たしかなこと 2 (7)
宣隆さんは何事もなかったようにまた同席の女性の方に向いてしまった
「(今こっち向いたよね!このカレシに似てるよね!)」
スマホの宣隆さんを見比べた
「どうして… ?」
おかしい
今 確実に目が合ったよ?
知らない人のふり?
胸が 痛い…
美南が私と宣隆さんと交互に見ながら
「あれって浮気じゃ… 」
ーー 浮気?
胸がまたズキンと痛んだ
「ははっ、まさかぁ… (笑)」
宣隆さんが浮気なんて
グレンさんが宣隆さんに話しかけている
二人が親しいのは話し方でわかった
「香… 顔、真っ青だよ」
宣隆さんが女性と立ち上がった
また宣隆さんは私の方に視線を向けそうになり私は咄嗟に目を反らした
その間に二人は店を出て行った
「なんで声かけなかったのよ…」
美南は怪訝そうに店の外に出た二人を見送った
だって…
宣隆さんなのに宣隆さんじゃないみたいな…
まるで私のこと
初めから知らない他人みたいな…
食事を済ませて私達も席を立った
宣隆さんに今電話をかけても…
きっと出てくれないよね
見送りに出てくれたグレンさんに声をかけられた
「香織、どうしたの?」
「え?あ、すみません(笑) また来ます(笑)」
グレンさんと美南が戸惑った表情をした
あれ? 涙が…
美南が慌ててグレンさんに挨拶をして店から離れた
「泣くなら何でさっき怒んなかったのよっ」
「私なんで泣いてるんだろ?あはは(笑)」
「そんなの腹が立つからでしょうが!(私もだけど!)」
腹が… 立つ?
「結婚の約束してるのにあんな堂々と彼女の前で平然と浮気する?… あ、もしかして本人じゃなくて双子の兄弟だった!とかかも!?」
「弟はいると聞いたけど詳しくは… 」
「じゃあそっくりな兄弟だったとか!? 」
「どうなんだろ… 」
「そんな偶然、ないか… でも確かめた方がいいからね。」
ーーー
0時を回った
遅くても23時には寝る宣隆さん
必ず寝る前にはメールをくれるけど
今夜はまだメールが来ない
やっぱりあれは宣隆さん… だよね
ソックリな兄弟?
でも兄弟についてきちんと話してもらってない
双子なら双子の兄弟がいると言ってもおかしくない
もう寝よう
夜中に悶々と考えてもろくなことしか浮かばないから
布団に入った
ーーあぁ、、やっぱり眠れない
結局 外が明るくなり朝日が登ってきた
仕事に行く準備しないと…
家の鍵をかけて駅に向かっていたらメールの受信音が聞こえた
開くと宣隆さんだった
“おはようございます。昨夜はメールができなくてすみません。帰宅が遅くなりましたのでメールをひかえました。香さん。今夜会えませんか?”
昨日のあの女の人の話… とか
“話があるんですか? ”
“ただ貴女に会いたい。その理由ではダメですか?(笑)”
ーー いつもの宣隆さんだ
“昨日会いましたよね?”
しばらく返信が来なかった
“それはどういうことでしょう? どこかで僕を見かけたという意味ですか?”
“昨夜、中目黒の店で女性とデートしてましたよね”
あ、電車!
そう送ってスマホを閉じた
ーーー
お店を開いて掃除をしていると
汗だくで息を切らした宣隆さんがお店に現れた
「なっ!なっ、、(ゼェゼェ)」
「え!?お、おはようございます(笑) 駅から全力疾走して来たんですか!?今お水入れますね!」
「一体、なんの、こと、ですかっ!(ゼェゼェ)」
まだ呼吸が整っていない宣隆さんに水を入れた
「なんのことですかって なんのことですか?」
水を一気飲みした
「デートって、どういう、こと、、」
昨日の夜の宣隆さんと別人みたい
「昨日は終日仕事で社内にいたんです。貴女は何か誤解してます!」
でもあの人は確かに…
「イタリアンのお店で女性と食事しているのを見ましたけど... 」
ハッとした表情をした
「えっ、どこの店ですか!?」
「中目黒のお店ですけど、、」
お店を掃除をしている私の後ろからずっと戸惑った表情でついて来る
「行ってません、 本当に行ってませんよ、嘘じゃないです、それは僕じゃない… 信じてください、本当なんです、香さん、あの、香さん、、」
こんなに動揺している宣隆さん… 初めて…
「 あ!もしかして双子の兄弟とかいます?(苦笑)」
視線を落とした
「それは… 本当に 顔も声も僕でしたか?… 」
気まずそうな表情だなぁ…
「目も合いましたし間近で見たので見間違いではありません。」
「あの、香さん 怒っていますか… 」
「怒ってませんよ(苦笑)」
怒りより…
「ただ… 悲しかっただけです。」
その瞬間 彼は眉間にしわを寄せた
「悲しい想いをさせて本当にすみません。でも本当に僕じゃない。その男は多分… 」
意を決したように彼が口を開いた
「もう十年以上会っていない僕の弟だと思います。」
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