気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

恋愛小説のように 5

2020-12-19 11:29:00 | ストーリー
恋愛小説のように 5





遊を連れて帰って来ちまった...


抱きてぇなぁと何度も思ったことを隠してきたけど

もう隠さなくても...
いいんだよ、な...?


遊は居心地悪そうにソワソワしていた


「まだ、飲むか?」

「は、はい... 」


冷蔵庫からビールを2缶
乾き物のつまみとグラスを持って遊の隣に座った

隣に座ったことが
わざとらしいだろうか...

グラスにビールを注ぐと遊は一気に飲み干した

「おいおい、もっとゆっくり飲めよ(笑)」

「酔わないと緊張が溶けないんですっ!」

「は?」

そんなに緊張してるのか

「んじゃ、どーぞ(笑)」

グラスに注ぐと一気飲みした

「また一気飲みかよ(笑)」


そんな調子で繰り返すこと3回
まだ飲もうとしたのでグラスを取り上げた


「それじゃ酒の旨さなんかわかんないだろ?大人の酒の飲み方覚えろよ。」


遊は首まで真っ赤になっていた

隣に座っている俺の位置から
胸の谷間が見えて

想像していたよりもしっかり谷間ができるサイズに目が釘付けになった


「そんなに... 緊張...するか?... 」

俺の心臓
うるさい!


「... ふぇ?」

眠そうな
虚ろな目で俺の顔を見てテーブルにうつ伏せになってしまった


やっぱ飲ませるんじゃなかったなぁ、、


「うっ... 仕方ない...もう寝るか?」



今夜 遊と... って思ってたのによぉ...


抱き上げて俺のベッドに寝かせた

遊びならこのまま酔った勢いで、ってこともあるだろうが



ーー 遊は違う

俺は本気で好きだ...

大切にしたいと思う

大切にしたいなんて思う存在がまた俺にもできるとはな...


「今夜は俺、酒控えてたのになぁ〜(笑) 」


眠っている遊の髪を撫でて軽くキスをしたら反応した


「もっと... 」


え ...?

「え〜 ... マジ... ?」


遊は俺のTシャツをねだるように掴んだ

「キスだけで止まらなくなっちまうけど... いいか?(苦笑)」


初めて俺は遊を抱いた


こんなに
愛おしく想ってたなんて




ーーー




翌朝目が覚めると
隣に遊がまだ寝ていた

寝顔...
初めて見たな

子供みたいな寝顔(笑)
可愛いやつ...


しばらく眺めていると遊は目を覚ました

寝ぼけているのか
ぼーっと俺を見てると思ったら

「っ!、、、センセッ!?」

急に頭が起きた


「おはよ(笑)」

「おっ、、はよう...ございます... 」


照れ方が... 可愛い(笑)

昨夜も可愛いかったもんな



「見てないで起こしてくださいよ... 」

「寝顔が可愛いんで眺めてた♡」

「朝から何言ってんですか、、」


いつもはバタバタと忙しく家事をやっていて子供みたいに元気や笑顔をするのに



「女なんだなぁ... 」

顔にかかった前髪を流した

「どういう意味ですか!?」

ムスッとした

「ん〜?」
抱き締めながら

「ゆうべは色っぽくて可愛いかったなぁと思い出してた(笑)」

「恥ずかしいこと思い出さないでくださいよっ!」

「あははは(笑) ほんと... また抱きたい。」

「うっ... 甘い言葉に慣れない... (苦笑)」

「その内慣れちまうんだろうなー(笑)」


居心地が良い...

できれば
ずっと傍にいてくんねぇかなぁ...




