MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2171 国会議員の給料は安いのか?

2022年06月02日 | 国際・政治

 5月10日、細田博之衆院議長が東京都内で開かれた自民党参院議員の政治資金パーティーで、「1人あたり月給で手取り100万未満の議員を多少増やしてもバチは当たらない」と発言し批判を呼びました。

 細田氏はあいさつの中で「議長になっても毎月もらう歳費は100万円しかない。上場会社の社長は1億円は必ずもらう。普通の衆院議員は手取りで70万、60万くらい」として、もっと国会議員を増やし「各党でたくさんの議員を出して盛んな議論をしてもらう方がいい」と語ったということです。

 細田氏と言えば、一票の格差を是正するため小選挙区の定数を人口比に応じ15都県で「10増10減」する方針を非難し、野党から反発を受けたばかりです。その後、女性記者へのセクハラ疑惑なども報じられ、「三権の長」として言動を自重するよう、与党内からも厳しい声が上がっています。

 衆議院議長が手にしているとされる毎月(手取りで)100万円の歳費が高いか安いか、細田氏の言動と責任に見合うものかどうかはよくわかりませんが、少なくとも「100万円しか…」という氏の発言は、(その裏に透けて見える「特権意識」も含め)庶民感覚からずれたものとして揶揄されても仕方がないもののような気がします。

 こうした氏への批判を踏まえ、コラムニストの尾藤克之(おふじ・かつゆき)氏が5月23日の「東洋経済ONLINE」への寄稿(「議員定数、報酬削減がどうにも困難な決定的理由」2022.5.23)において、議員活動と歳費の多寡に触れているのでその内容を小欄に残しておきたいと思います。

 尾藤氏によれば、「国会議員の歳費、旅費及び手当等に関する法律」に定められた国会議員の歳費は月額129万4000円。年額で1552万8000円となり、ここに「期末手当(賞与)」として年額635万円が加算されるため、総額2187万8000円が基本的な年収になるということです。

 さらに(昨今問題視されている)文書通信交通滞在費(現在は「調査研究広報滞在費」に名称変更)が月額100万円支給されるが、これには領収書の公開などが求められないため「第2の給与」として様々な用途に使用されているのが実情だと氏は言います。

 因みに、年収2187万円の一般人が月額100万円の所得を上乗せすると、(累進課税のもとで)40%の所得税が課せられるということです。これは、月額100万円の領収書が不要な手当を得るためには、約1700万円(月額141万円×12カ月)の収入が必要になるということ。つまり、所得税を考慮すれば、国会議員の年収は合わせて(2187万8000円+1700万円=)3887万8000円まで膨らむ計算だと氏は説明しています。

 しかし、国会議員に支給されるお金に関する話はそれでは終わりません。「国会議員の立法に関する調査研究の推進に資するため必要な経費」として、会派に対して支払われるお金に「立法事務費」というものがあると氏はしています。

 立法事務費は議員一人当たり月額65万円で、年額にすると780万円。会派に支払うとは言っても、例え1人だけでも政治資金規正法上の政治団体として届け出ていれば会派として認められるため、個人への支給が拒まれることはない。「立法事務費」についても(また)使途公開が義務づけられていないので、使い道を第三者が確認する術はないということです。

 さて、この立法事務費を(さきほどの)文書通信交通滞在費と同様に所得として計算するとどうなるか。所得税を40%と考えれば、108万円の収入が必要になり、先ほどの基本ベースの2187万8000円+1700万円=3887万8000円(議員歳費+文書通信交通滞在費)に1296万円(立法事務費)を加算して、5183万8000円となるというのが氏の計算です。

 さらに、それぞれの国会議員には、JR特殊乗車券や国内定期航空券が交付されるばかりでなく、公設秘書3人分の給料や委員会で必要な旅費、経費、手当、弔慰金などが税金から支払われる。政党交付金の一部が、各議員に支給されることも多く、政党からは役職に応じて黒塗りの車もあてがわれるということです。

 そればかりではありません。(それぞれの議員に割り振られる)永田町の議員会館の事務所は賃料が無料。さらに都心の議員宿舎に格安で居住することもできると氏は言います。家賃は(2014年に賃料引き上げられたものの)周辺相場の2割程度で借りることができ、24時間の警備体制のほか、緊急通報のボタンを押せば秒速でスタッフが駆けつけるなどセキュリティは万全だということです。

 さて、こうして氏の説明を聞いてみると、日本の国会議員の待遇は決して悪くはないと思えてきます。「月100万円」というのはあくまで表向きの話。国民が議員一人当たりにかけているコストは(少なくとも)その数倍に及ぶことは明らかでしょう。

 もとより国会議員に一定の収入を保証することは、政治参加へのハードルを下げ、(貧・富にかかわらず)誰もが立候補できるようにするために必要なことだと考えられます。有能な人材に政治の世界を目指してもらうためには、その立場にふさわしい報酬を用意することも一つの方法ではないかと考えるところです。

 しかしその一方で、議員への歳費が高いか安いかを議論する前に、議員自身が(使途が定められている)文通費や事務費の支出内容を明らかにするのは当然のこと。議員への支出を民主主義に必要なコストだとして納税者の理解を得るには、まずは自身の支出の透明性を確保することが何よりも大切だろうと、氏の解説を読んで私も改めて感じたところです。

 



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