気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

beautiful world 13

2021-11-10 21:48:00 | ストーリー
beautiful world  13






僕は柔道の稽古が終わり
何気なく電車の車窓から外を眺めていた

電車は次の駅に停車するため減速に入っていた

――え…?

今のって奈生ちゃんだったような
見間違い…か?

でも僕には奈生ちゃんが困っているような泣いていたように見えた

電車は完全に停車しドアが開いた瞬間電車を降りた
人をかき分けながら改札出口に向かいながら

“まさか”という思いと
“人違いであって欲しい”という気持ちが入り交じる

改札を出て走りながら奈生ちゃんに電話をかけた
でも電話に出ない

あれは本当に奈生ちゃんだったのか?
泣いていた?
気のせい?
見間違いか?

僕は全力で走った

さっきまでの柔道の稽古で身体は疲れきってるはずなのに
こんなにも全力で走れるのは 

それだけ僕は君を想ってるってことなんだ…

見えた!
やっぱり見間違いじゃなかった


ーーえっ
なん、だ…?

見知らね男が彼女の腕を掴み
それを拒む君の姿が見えた

その瞬間 全身の血液が逆流し沸き立つほどの強い闘争心が内側から汲み上げてきた

彼女を奪われたくない
守りたいという強い思いと

もう二度と大切な人を放さないという決意に似た思いも同時に湧き上がってきた

やっぱり僕には君は必要な存在なんだとあらためて知った瞬間でもあった


ーーー


先生は私を一切見ようとせず
一刻も早くあの場を立ち去ろうと私の手を引っ張って歩く

「先生、あのっ、、 」
歩くの、早い、、

歩く早さがゆっくりになった

「もうプライベートであの男と二人きりで会わないで欲しいんだ…」

やっと私の顔を見てくれた先生のその表情と声はいつものように穏やかになっていた

「さっき君が言った“私の事情に付き合ってもらっただけ”って、どういう事情だったの?」

「すみません…ほんとは大した理由じゃないんです… 言うのも恥ずかしい話で…」
 

実は最近ダイエットしなきゃって思ってたことや

先生の家に行く前に決まっていた約束で断りきれなかったこと

それを先生に言い出せなかったことを

恥ずかしいけど私は正直に伝えた


「先生に誤解されたくなくて言わなかったんです…でもこんなことになっちゃって…本当にごめんなさい…」

「事前に聞いてたら絶対行かせなかったな(苦笑)」
眉尻を下げ 微笑んでくれた

「それに僕は今の君は十分魅力的だと思ってるのに(笑)」

先生は私の贅肉を知らないから(苦笑)

「それと僕は…」
歩みを止めた

「君を独占したい気持ちがかなり強いみたい。今回のことでよくわかった(苦笑)」

今 胸がキュンってなった…

「これからもこんな風にお互いを知っていかない?(笑)」
眉尻を下げ 優しく微笑んだ


私達はそのまま
川沿いの遊歩道を歩いた

休日の割に歩いている人が少ない



先生は今日は柔道の稽古日で

稽古が終わって電車に乗っていると車窓から私を見かけ全力で駆けつけたと笑った

「動体視力が凄いんですね。走ってる電車から見えたなんて(笑)」

「駅が近かったから電車が減速してたんだ(笑) 君が他の男に奪われそうだったから焦ったよ(笑) ははっ!」

私は先生一筋
だから心配ないです

「それだけ僕は君が大切なんだ。」
先生の手の力がこもった

私の手を握る力も 
見つめるこの瞳も

全力で駆けつけてくれたことも
葉山さんと争う姿勢も発言も

全て私への想いがあったからってわかるから…

私は世界一の幸せ者だ…


「何故泣くの…?」
困った顔をして微笑んだ

生まれて初めて恋をした人…
高一の時に一目惚れをしてからの9年間

私は先生しか好きになれなかった


「先生は知らない。私の方が先生よりずっと大好きだってこと…」

先生は一瞬言葉に詰まったような表情をした

「もうっ(笑)」

苦しいくらい強く抱きしめられた
「僕だって負けないくらい君が大好きだよ。」                               

先生の大きく硬い手が顔を包んで
先生の唇が私の唇に重なった



―――


突然俺と彼女の前に
以前から気になっていたあの“先生” が現れた

なんなんだよっ!
付き合ってる男はいないなんて言ってたくせに
やっぱ“先生”ってカレシだったんじゃねぇかよ!!


...そうじゃないかって
薄々思ってたけどさ...

身長は俺より少し高いくらいなのに
俺より何倍もデカく感じたのは

威圧感や気迫が凄くて
まるでヒロインを守るために現れた正義のヒーローみたいに見えた

そして俺はそのヒーローに負けちまう悪役キャラみたいに瞬殺で捻り潰されたような

そんな惨めな思いだ

悔しい…
悔しい…!
悔しい!!


