MEMORANDUM 今日の視点(伊皿子坂社会経済研究所)

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#2170 外国人留学生の就業実態

2022年05月31日 | 社会・経済

 新型コロナの行動規制がようやく解除されたこのゴールデンウィーク。関東近辺の行楽地や首都圏の繁華街などで目についたのは、多くの外国人の若者たちの姿でした。

 例えば、(私が訪れた範囲でも)浅草の浅草寺周辺や横浜の中華街や山下公園、埼玉県の川越市や神奈川県の鎌倉市など、コロナ禍の下で「これまでどこにいたのだろう」と思えるような(おそらくは東南アジアからと思われる)たくさんの若者たちの姿が目に留まりました。

 ベトナム語(やよくわからない言葉…スミマセン)で話す年頃の女性たち。友達同士で写真を取り合い実に楽しそうな様子です。年齢から言って、おそらくは留学生として来日しアルバイト暮らしをしている人たちでしょうか。久しぶりの自由な初夏の休日に、屈託のない笑顔が光ります。

 政府への雇用状況届によれば、日本国内で働く外国人労働者数は2008年の48.6万人から増え続け、2016年には100万人を超えています。新型コロナの感染拡大により増加率は鈍っているものの、2021年には172.7万人とその後も過去最高を更新し続けているということです。

 現在の日本における外国人労働者を在留資格別に見ると、「永住者」や「日本人の配偶者等」などの身分系在留資格を持つ者が33.6%。外国人労働者全体の約3分の1を占めているとされています。

 次いで、政府が積極的な受け入れを表明している「専門的・技術的労働者」が22.8%、母国への技能等の移転を目的とした「技能実習生」が20.4%と続きます。これらを全部合わせると76.8%となるわけですが、それでは残りの23.2%はどんな人たちかと言えば、留学生などに条件付きで認められたアルバイトに従事する学生たちということになるようです。

 もちろん、外国人留学生のアルバイトを対象とした正式な記録はないため、その数が本当に23%なのか、(合計すれば100%超えてしまう)30%なのか40%なのかはよくわかりません。実際のところ、感染拡大防止のために外国人留学生の新規入国の制限が課される以前の2019年の段階では、技能実習生や留学生によるアルバイトの数が技術的労働者を上回っていいたという記録も残されています。

 結局のところ、政府の(専門的労働者を積極的に受け入れるという方針に反し)多くの外国人労働者が単純労働の分野で働いているということ。日本の経済を支(底辺で)支えているのは、実のところこうした外国人労働者だということでしょう。

 外国人労働者のこのような実態を踏まえ、(少し前の記事になりますが)「週刊東洋経済」誌の2021年9月25日号に、ジャーナリストの井出博康氏が『新聞が奉じない「偽装留学生」』と題する論考を掲載していたので、この機会にその概要を紹介しておきたいと思います。

 日本で最も人権が守られていない外国人は誰か。それは、出稼ぎ目的で留学を装い新興国から来日する「偽装留学生」たちだと、井出氏はこの論考の冒頭に記しています。

 留学生には「週28時間以内」の就労が認められている。そこに目を付け、偽装留学生は「留学」を出稼ぎに利用しようとすると氏はしています。しかし、逆に都合よく利用され、様々な人権侵害を受けている。その状況は(しばしば問題視される)外国人技能実習生よりもずっと悲惨だというのが現場をよく知る氏の認識です。

 日本への留学には日本語学校の初年度分の学費や寮費、留学斡旋業者への手数料などで150万円前後が必要になる。多くの偽装留学生たちは、その費用を借金して来日すると氏は言います。

 したがって、偽装留学生は来日後(勉強はそっちのけで)アルバイトに明け暮れる。コンビニやスーパーで売られる弁当や総菜の製造工場、宅配便の仕分け現場など、きつい仕事を昼夜を問わずにいずれも最低賃金レベルでやってのけるということです。

 もちろん、「週28時間以内」のアルバイトでは月収は10万円少々にしかなりません。借金を偏在し、翌年分の学費までを貯めるには、アルバイトを掛け持ちし法定上限を超えて働くしかないと氏は指摘しています。しかし実際は、働いて働いてお金を貯めても、借金の返済と学費に吸い上げられ、母国へ送金できるのはほんのわずかにすぎないという現実もあるようです。

 さらに井出氏は、留学生が暮らす住環境についてもこの論考で触れています。技能実習生の場合、受け入れ先の企業は「1部屋2人以下」の住居を提供するよう法律で決められている。しかし、留学生の寮にはそうした規定はなく、一部屋に2段ベッドを並べて7人の留学生を詰め込んだり、3DKの一軒家に20人以上を入居させていた日本語学校の例もあるということです。

 そういえば私も、ある日本語学校で発生した新型コロナのクラスターの感染源を保健所が追ったところ、24時間稼働する流通大手企業の配送品の仕分け所や同じ学校の留学生が押し込められていた学生寮などで、200人を超える感染者が見つかったという話を聞きました。

 本来、彼らが置かれたこうした厳しい状況は、新聞などの大手メディアが取り上げ追求すべき問題だと井出氏は話しています。しかし、実習生については頻繁に報じる新聞なども、留学生については全く報じる気配がない。それは一体なぜなのか。

 都市部の新聞配達現場は日本人の働き手不足が著しく、留学生のアルバイトなくしては立ち行かない状況にある。そして配達現場では、多くの留学生たちが「週28時間以内」を超える違法就労を迫られているというのが、この論考で氏の指摘するところです

 かくして新聞社は、紙面で取り上げれば自らの配達現場に火の粉が及ぶことを恐れ、偽装留学生問題に無視を決め込んでいる。結果、留学生の実態は世に知られず、彼らの人権は蹂躙され続けるという実態があるのでしょう。

 最近では、飲食業を中心に2年間続いたコロナ禍でアルバイトを切られ、学費も払えずに行き場を失う留学生が増えているという話もあるようです。5月に入り、ようやく行動制限が解除された初夏の環境の下、青春時代をこの日本で過ごす彼ら・彼女らに幸多かれと願わずにはいられません。



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