たしかなこと 2 (11)
お風呂から上がって乾いた食器を棚にしまうと取り敢えず私の一日のルーティンが終わる
疲れてるとそれから直ぐに寝るけど
いつもは録画していたCSの映画を見る
宣隆さんは夜遅いのが苦手だから私が映画を見てるといつも途中からウトウトし始めて 映画が終わる頃には隣で完全に寝落ちしてる
眠かったらお布団で寝てと言っても いつも隣で私にもたれかかって寝てしまったり私の膝を枕にして寝たり
子供が母親にくっついて回るようにいつも傍にいる
そして時々確かめるように私を抱き締めてくる
それが甘えているようでいつも胸がキュン♡となる
会社で見ていた“クールな大人の白川部長”からは想像もできない
私が先にいなくなったら生きていけないのでは?と冗談で言った時
そんなこと一瞬でも考えたくはないから冗談でも言わないで欲しいと 真剣な返答が返ってきたこともあった
「香さん、もう終わった?」
私を待ちわびたように寝室から顔を出した
「終わりましたよぉ」
最後の食器を棚にしまい寝室に向かった
一緒に布団に入るとキスをしてきた
「明日 同窓会ですよね」
そう聞きながらパジャマを脱がされた
「うん、えっ?」首筋を舐めてくる
「クラスメイトに好きな奴とか … いた?」
「い、いない、、、」
私を知り尽くしている彼に触られると…
「そうか… 明日迎えに行くね。」
いつもはつけないキスマークを身体中につけられた
まるで “僕のものだ” と印をつけたいように
私の嘘に気付いたのかもしれない
ーーー
朝 鏡で首を見たら見えるところにはキスマークはついてなかった
「香さん、今夜迎えに行くから、もし二次会に参加するなら早めに教えてください。じゃあ行ってきます(笑)」
いつものように
いってきますのキスをして宣隆さんは出勤した
本当は当時 私は同級生の男の子に片想いをしていた
その彼が同窓会に参加すると友達から聞いていたけれど宣隆さんには言えなかった
心配してヤキモチを妬きそうだから言えなかった
宣隆さんが心配するほど私イイ女でもないのに
それなら宣隆さんの方がモテてたに違いないのに!イケオジ好きな女子には今でもモテそうだもの
声も素敵だしスタイル良いし腹筋や背筋とかなんだか凄くしっかり出てきて身体に厚みが出てきたからスーツを新調しないとなんて言ってたし
夜の同窓会用の服を持って職場の店に向かった
今夜 店を閉めてからそのまま同窓会の会場に向かうことになっている
ガーデンパーティができる洒落た店を貸切りにして高校の頃の同学年全クラスの生徒が参加対象になっている
仕事を終えて着替え、急いで電車に乗り会場のある駅に降りた
始まるまでになんとか間に合った
受付の参加名簿に名前を記入すると
“柚木 洋” のサインを見つけた
あっ… 柚木くん 来てる
ドキドキしながら受付で会費を払い会場の中に入ると今も仲良しのなっちゃんが私の所に笑顔で駆け寄ってきた
「柚木くん居るよ(笑)」
「別に… 柚木に会いたくて来た訳じゃないし…」
「でもこんな機会じゃないと会えないじゃない?」
然り気無く男性を見渡すとスーツを着たひときわ目立つ高身長の男性の後ろ姿
あれは柚木くん ーー
ーーー
柚木くんは高校でバスケ部だった
県大会で優勝を狙えるほどの実力校で柚木くんは期待をされているメインメンバーだった
身長も高くて爽やかでスッキリと整った顔立ちだったから女子にもモテていた
私も素敵だなと憧れで見ているだけだったけれどある日の休日 ショッピングモールで偶然柚木くんから声をかけられた
私服の柚木くんは初めてで学生服姿とは違って大人に見えた
その偶然がきっかけでたまに話をするようになった