俺だって彼女が好きだったんだ

初めて本気で好きになった女だったんだ…

誰かのために
彼女のために
初めて変わろうって思えたんだ

こんなに悔しく惨めな気持ちも
こんなに辛い胸の痛みも

初めてだ

あいつみたいに
俺もヒーローみたいな漢になれんのかな…

こんな事で涙が出るなんて
俺やっぱ小せえ男だわ…

悔しい
情けねぇ…




――――――――――

beautiful world 12

2021-11-07 14:53:00 | ストーリー
beautiful world  12




ーー  “約束。絶対に守れよ。”

今日は葉山さんとボーリングの約束の日…

先生と毎日メールや電話をして
ウキウキしてたこの一週間

昨日まで完全に葉山さんとの約束を忘れてしまっていた

なんで…

なんで私約束なんてしちゃったんだろっ!
なんで忘れてたんだろーっ!
私のバカ〜ッ!!


「おい。何やってんだ。」

「行きますよっ!」

思い出した時に今日のこと先生に伝えておくべきだったかな…

まさか先生とお付き合いできるなるなんて奇跡が起きてしまったんだもの!

浮かれて忘れて当然だよね!!

もし葉山さんと一緒にいるところを先生に見つかったら…

誤解しちゃう…?
私、嫌われちゃう…?

そんなのイヤだ…

やっぱり葉山さんには仮病使って断れば良かったのかな…

でももう今さら遅い!

とにかく人目につかないように…

パーカーを深く被りだて眼鏡とマスクをし誰にも私だと気付かれないよう葉山さんについて歩く

「なんか、、まるで不審者だぞ… 暑くねぇの?」

「私のことは気にしないでください、話しかけないでくださいっ」

どんなに怪訝そうな目で葉山さんに見られても暑くても今日はずっとこうしてなきゃ!
とにかくこんな人混みにいたくない!

「は、早く!行きましょ!!」

「(ボーリング)やる気まんまんだねぇ(笑)」
ニヤリと笑った

やっとボーリング場に入った
周囲を見渡しても見知った顔はない

「ふはぁ〜!暑かったぁ〜!」

「そりゃそうだろうよ。ほれ。」

葉山さんは自販機で買った水を手渡してくれた

「足のサイズ幾つ?受け付けしてくっから。」

慣れたように受付に向かった

よく見ると普段着の葉山さんって結構オシャレさんなんだな

黙ってたらそれなりに良い男?みたいだけど 何考えてるかほんとわかんない人だからな

根っから悪い人じゃなくて
ただ不器用なだけなんだろうなって最近わかってきた


―――


「葉山さーん。まだやるんですかぁ?もう終わりにしましょーよ。疲れましたよぉ。」

6ゲーム目が終わっても葉山さんは7ゲーム目を続けようとしている…

どんだけボーリング好きなのよっ!!!

「これが最後だっ!今度こそパーフェクトを取ってやる!!」

めっちゃ燃えてる…
もう執念としか思えないんですけど…

「じゃあ一人でやってくださ~い」

「は?何言ってんだ!痩せたいからここに来たんだろ?」

「もう3キロは痩せましたぁー。」

「んな訳ねぇだろっ!ほら、やんぞっ!」

結局 7ゲーム目も付き合って葉山さんは最後の最後で1本だけピンが残ってしまいめちゃくちゃ悔しがりながらもボーリングを終了してくれた

「ほんと腕の力無くなっちゃいましたよ。」

「弱っちいな。図体だけかよ。…あ、いや、すまん… 腹減ったし飯行こうぜ…」


…今 謝った?
葉山さんが? 空耳?聞き間違い?

ほんと
どうしちゃったんだろう…?


ーーー

創作料理のお店に入って周囲を見渡した
よし、ここも知り合いはいないなっ!

「なぁ。なんでそんなに周り気にしてんだよ。」

「えっ、そんなことないですよ?(苦笑)」

「…… 」
怪訝そうな目で私を見てメニューに視線を移した

いつもの葉山さんだ…(苦笑)

そんなにつまらなそうな顔してるのになんで私と今こうして向き合ってるのか全く理解できない

「ダイエット中だもんな。俺が決めてやるよ(笑)」

おや?ちょっと笑った?

「なんでもいいんで早く頼んでください、お腹空いたので!(笑)」

葉山さんが頼んでくれたのはほんとにヘルシーなものばかり

「こんなんで葉山さん大丈夫です??」

「俺は晩飯でガッツリ食うさ。」
と言ってニヤリと笑った

「一応気遣いしてくれてるんですね(苦笑)」

「ったり前だろ。ダイエットに付き合うって約束したしな(笑)」

なんだか超ご機嫌…
今日は貴重な葉山さんの笑顔をよく見る…

って、ちょっと!
約束なんてしましたっけ!?