ーーー




遊の希望で俺達は東京ディズニーランドにやってきた


「旅行って距離じゃないだろ?(笑)」

「良いんですぅ!センセと来たかったんですから(笑)」


いつでも来られる東京ディズニーランドだけど

俺は一度しか来た事はなかった


人が多く華やかな所は落ち着かない


楽しそうにはしゃいでいる遊を見てるだけで俺は満足だ


陽が落ちて
華やかなパレードを見上げている遊は幸せそうで

やっぱり来て良かったと思いながら
肩を抱き寄せた


今日はクリスマスイブ ーー

街の街灯も店も
まるで恋人達を祝福するように煌めいていて

遊の手を握ると冷たくて

センセの手はどうしてこんなに温かいの?と微笑んで見上げた遊にキスをした




それから一年

またクリスマスが来ようとしている





以前は週2回
遊に家政婦として来てもらっていたけれど

もう遊が家政婦として訪れることはなくなった




俺は新しい家政婦を雇い入れていた



「先生。今日はこの辺でおいとまさせていただきます。」

「あぁ、ありがと。ご苦労さん(笑)」

「では。」



今度は佐藤という男の家政婦だ


女だと遊がヤキモチ妬くと思って
男の家政婦に来てもらうようになって半年になる



遊は今 会社に就職をしてOLをやってる


実家の金物屋は親の年齢を考えて店を畳むことにしたからだ



素朴で少々野暮ったい遊が俺は可愛いと思ってたけれど

外で働き始めた遊は
街ゆく女性のように垢抜け 綺麗になっていった



変わっていく遊に少しの寂しさを感じながらも

俺は遊を変わらず愛していた...




「こんばんは〜!」

遊は仕事帰りに 時々うちを訪ねて来ていた




「おぅ、今日もお勤めご苦労さん(笑)」


「ケーキ買って来たけど食べます〜?(笑)」
テーブルにケーキの箱を置いた


「お、サンキュ〜♪」



手慣れたようにコーヒーメーカーでコーヒーの粉を入れて冷蔵庫のミネラルウォーターを入れた


「家政婦さん、何作ってるのかなぁ?」

遊は冷蔵庫のタッパーを開いて見ていた

「わ!ラザニアの作り置き!?私は作らなかったなー(笑)」


「できれば家政婦仕事の延長で肩も揉んでくれねぇかなぁなんて思ってんだけどな(笑)」


「ふふっ、それは家政婦の仕事じゃないよ(笑)」


「んじゃ呼ぼうかな?おねえちゅんが出張してくれる如何わしいマッサージ(笑)」


「全く、なに言ってるんですか(笑)」



以前ならカンカンに怒るような冗談も

いつの間にかサラッと受け流すようになっていた



それが今の遊だ ーー



「...ほんと綺麗になったな。 遊 ... 」

「え?突然なんです?(笑)」

「ほんとにそう思ってんだよ...(笑)」



照れていた頃が懐かしい...


「明日休みだろ。今夜... 泊まっていけるのか?」

「え〜?明日予定が入ってるから帰るよ(笑) 」


俺の顔も見ず
コーヒーを入れて持ってきた



「また二人で旅行に行きたくはないか。」



やっと俺の顔を直視した遊は
パチパチと瞬きをした


「...え? ははっ(笑)春になって暖かくなった頃ね(苦笑)」


遊は困った顔をして笑った...




ーー あんなに俺の原稿を読みたがっていたお前が今は全く読みたがらなくなった




俺達は不仲になった訳じゃない



でもこうして会っていても恋人同士のような空気は無く 触れ合うことも無くなった


友人のようにひとしきり会話をして遊は帰っていくようになっていた



もう
俺達に “その春” は来ないと悟ったーー



やっぱりもう
駄目なんだな 俺達...



わかってたよ

けど気付きたくなかった






「なぁ遊... 俺達、別れないか。」


「...え?」




子供みたいに屈託のない笑顔が愛おしかった


いつの間にか
お前は大人の女に変わっちまったんだなぁ


それは決して悪いことじゃない
お前は進化し 成長してんだ


でも 好きになった時から心まで変わっていくことに俺は不安と寂しさを感じていた




「お前も結婚したい年頃だろう。」


煙草の煙をゆっくり吐いた


「急にどうしたんですか?」

「急じゃない。前から考えてたことだ。」

「...本気で...別れたいんですか?」


その震える声で
俺は胸を突かれたように強く痛んだ



「もう、いいんだよ。無理して来なくても、な(笑)」



お前が義務感のように訪ねて来ていたのも
俺は気付いてた


残念ながら
俺はそこまで鈍感な男じゃない




「...いつもの...冗談ですよね?」

「ふっ(笑) 冗談で言うことじゃねぇだろぉ?(笑)」



遊は絶望的な表情で
涙が溢れそうになった


「やだ... 別れたくない... 」


それは
思ってもみなかった返事だった...



声を震わせながら拒んだ遊に胸の痛みは止まらなくて

気持ちが揺らぎそうになった




昔のように頭を撫でた


「結婚してやれん俺といても仕方ないだろう?(笑)」

「...結婚して欲しいなんて...頼んでないっ!... 」



幾つも
涙を落とした



どうしてそんなに泣くんだ...

