米国の次期大統領にドナルド・トランプ氏の就任が決まり、首都ワシントンでは2025年1月の政権移行に向けた閣僚人事の動きが慌ただしくなっているようです。
公職の任命を政治的背景に基づいて行う仕組みを「猟官制: spoils system」などと呼びますが、特に米国は政治任用を大規模に行う国として知られています。任命権者の大統領によって選ばれる人々は「政治任用者(political appointee)」と呼ばれ、ホワイトハウスの補佐官や幹部職員、秘書、中央省庁の主に局長級以上などが該当する由。今回の政権異動に伴う選任は、政府全体で4000人以上に上ると言われています。
政権移行チームから連日のように発表される政府要職に係る人事。その中で、主要高官に物議を醸す人たちの名前が次々と挙がっていることに、衝撃を覚えた識者も多いようです。
11月16日の日本経済新聞(「トランプ閣僚人事衝撃広がる 過激発言・醜聞/就任組織を敵視 省庁解体もいとわず」)によれば、その中には(トランプ氏に忠誠を誓う一方で)過去の過激な発言や醜聞のほか、自身がトップに就く組織を敵視してきたなどの背景を持つ人も多いとのこと。
例えば、司法長官に指名されたマット・ゲーツ前下院議員は保守強硬派として知られ、2023年1月5日の連邦議会において下院議長を選ぶ(7回目の)採決でトランプ氏に一票を投じたことで名を挙げた人物とされています。
制度上は現職議員でなくても下院議長に就けるが現実には難しく、ゲーツ氏の行動は混乱を引き延ばすためだけの明らかな嫌がらせだった。ゲーツ氏が仕掛けたこうした内紛により、議長選出までに(2日間にわたって)15回の採決が費やされたということです。
しかも、超党派の下院倫理委員会では、性的な違法行為や薬物使用などの疑いでゲーツ氏の調査が続いていた由。過去にも性交渉目的の人身売買に関わった疑惑などで捜査対象となり、司法省が立件を見送った経緯があるということです。
また、米情報機関を統括する国家情報長官(NID)に起用される元下院議員のトゥルシー・ギャバード氏は、2020年大統領選に民主党から女性候補の一人として名乗りを上げた人物で、後に離党してトランプ支持者となったとのこと。シリアのアサド政権について「米国の敵ではない」と述べているほか、親ロシア発言が目立ち、ロシアの偽情報を「おうむ返しにしている」(共和党のロムニー上院議員)との批判が絶えないと記事は説明しています。
氏は議会でインテリジェンスに関する委員会に属した経験はなく、逆に政権を批判する言動が情報機関に監視されていると敵視し、今夏には米政府によって自身が「秘密のテロ監視リスト」に載せられ、空港で執拗な検査を受けるようになったと主張しているということです。
一方、国防長官に指名された保守系テレビ司会者のピート・ヘグセス氏は、軍における人種や性別の多様性を批判してきた人物だと記事は指摘しています。退役軍人だが、軍や政府の巨大組織を運営する上級幹部の経験はないとのこと。州兵として21年のバイデン大統領就任式の警護を志願したものの、(本人は)「宗教的タトゥーを入れているために過激派、白人至上主義者とみなされ」たことで任務から外されたと主張しているということです。
さらに、厚生長官に起用すると発表された(ロバートケネディ元司法長官の息子として知られる)ロバート・ケネディ・ジュニア氏に至っては、新型コロナウイルスのワクチンに反対の立場で注目を集めた人物とのこと。陰謀論を唱え、反科学を売り物にしてきた彼は、大統領選に無所属で立候補した後、「勝利への現実的道があるとはもはや思わない」として選挙戦から撤退、その後トランプ氏の全面支持に回っていました。
氏は、たびたびつじつまの合わない言動をすることで知られ、意識混濁が起こるのは脳に「虫が寄生しているから」「ツナ缶をたくさん食べたから」「水銀飲んだから」「寄生虫に脳の一部を食べられた」など、独自の見解を主張しているとされています。
このようにトランプ氏は、自身への忠誠を基準に組織を解体することもいとわない人物を抜てきし、その破壊衝動は日本を含む同盟関係や国際秩序さえも揺るがす恐れがあると記事は現状を綴っています。
記事によれば、(こうした驚きの人選に)米メディアは、就任に必要な議会の承認が難航する可能性を指摘している由。人事を承認する権限を持つ上院では、これらの人々の資質を疑問視する声が(与党共和党からも)上がっているとのことであり、今後の議会調整の行方が不安視されているようです。
いよいよ再開したトランプ劇場の幕開けとなるのか。(この「とんでも人事」を押し通すため)上院の承認手続きを飛ばす「休会任命」といった強引な手に出れば、混乱のさらなる拡大は不可避だと記す記事の指摘を、私も興味深く読んだところです。
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