あ、そうだ
俺が痩せさせる!なんてこと言ってた… 
私、頼んでないんですけど!!


―――

食事を終えてお店を出た

「よし。飯食ったし今から一駅分、歩くぞ!」

そう言って歩きだした
また歩くんだぁ…

できればもうここで解散しませんかね…

線路沿いの道を歩く
ウォーキングというより散歩の速度

やっぱり私のことを気遣ってくれてる…?

何本もの電車が通り過ぎて行く
もう目的の駅が見えてきた

「そういえば、葉山さんなんか話があったんでしたよね?」

「あ、あぁ…」

それっきり黙ったまま歩き続けてる
話は?? なんなのよぅ

「ダイエットなんですけど、これからは一人で頑張りますから葉山さんにはもう、」

「俺が…田中さんに付き合いたいんだ。 」

ドキッとした
 「なんでそこまで、、」

葉山さんの足が止まり
また電車が私達の横を通り過ぎていった

「… 俺、田中さんが… 好きなんだよ… 」


ーーは?



 “好き”って…

真剣で真っ直ぐな視線
でも少し悲しげに見えて

あの夜の葉山さんだった


「いつも会社では私だけ厳しいのに…」

「違うんだ… ほんとは俺、」

「ごめんなさい!私には好きな人がいるんです!」

葉山さんは複雑な表情をした
「俺じゃ… ダメなのか…?」

なんでそんな泣きそうな目をするの?
傷つけてるみたいで胸が痛くなるよ…

でも、私には
「ダメです。」

突然手首を強く掴まれ驚いた

「今まで本当にすまなかった。もっと大事にする。俺、ほんとはもっと優しくしたいって思ってんだ。なのに全然…うまくいかない… 」

最近なんだか様子が変だと思ってた
以前よりずっと優しくなったのは気付いてた

それはそういうことだったんだ…


「わかって欲しい、俺の気持ち、俺は本気で田中さんのこと、」

掴まれた腕を離そうとしても強く握られて振り離せない

「困りますっ、離してください、」

その瞬間
突然 私を掴んでいる葉山さんの手首を誰かが強く掴んだ


「何やってんだ!」


――先生だった


なんでここに…
どうして…

いつも穏やかな先生が
見たことのない激怒の表情をしていた


葉山さんは険しく眉間にシワを寄せた
「お前誰だよ!離せ!」

「お前こそ誰だ。早くこの手を離せ。」

冷静な口調なのに威圧的な低い声に私は動揺した


葉山さんを掴んだ先生の手がギリギリと強く握ると私を掴む葉山さんの手が緩んだ

葉山さんから私を引き剥がし先生の腕の中に引き寄せられた

「せっ、先生、あのっ、この人は職場の先輩で、」

葉山さんはハッとした表情をしていた
「“先生” …だって?」

内緒で葉山さんと二人で会っていたことを知られてしまったことに血の気が引いてきた

「職場の先輩だろうがなんだろうがそんな事は関係ない。この男が今君を困らせているのは事実だ。」

先生の恐ろしく鋭い眼は葉山さんから逸らさない

理性的に話そうとしている口調は力強くて
まるで今から男同士の決闘でも始まるかのように見えた


私の知らない先生の一面だった

「カレシ…なのか?」
葉山さんは戸惑いの表情で私を見た

「そうだ。こんな所でなにしてた。明らかに嫌がっていただろう。」
私を抱く腕の力が強くなりその声も更に威圧的になった


「あの、あの、先輩とは、何でもなくて、、」

私が話しかけても
先生は葉山さんから視線を全然逸らさない

「俺は今 田中さんと大事な話をしてたんだ。邪魔すんな。」

葉山さんも怒りを滲ませている…

本気で大人の男同士が言い争う場面なんて関わったことも見たことすらない

…恐くて震えてきた



「は?話なら電話で済ませられるだろう。なのにわざわざ休日に呼び出してまで話す内容とは何なんだ。それにこれは仕事じゃなくプライベートだろ?一体何が目的なんだ。」

私を抱くその手にますます力がこもった


「俺はただ彼女に、」

葉山さん!それ以上言わないで!
「葉山さんは!今日私の事情に付き合ってくれただけで、本当にそれだけなので、だから先生、」

それでも先生は私を見ようとしてくれない

「二度とこんな風に彼女をプライベートな事で呼び出したり関わろうとしないでいただきたい!もしまたこんなことがあったら次は絶対に許さないからな。」

強い口調で葉山さんに警告を言い放ち 
私の手を強く握りしめその場を後にした

振り返ると葉山さんは何か言いたげな悲しい表情で連れていかれる私を見つめていた

―― 葉山さん


「先生、先生、あのっ、」