柚木くんはモテてたから私からは声は掛けなかったけれど 練習を見学している女子の中に紛れていた私と目が合うと少しはにかんだように微笑みかけてくれた
私はそれだけで嬉しかった
そんなある日柚木くんが進学するの?と聞いてきた
大学に進学すると伝えると俺は留学するんだと残念そうに微笑んだ
「日本に帰ってきたらさ。もし笹山さんが俺のこと覚えてくれてたらまた会いたいな。友達としてでも構わないから… 」
15年も昔 忘れていてもおかしくないそんな小さな約束を私はまだ覚えている
想いが残っている訳じゃないけど あの頃の淡い恋心は忘れられない
「香、柚木くんこっちに向いたよ(笑)」
あっ…
一瞬で時が戻ったような
あの頃の気持ちが甦ってきた
あぁ… 駄目だ
ここには来てはいけなかったかもーー
柚木くんが私に向かって歩いてきた
「笹山さん…?」
私のこと覚えていてくれたーー
「うん。柚木くん、変わらず格好良いね(笑)」
「笹山さんは凄く綺麗になったね(笑)」
照れくさそうに笑った笑顔は昔と一緒で爽やかだった
私は顔が一気に熱くなって手も汗ばんできた
「向こう(海外)で何度も引っ越をして旅もして君の連絡先を無くしてしまったんだ。だから連絡できなくて… 」
柚木くんは留学先の大学を卒業をしてからしばらくバックパックで世界中を旅をし その後アメリカの企業に就職をしたと話してくれた
「こちらには仕事の転勤で先週帰国したんだ(笑) 同窓会があると聞いて、笹山さんに会えるチャンスだと思って… (笑)」
はにかんだその表情は バスケの練習で目が合ったあの瞬間の柚木くんと一緒だった
隣にいたなっちゃんがいつの間にか居なくなっていて私と柚木くん二人だけになっていた
「あそこに座ろうよ」
連絡先を失くしたってことは
あの時の約束 覚えてくれてたってことかな
「柚木くんはもう結婚してるんでしょ?」
「まだしてないよ(笑)」
「そっか… 柚木くんならこっちでも直ぐに相手はできるよ(笑)」
「… 君に会ったからそう簡単にはできないよ(笑)ははっ(笑)」
困ったように笑った
それはどういう…
「君が結婚したことを聞いた。笹山さんのことは何よりも一番に知りたくてね(笑)」
ドキドキしてきた
「どうして… 」
「俺の初恋の人だったから。」
ーー えっ
あんなに女子に囲まれ この人の周りには黄色い声が絶えなかったのに
「あの時… ちゃんと君に告白しておくんだったって後悔した(笑) 」
そんなこと…
今更 言わないで欲しい
複雑な気持ちになった…
「柚木くんが私のこと好きだなんて、そんな、、あの時に言って欲しかったな(笑)ははっ」
「直ぐに離れて暮らすことになるから言えなかった。言えば俺と君の関係は変わってたのかな。俺と君は繋がっていられたのかな。」
真剣な眼差しで見つめられ返答に困った
「おーい、柚木ぃ!」
柚木くんがバスケ部仲間の男子に呼ばれた
「あっ、柚木くん呼ばれてるよ、行ってきて、、」
「後で、必ず話を、、あ、これ俺の連絡先、今度こそ渡すつもりだった」
名刺を受け取った
外資系の企業なのかな
よくわからないけれど裏には私へのメッセージとプライベートアドレス、プライベートの電話番号が書いてあった
“ずっと笹山さんに会いたかった。日本に帰ることになって一番に頭に浮かんだのは笹山さんだった。また会えて嬉しい。”
どうしよう
ドキドキしてる
でももう会わない方がいい ーー
同窓会が終わり
みんなが会場に退出し始めた
そのタイミングで化粧室に入り柚木くんも皆と一緒に出て行くのを待っていた
ざわつく人の声が聞こえなくなるまで待ち静かになると化粧室を出た
もう誰も居なくなっていた
スマホにはなっちゃんからメールが入っていた
“どこー? 先に出た?二次会来られる?会場はここだよ!”