もう俺のことなんか
好きじゃないはずだろ?



「勝手に決めないで!」


しがみつくように俺を抱き締めてきた


「俺が身勝手な男だってこと、お前だって知ってるはずだ
ろ(笑)」


なだめるように
頭を撫で続けた



結婚という言葉を明確に口にしなくても
お前が結婚に憧れを持っているのは知っていた


友人が結婚をするんだと嬉しそうに話す遊は羨ましそうな表情だった


年老いた両親が年頃の娘の将来を案じて結婚しないのかと心配していることを

さりげなく俺に話したことも...




俺はその気持ちに応えてはやれない



俺は一生結婚しないと

お前と付き合う前から決めてたんだ



ーー それはあいつが事故で死んでから





「私のこと、もう愛してないんですか...?」


違う
そうじゃない


心から愛してるから
お前の手を放すんだよ...


なんだ…
まだお前は阿保ぅなヤツだったんだな(苦笑)



「ーー すまん 」







付き合い始めて
たったの1年4ヶ月



12月12日の寒い夜



ーー 俺と遊は別れた








テーブルには冷えたコーヒーが二人分
そして遊が買ってきたケーキが二つ残されていた


あぁ...

さっきまで遊はここに居た ...



あんなにバタバタと歩きながら家事をやっていた遊は


もう二度と
ここには来ることはない...




なんとか涙を堪えきった

あいつの前では泣けないからよぉ…




でもやっぱ...


独りになると
堪えてきた涙が出ちまう ...



「はぁ〜 ...幸せになってくれよ...そのために手を放したんだから 」






ーーー





突然
幸輔さんから別れを告げられた



辛過ぎて
悲しすぎて

夜通し泣いて



今日は親友の真菜のショッピングに付き合う予定をキャンセルした


今はそんな気分じゃない...



幸輔さんはいつから私のこと好きじゃなくなったの...?


結婚したいなって思ってた私の本心が重荷だったんだろうか...



幸輔さんと結婚したらきっと
明るくて楽しい家庭になっただろう... な...


「うっ、、ううっ、、うっ、、」



また涙が出てきた



たとえ結婚はできなくても
ずっと一緒にいたかった...



出会った時から最後の瞬間まで
幸輔さんの優しさはずっと変わらなかった


憧れの作家先生から恋人になって変わったことは

時々くすぐったくなるような言葉を私にくれるようになったことだった




ロマンチストな物語を書く人だから

話口調は粗暴でも本来の幸輔さんはとてもロマンチストな人だったんだと付き合うことで実感した



別れを告げる時さえも
悲しげに私に微笑んでくれた

温かい大きな手でずっと頭を撫でてくれた




今、電話をすれば

“夢でも見てたんじゃねぇの〜?(笑) 寝ぼけてんじゃねぇよっ(笑)”


そう言って幸輔さんが笑ってくれるかもしれないと

可能性の無い希望を持ってしまうーー





新しい仕事
新しい世界
新しい人間関係


この一年間で私を取り巻く環境は大きく変わった



新しい業務を覚えるのは大変だったけど

目新しいことはキラキラした世界のように思えて充実していた


この一年で変わってしまったのは幸輔さんの心だけじゃなく私もだった...



私はいつも自分の話ばかりで
幸輔さんを思いやる事がなくなっていた


幸輔さんへのドキドキする感情も次第に無くなっていき

お兄さんのような温かい存在に変わっていった


原稿を読ませてもらうことも忘れるようになって

今更 読ませて欲しいとは言えなくなってしまった

幸輔さんはその事も気付いていただろう




でも幸輔さんは何も言わず

ただ、私の話を“うん、うん”と微笑みながら優しく聞いてくれていた


きっとその間もいろんな事を考えていたのかもしれない



いつでも私が自由に会いに行って
彼は変わらずいつものようにあの場所で温かく迎え入れてくれる

家族のように...



傲慢にも勝手にそう思い込んでいたことに

別れを告げられて初めて気付かされた




幸輔さんが以前よく私に“阿保ぅなヤツだ(笑)”と笑っていたけど


本当に私はいつまでも子供で
阿保だったんだって実感した





やっぱり幸輔さんは大切な存在で
こんなにも好きだったってことに今頃 気付くなんて

本当に私は阿保ぅだ...







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