黙ったまま真っ直ぐ前を向いて歩く先生のその眼差しは険しいままだった






――――――――


beautiful world 11

2021-11-06 23:41:00 | ストーリー
beautiful world  11






「… 是非、お願いします… 」

彼女のその柔らかな微笑み
あぁ そっか…

一週間ずっと頭の中で考えてたけど
ふと感覚的に答えは落ちてきた

なんだ… そっか
僕はこの人に惹かれてるんだ


「先生…?」


君には他に好きな男がいるってことは感覚的にわかった

でもそれは僕のこの気持ちとは関係ない

「君に惹かれてるみたいだ(笑)」


彼女は驚きと戸惑いの表情に変わっていく

「…どうして私を」

「君が輝いて見えたから。鎌倉に行った日から気付くと君の事ばかり思い出してた…(笑)」

田中さんの瞳が次第に潤んで
瞬きするたびに涙がポロポロと落ちた

どうして泣いてしまったのかわからず戸惑った


「ご、ごめんね!?驚かせた?」

「いえ、すみません、嬉しくて...(笑)」


ーー“嬉しくて”

それって
僕のこと好意的に思ってくれてたって、都合のいい解釈していいのか?



「経った三度しか会ってないし、君のことほとんど知らないのにこんなに気になるのってなんでだろうって。でもわかったんだ。」

この頬を伝う涙も美しく綺麗だと思うよ…


「君のことが好きだって…」


僕は人生で初めて
好きな女性に“好きだ”と告白した


もしかしたらもう
田中さんは僕と会ってくれなくなるかもしれない

でも
気持ちは伝えたい時に伝えないとダメだと思ったから

田中さんはどう思ってる...?

迷惑...だろうか



ーーほんの少しの沈黙が
凄く長く感じた




「私は… 初めて先生を見た時からずっと好き、でした…」


ーーえっ


君の好きな奴がいると思ってた
それが僕だったってこと?

そうか
腑に落ちた

僕に付き合っている人はいるのかと聞いてきたことも
好きなタイプは僕に似てるとも言ったことも


そうだったのか


頬の涙を拭うと
彼女は照れながら絞り出すように呟いた

「本当に… 大好きなんです…」


―― 胸がキュンとした

胸がバクバク音を立てている


何年ぶりだろう
これは本物の

“恋”だ…




夕日に朱く染まっていた部屋が
次第に薄暗くなっていき

彼女の表情が見えづらくなくなってきた

君を抱きしめたい…


「先生、あ、あの、そろそろ暗くなってきましたし、晩飯作りますね(笑)」

「あっ、僕も、手伝うよ(笑)」


きっと今 君も僕と同じように
ドキドキしているんだろう

僕もきっと君も
凄く不器用で

こういう雰囲気に慣れてなくて

だからなんとなくこの空気が照れくさくて気まずく感じてる



部屋の電気を点けると
彼女は冷蔵庫を開いて食材を取り出した

僕も手伝うからと言っても彼女は座って待っててと微笑んだ

まだ鼻の頭が赤くて
可愛い...(笑)



「でもお客さんにそんなことさせられないよ。」

「私が作りたいんです。ふふふっ(笑)」


彼女に笑顔で促され
料理を任せることになった

女性がキッチンに立つ後ろ姿って良い…

背は165くらいだろうか

少しぽっちゃりしたその後ろ姿


やっぱり
抱きしめたかった…


今 僕は君が好きで
君も同じ想いだとわかったことがわかって

凄く嬉しい…


世の中の大勢の男と女がいる中で
自分が好きな人が同じ想いで好きになってくれている

きっとこれは奇跡が起きたんだと思った


だから今は
この嬉しい気持ちを感じていたい…


「先生、お皿何でも使っていいですか?」

「あっ、えっ?いいよ(笑)」

彼女の料理はもう出来上がっていた
そんなに時間経った...?

時計を見ると7時を回っていた
もう30分も経っていた

「簡単な物ばっかりですけど。」

「どこが(笑)30分でこんなに作れることに驚いたよ(笑)」

ポトフにアスパラの肉巻き、甘辛ひき肉野菜にが玉子の上に乗ってる

「旨そ(笑) では、遠慮なくいただきます(笑)」

日頃から作ってる手早さだったし料理上手くないなんてあれは謙遜だったんだ


「次はもっと勉強してきますから、、」

照れくさいのか
目を合わせてくれない


「充分だよ、ほんとに(笑)」


“次は”
その言葉も嬉しい…


「あ、田中さんビール飲む?」

「いえ、弱いので飲むと帰れなくなります(苦笑)」


“帰れなくなります”