地図が添付されていた
二次会には行けないと返信をすると男性の手が私の腕を掴んだ
柚木くんだった ーー
「笹山さん、探したよ。もしかして俺のこと避けてる? やっぱり迷惑だったのかな…」
寂しそうに微笑んだ
「そういう訳では…」
「本当に、本当に俺、君に会えて嬉しかったんだ。あの時の約束、俺忘れてないよ、君は忘れてしまったのかな…」
胸がズキンと痛んだ
「それは… 私も、」
静かになった会場で後ろから誰かが歩いてくる足音が聞こえた
ーー 宣隆さんだった
「すまないが妻の手を離してくれるかな。」
柚木くんの手を払い 私の肩を抱き寄せた
「えっ、、」
動揺した柚木くんの表情に気まずくなった
私の肩を抱いて帰ろうとしたら柚木くんが声をかけてきた
「あの!すみませんが、笹山さんと話す時間を俺にくれませんかっ!」
柚木くん ーー
「一体なんの話があるのかな。」
昔、会社で見ていた塩対応の時の宣隆さんだった
そして威圧的に感じる声…
「どうか、二人だけで話す時間を僕にください!!」
そんな宣隆さんに怯まず深々と頭を下げた
柚木くん…
どうしてそこまで
宣隆さんに深々と長く頭を下げている柚木くんに宣隆さんが声をかけた
「…3分。3分だけですよ。」
「ありがとうございます。」
顔を上げた柚木くんは少しホッとした表情をした
宣隆さんは私に少し微笑んで会場の外に向かった
「ごめんね、笹山さん… 」
「ううん、、どうしてそこまで… 」
「高校の頃の君と変わってしまっていたら約束なんて忘れたふりをしようと思ってた。でも変わってなかったから俺…
もちろん君は結婚してるから今更俺が割り込めるはずもないし、それで君が悲しい想いをするのは俺も不本意だよ。でもやっぱり笹山さんが好きだって思った。
ちゃんと想いを伝えたかった。じゃなきゃ俺ずっと忘れられないままになる。 友達になれたら、なんて約束したけど… 俺の方が無理だ(笑) 好きなのに友達になんてなれそうもない(笑)」
柚木くんは悲しそうに笑った
「私も… 」
あの頃みたいにドキドキした
宣隆さんと付き合ってなかったらもしかしたら柚木くんと…
「柚木くんとは友達になれそうもないや(笑)ふふっ(笑)」
「それは君が既婚者だから? それとも俺と同じ気持ちってだからってこと…?」
「それは… 」
カツカツと足音が近付く音が聞こえてきた
宣隆さん…
「3分だ。香さん、帰ろう。」
出口に向かって歩き始め
宣隆さんは突然足を止めた
「君は…」
振り返り柚木くんに静かに話しかけた
「君は香さんの青春時代を知っているが僕は知らない。僕の知る香さんは今の大人になった香さんだけだ。だからこそ青春時代の輝いていた香さんのことを忘れず淡い思い出にして欲しい。僕には得られないその思い出をね。」
そう言って会場を後にした ーー
駐車場に停めた車に乗り込んで宣隆さんは車のエンジンをかけた
「宣隆さん、あの、、」
「何か食べに行ってもいいですか?僕は君の同窓会が気になってまだ晩ご飯食べてないんですよ(笑) お腹すきました(笑) 」
いつもの宣隆さんだった
優しく微笑んで私の手を握った
「うん、そうしましょう。私もあまり食べられなかったから(笑)」
宣隆さんは会話を聞いていたのかな
もし聞いていて柚木くんにあの言葉を言ったのなら…
宣隆さんはやっぱり大人だな…
私には無理だ
あんなこと言えない
“僕のもの”の印(キスマーク)をいっぱいつける可愛い所もあるけど
「ふふっ(笑)」
「何故笑うんですか?(笑) 髪型?服?変ですかね… 」
「そういやいつもと雰囲気違いますね(笑)なんだか若く見えます(笑)」
「若い方々が集まる場所に出向くんです。貴女の父親が迎えに来たと思われたくはなかったんです(笑)」
「あははっ!(笑)父親には見えません(笑)」
この人のこういう所がとても可愛くて
やっぱり好き
思っていたよりヤキモチ妬きで
愛してるって言葉は少ないけど
いつでも 私を想ってくれている
大きくて温かなこの手はいつも私を包んでくれている
「… 幸せだなぁ… 」
「え? なんですか?」
「お腹すいたなぁって(笑)」
「すきましたね(笑) 何食べたいですか?」
「餃子とラーメン(笑)」
「想像したら余計にお腹すいてきましたよ(笑)」
こういう日常が幸せなんだなぁ…
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