの問題について中国の立場を説明したうえで、「両国関係を『競争』という言葉で定義することには反対だ。中国とアメリカは、互いに協力すれば両国と世界に利益をもたらすが、対峙すれば大きなダメージになる」と述べ、中国の主権を尊重し内政干渉を止めるよう求めたということです。

 互いに腹を探り合い、小さなジャブを繰り出しながら間合いを詰めいている観のある米中関係ですが、そんな中、新しく日本の舵取りを任された岸田文雄政権は、どのような態度で大国の隣人との関係を作っていくのか。

 岸田新総理は10月5日、米国バイデン大統領と電話会談を行い、日米同盟の強化、自由で開かれたインド太平洋の実現に向け共に取り組んでいくことを確認したと伝えられています。また、総理は続いてオーストラリアのモリソン首相ともテレビ電話で会談し、米印を加えた4カ国の枠組み「クアッド」の連携を強化する方針で一致したということです。

 アジア太平洋地域で台頭する中国を念頭に、台湾問題を含め、東シナ海や南シナ海での一方的な現状変更の試みや、経済的な威圧を繰り返す中国。その姿勢に大きな変化が生まれない限り、中国への対応が新政権で大きく変わることはなかなか想定しにくいところです。

 一方、菅義偉前政権下で日本が米国と対中圧力を強めたことに反発してきた中国の習近平指導部としては、(中国国内の報道などを見る限り)日本の岸田新政権に(「関係改善」とは言わないまでも)経済を中心に安定した関係の構築を期待しているように見受けられます。

 世界経済への影響の増大を背景に、自由主義世界との比較優位を主張し自信を深める中国。その強烈なナショナリズムに先導される拡張主義といかに向き合うかが、隣国に位置する日本はもとより、21世紀の国際社会の大きなテーマとなっていることは間違いありません。

 もとより、中国のナショナリズムの根底に、欧米先進国が築き上げてきた現行の国際秩序や法体系に対する根深い不信感があることを、当の中国自身も隠そうとはしていません。 欧米列強やいち早く近代化を成し遂げた日本に蹂躙され、半ば植民地化されていた大戦前の中国。そうした状況を招いてしまったのは、中国に(それに対抗するための)力がなかったからだというのが多くの中国人の理解でしょう。

 中国人民は、その後の共産主義革命の内戦やイデオロギーの対立、経済政策の混乱などにより多くの血を流し、苦労を重ねながら現在の繁栄を築いてきた。そして、いよいよ「時は来た」というのが、国民的カタルシスの源泉となっているのかもしれません。

 欧米や日本などの自由主義先進国が作った国際的なルールが、中国を排除し抑圧するために使われている。これ以上、彼らのいいようにはさせられない。自国の核心的な利益は、経済力、軍事力などのまさに「力で守る」しかないということでしょう。

 折しも中国は、2049年の新中国建国100周年に向けて、「社会主義現代化強国」となると宣言しています。米国を追い抜き世界一の力を持つ国となり、共産党の指導の下で中国を再び栄光ある世界の中心に戻していこうというものです。

 何よりも「体面」を重んじるのが中国の文化だと言いますが、こうして自国のレーゾンデートルを欧米自由主義諸国との対立の構図の中に置く中国と、既存のルールの中で個別に協調・融和していくのは、もしかしたら(欧米諸国が思っているよりも)難しいことなのかもしれません。

 現代社会の根幹であり、基本ルールとも言うべき民主主義や人権についてさえ、「中国には中国の民主主義」と公言してはばからない中国。欧米諸国の価値観に対応するには、それを上回る力を見せつける必要があると考える人々も、実際多いことでしょう。

 積年の思いを胸に帰ってきた(プライドの高い)大国を国際社会はどう遇し、どう扱うのか。(結論めいたものはいまだ浮かびませんが)少なくとも彼らの暴走を許さないためには、国際社会の共通理念と枠組みの内部に彼らを取り込む工夫がさらに必要ではないかと改めて感じるところです。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