「…僕が帰したくないって言ったら…帰らない?」 

みるみる顔が赤くなりフリーズした


「あっ、ごめん(苦笑)変な下心とかじゃなくて、その...写真もまだ全然見てないだろうと思ったからで、ほんと… それ…だけで、、」


思わず言い訳がましく言ったけれど

本音は抱きしめたい
キスもしたい

そしたらきっと
それ以上のことも…


彼女は真っ赤な顔でぎこちなくご飯を口に運んだ

こんなに純粋に素直な反応をする君をちゃんと大切にしないといけないと思った


「そ、そう、ですね、写真、まだ殆ど見せてもらってないから、食後見せてもらいます(笑)」

「ん(笑)」


それから一緒に写真を見ながら撮影した当時のエピソードを話す僕に彼女は笑顔で聞いてくれた

そしてまた一緒に撮影に行こうと約束をした

楽しい分だけ時間が経つのは早くて
時計はもう9時を回っていた

そろそろ家に帰してあげないと…


僕はもっと一緒にいたい気持ちを抑え駅まで送り届けることにした

夜の空気は冷たくて
もう秋を感じさせていた


「寒くない?」

「大丈夫です(笑)」

彼女の口数が少ない
僕らはお互いを意識してる…


ーーここは男のけじめとしてちゃんと言おう

「10分でいい。少し寄り道しても構わない?」

「え?」

途中狭い石段を登ると
小さい展望所があって

そこは昼間は散歩をする年配の人がベンチに座っていたりと見晴らしの良い場所

「こんな場所があるんですね!下の道からは全然見えなかった(笑)」

石段を登ったからか彼女の柔らかそうな頬が赤く染まっていた

まるで子供の頬みたいだ(笑)


「田中さん。」

「はい?」

「僕と、付き合ってもらえませんか?」


彼女からの返事を待つほんの数秒がとても長く感じた


「はい… 嬉しいです…(笑)」

彼女の潤んだ瞳に街灯の光が映りこみ
まるで星が輝いているように見えた

柔らかな彼女の頬に触れると
彼女は何度か瞬きをした

ほんとに君は綺麗だ…


優しく僕の腕の中に入れた

「…嬉しい」

彼女は静かに泣き出した
嬉しくてと微笑んだ

僕への想いが溢れているのを肌で感じる

そんな彼女が堪らなく愛おしくて

彼女の唇にキスをした――



―――


駅までの道
彼女の手を握って歩く

本当はもっと一緒にいたい

照れて口数が少ない彼女が可愛い


「田中さんの料理旨かったなぁ~(笑)今度は僕が作るよ(笑)田中さんほど上手くないけど(笑)」

そんな楽しかった今日の話をしながら…


「またメールします。あの、電話とかしてもいいですか?」

「もちろんだよ!僕もする(笑)」


彼女が改札に入り見えなくなるまで名残惜しそうに何度も何度も振り返りながら僕に笑顔で手を振った 

ーーそして楽しい時間はあっという間に終わってしまった


さっき彼女と一緒に歩いた道を一人歩きながら
今別れたばかりなのにもう寂しい気持ちになっていた


こんなにも僕は田中さんが好きだったんだってことを
身に染みて実感していた


こんな恋しさも嬉しい…







ーーーーーーーーーー



beautiful world 10

2021-10-21 20:33:00 | ストーリー
beautiful world  10




やっと先生と会える土曜が… 
「来たーっ!!」

先生とは午後3時に指定された駅で待ち合わせ
張り切りすぎて15分早く着いた

実はこの駅は高校の通学で毎日使ってた駅

懐かしいなぁ~

先生は高校の近くに住んでたんだなぁ(笑)


「…あれ?田中?」

声がした方を振り返ると
高2の時の担任 鈴木先生が立っていた

「わぁ!鈴木先生お久しぶりですぅ~(笑)」

「久しぶりだなぁ(笑) 元気にしてたか?」

「はい!(笑) あ… 」


これはマズイよ!!

鈴木先生と親しく話してる所を(早見)先生に見られたら私が卒業生だとバレちゃう!!


「す、鈴木先生も、、お元気そうで、なによりです、、」

周囲を見渡してもまだ(早見)先生の姿は見えない
早くここを立ち去らないと、、

「田中は幾つになったんだっけ?もう就職したんだろう?今どこに勤めてるんだ?」

「ええ、、私は中小企業の、会社員、で… 」

チラチラと周囲を見渡した

「あっ、すみません先生!私そろそろ時間で、行かないと、、」

「そうか。たまには学校に顔でも出しに来いよ(笑)」

「あっ、はいっ! ありがとうございます、それじゃ失礼しますっ!!」

駅から離れるため学校とは反対方向に向かった

あぁ、、
やっぱりこの駅は用心しないとだよ、、

振り返って駅を見たらもう鈴木先生の姿はなかった

「はぁ~…」


胸を撫で下ろした



「田中さん?」

「は、はいっ!?」
振り返ると早見先生だった

「もう着いてたんだ(笑) 駅で待ち合わせしたよね?」

「は、早く着きすぎたので周辺を散策してまして!あはは(笑)」

「そう(笑)ちょっと寄り道してもいい?」


良かった…

この様子じゃ鈴木先生と一緒にいた所は絶対に見られてない

スーパーマーケットに立ち寄り
「直ぐに夕方になるし一緒に晩飯、どうかなって(笑)」

「なら私が何か作りましょうか?」

「それは悪いよ、お客さんなんだから(笑)」

「いいえ、任せてください!(笑) と言ってもそんな上手くはないので期待はしないでください(苦笑)」

「はははっ(笑) 僕も全然上手くないよ(笑)」

野菜などの食材とビール6缶パックを購入して
先生のアパートに到着した

階段を登って一番奥の部屋

いよいよ先生のお部屋に…

緊張するっ!!


「どうぞ〜」

「おじゃまします…」

整然と片付けられた部屋
お掃除したって言ってたもんね

これが先生の匂いなのかぁ… 
凄くいい匂い♡

ドキドキしながら部屋を見渡した


「適当に座ってて(笑)」

買い物した食材を冷蔵庫に入れている
ほんと先生ってたくましい体格…

Lサイズの私でもお姫様抱っこが可能なんじゃ…

…って、そんなシチュエーションある訳ない!

それにもしお姫様抱っこが出来ても…


平気な表情で
内心“重っ!”とか思われるよ(苦笑)



「そうだ!」
突然先生が振り返りドキッとした

「写真だよね。こっちの部屋にあるから。」


案内された部屋にはお仕事部屋らしきデスクとパソコン
それに大きな棚と...

筋トレ器具!!


「こっちの棚は全部写真だから適当に見てて構わないよ(笑)」

沢山あるアルバムの中から一冊手に取って開いて見ると

そこにはいろんな美しい風景が収められていた

「…わぁ... 綺麗 」


とても鮮やかで美しい...
眩く輝く水面や紅葉の進んだ森と差し込む光

先生の見てる世界はこんなに輝いて見えているのかな


北海道の富良野の風景や
九州の夜景とか

全国各地の写真が揃っていた

「全国各地をまわったんですか?」

「あ〜うん。若い頃夏休みとかにバイクでね~(笑)」

珈琲の良い香りがしてきた


「舞…?」

タイトルに “舞” と書いてあるアルバムが数冊あった

人の名前らしきタイトル

これってまさか
前の彼女…



「珈琲入れたのでどうぞ~?」

「あ… ありがとうございます(笑)」

先生が入れてくれた珈琲
とても美味しい

写真にしてもこの珈琲にしても
先生が作るものって何故なんでも素晴らしいの?


「写真結構あるでしょ(笑) 段ボールにしまってあるのも含めたらアルバムが500冊にもなってそろそろ困ってきた(苦笑)」

「500冊も?」

「フイルム写真はやっぱり手放せなくて(苦笑) データで保存してるものだけでも処分しないととは思ってる(笑)」

「確かにフイルム写真は捨てられませんよね(笑)」

 “舞”って元カノさんですか?

「あの中に人物写真ありますか?」

一瞬目が少し大きく見開き直ぐ笑顔になった

「ん、あるよ(笑) 見たい?」

「いえ、そういう訳では(笑)」


見たくない

でも好きな人を先生がどんな風に撮ったのか見てみたい気もする

複雑な気持ち…


「あぁ、そうだ、忘れない内に(笑)」

アルバムを持ってきた
開いてみると…

「??」

写真が一枚も入っていない…

「君にプレゼント。撮った写真入れて(笑)」

「良いんですか?ありがとうございます(笑)」

「それと…」

もう一冊別のアルバムを手にしていた

「こっちは僕が撮った君の写真を入れようと思ってる。もっと君の写真を増やしたいんだけど…構わない?」


優しい眼差し…

海岸で先生に撮ってもらうの楽しかったな…

大好きな人が優しい眼差しで
今 真っ直ぐ私を見つめてる

人物写真を撮らないこの人が
私を撮りたいと思ってくれていたことに

言葉では表せないほどの幸せを感じてる…


「…是非、お願いします」


いつまでも
こんな時間が続けば良いのにな…






ーーーーーーーーーー

beautiful world 9

2021-10-19 20:25:00 | ストーリー
beautiful world  9






“君は綺麗だと思ったよ。”


「んぐっ!!ゴホゴホッ!!」
飲みかけたコーヒーでむせた

“綺麗”って…

先生が言ってたあの“綺麗”って意味??

だとしたらこれって…

“告白”!!!


…んな訳ないよね〜

「あはっ、あはは…(苦笑)」


私は自信過剰な人間じゃない
むしろ自信が足りないくらいだし

でもどういう意味なのかは知りたい

だって今日の先生からは私を意識してる様子は全くなかった

図々しく寄りかかって爆睡しちゃったもんだから印象悪くなっててもおかしくない


言葉の意味は凄く気にはなるけど
その真意をメールや電話では聞きたくない

やっぱり直接聞きたい…



―――



ムカつくくらい朝から晴天 ーー

今頃 彼女は“先生”とやらと会ってるんだろう


習い事の先生とかだろうか




俺は今まで付き合った彼女は全て向こうから告白された

付き合ってても
俺は本気で好きにはなれたことはなかった


それで結局最後は彼女から別れの言葉を切り出され関係が終わる


“なんかつまんない”
“何を考えてるのかわからない”
“顔は良いのに”
“私のこと好きになってくれなかった”

大体そんな理由だった ーー

俺には“恋心”というものがわからなかった


だから誰かに固執や執着することはなかったし

それを孤独を感じたこともなかった


そもそも人間に興味が湧かない

なのに…
何故か田中さんのことだけは気になっている


田中さんにだけは好かれたいと思ってる

これって好きって事で良いんだよな…


好かれたいのに
好かれるような事ができない
言えない


なのについキツイ態度になっちまう

彼女にはもっと優しく、明るく笑顔で…


って、こんなぎこちない笑顔しか作れない

明日からは少しでも彼女に優しく接するようにしないと


好かれたい…



田中さんに笑いかけて欲しい…




ーーー



月曜日


彼女が出勤してきた

「おはようございまーす!」

なんだよ
いつもより元気じゃん

昨日“先生”と会ってたからか?


ムカつ…

ダメだ、、
優しく、優しく、優しく…


「葉山さん、おはようございます(笑)」


「や、あ… おはよう… 」

「や??」

「(ゴホン!) なんでもない。」

斜め向かい側の自分の席に座った田中さんは上機嫌だった

俺にはあんな顔 
させらんねぇな…


「ハァ…」



昼休みになり
彼女はランチの誘いを断っていた

ダイエットしなきゃという彼女の声が聞こえてきた

ダイエットか…
確かに最近なんか丸くなったもんな

...ってまた俺は!


彼女の良いところを探して言葉にしねぇといけねーだろ、俺!


「あれ?葉山さんはランチ行かないんですか?」

彼女が声をかけてきた

「ああ、行く、」

席を立った

「なぁ。飯、行かないの?」

「今日はお昼抜きにします(苦笑)」

「ダイエットって聞こえたけど… 昼抜くより筋トレとか運動した方が良いんじゃ、ないか… ダイエットで身体壊したら意味、ないし… なんなら俺、運動、付き合うけど…」


なんかスゲーぎこちない言い方になってしまった…


「え?」

俺 余計なこと言っちまったかも
「飯、行くわ。」

立ち去ろうとしたら

「あの!葉山さん、お気遣いありがとうございます(笑)」


礼を言われちまった...


「どんな筋トレが効果あります? あ、今日仕事終わってからまた聞いて良いですか?(笑)」


彼女の笑顔がめちゃくちゃ輝いて見えた…



「あ、あぁ… 」

俺が彼女を笑顔にさせた…

ふわっと
心が軽くなって
温かく感じる

そうなんだ
本当はああいう表情(かお)を俺に向けて欲しかったんだ

「なにか??」

「あ… いや。」

部署を出てドアを閉めた

…嬉しい


こんな感情
久しぶりだ




―――



今日の葉山さん
朝からずっとおかしい…

なんでいつもの嫌みが出ないのかな

目が合った時
いつもなら“なんだよっ!”って感じで眉間にシワを寄せるのに…

今日はそれが無い



… やっぱりおかしい


あ、わかった!
きっとまた体調が悪いんだ

筋トレが必要なのって本当は葉山さんなんじゃない?

葉山さんは筋トレより健康管理??


“俺が筋トレするからお前も付き合え!!”的な誘いとか…

それはヤダ



仕事が終わって葉山さんが声をかけてきた

「あの、さ… 筋トレ、」

「その筋トレなんですけど、家の中でできるやつですよね?」

「あっ、まぁ、そうだな、、」


はぁ~ 良かったぁ

「ジム通いって手もあるけど。ジムの方が器具が揃ってるしバランスの取れた身体作りはできるだろうけど。」

バランスの取れた身体?
バランスの取れた… 筋肉

昨日の先生のガッチリとした身体を思い出したら顔が熱くなってきた


「あっ、あはははっ(照) …なるほど… 」

「帰るぞ。」


駅まで歩いている間
葉山さんは部屋でできる方法を幾つか教えてくれた


「走るのも必要かもな。」

「あー私、持久力ないんで。」

「は?本気で痩せる気、あっ… 」

“あっ”??

「だったら…歩く所からやってみれば、いいんじゃないか。」


あれ?

“はぁ?本気で痩せる気あんのか!?”って言いかけたんじゃ…

明らかにいつもと反応が違う…


「葉山さん。やっぱり体調悪いんじゃないんですか?」

「やっぱりってなんだよ。別に…なんともねぇよ。」


おかしいな…
なら今日は機嫌が良いって感じ?


「私本気で痩せないとって思ってるので歩くところから始めてみます。」

「で? 何キロ痩せる目標?」

「あー… 3、キロ?」

「なんだよ。5キロぐらい言うかと思った。」

「えっ!? 5キロは必要ですかね!!」

「知らねぇよ。目標は自分で立てるもんだし。」

「ですよねぇ…(苦笑)」

やっぱりいつもの辛口葉山さんだ



駅に着いて電車を待っている間
葉山さんはスマホを見ながら

「あの、さ。この前の金曜の夜のことなんだけど。」

金曜の夜??

「強引に飯誘って…悪かったな… 」


そうだった

あの夜別れ際 葉山さんは悲しそうな表情をしてたな…


「…いえ、」

それからの葉山さんはずっと無言でスマホの画面を見ている
俺に話しかけるなって空気…


「あの、葉山さん、」

ちょうど電車が駅に入ってきた

黙って乗り込むとまた当たり前のように私の隣に座った


「なぁ。」

「はい?」

「話があんだけど。」
   
「はい?」

「……」


え? ちょっと!
その話、待ってるんですけど?


「今週の土曜、」

「無理です、予定がありますから。」

「なんだよっ、速攻で断んなっ。」

「大事な予定があるんですっ。」

「チッ!」

「やっぱり短気ですねぇ(笑)」

あ、黙ってしまった



「…すまん」

えっ?
今 謝った??
葉山さんが!?

やっぱり熱でもあるんじゃ?


「なら…来週はどうよ…」

「まぁ、来週の土曜(祝日)なら…平日夜でも良いんですけど。何系の話ですか?まさか私に相談ごと…とかは無いですよね(笑)」

「デート…」

「はい?」

「来週土曜の休日は、デ…」

「デート!?いやいや、ただ話をするだけで良いんですよねぇ?」


葉山さんの顔が見る見る赤くなっていく

え…?
デートってマジ?
冗談じゃない...?

「ほら、なんだ!スポーツ、痩せたいんだろっ!?」
 

話じゃない?
デートがしたいの??
スポーツがしたいの???

目的がわからない話に戸惑った


「やっぱり熱でもあるんじゃないですか?」

葉山さん顔がますます真っ赤になった

「やっぱり熱あるんじゃ、」

「無いよっ!」

「なんなんです?そりゃ私は痩せたいですけど…で?スポーツって何するんです?」

葉山さんとの会話ってほんと疲れる


「テ、テニスしようぜっ、、」

テニス!?
あんなハードなスポーツとんでもない!!

「無理です。私の心臓もちません。」

「なら、ボーリング。」

「ボーリングしながら話しするんですか?」

「そう、だ、、」

なにがなんでもスポーツがしたいって訳ね
まぁ身体を動かす機会になるか…


「わかりました。」

「おぅ…ならボーリング。土曜、デート。」

「なんで片言…(苦笑) それともう!デートじゃないから!」

「… 嫌なら、いい。」


あれ? いきなり意気消沈?


「ボーリングは行きましょう。ボーリングで痩せるのかわからないですけど。」

「俺が痩せさせてやる。任せろ。」

はい??
あなたスポーツトレーナーさんですか??

面白っ(笑)


「なんだよっ。」

「葉山さんって意外と面白いんだなって(笑)」

「面白いことは何も言ってない…てか… 」

立ち上がった


「いつもそんな風に笑っててくれ。」

え?

電車は葉山さんが降りる駅に停まった

「約束、絶対に守れよ。」

「はーい。お疲れさまでしたぁ… 」


相変わらず単語会話で終わったけど

“いつもそんな風に笑っててくれよ”

って、だったらいつも笑わせてよ



デートってやっぱり冗談だよねぇ?
今日ずっと変だったけどやっぱり熱でもあったんじゃ...

ずっと顔赤かったし?




翌日も
その翌日も

それからの葉山さんはずっと
その変なままだった

優しくなったのは嬉しいことだけどね(笑)








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