beautiful world 12
ーー “約束。絶対に守れよ。”
今日は葉山さんとボーリングの約束の日…
先生と毎日メールや電話をして
ウキウキしてたこの一週間
昨日まで完全に葉山さんとの約束を忘れてしまっていた
なんで…
なんで私約束なんてしちゃったんだろっ!
なんで忘れてたんだろーっ!
私のバカ〜ッ!!
「おい。何やってんだ。」
「行きますよっ!」
思い出した時に今日のこと先生に伝えておくべきだったかな…
まさか先生とお付き合いできるなるなんて奇跡が起きてしまったんだもの!
浮かれて忘れて当然だよね!!
もし葉山さんと一緒にいるところを先生に見つかったら…
誤解しちゃう…?
私、嫌われちゃう…?
そんなのイヤだ…
やっぱり葉山さんには仮病使って断れば良かったのかな…
でももう今さら遅い!
とにかく人目につかないように…
パーカーを深く被りだて眼鏡とマスクをし誰にも私だと気付かれないよう葉山さんについて歩く
「なんか、、まるで不審者だぞ… 暑くねぇの?」
「私のことは気にしないでください、話しかけないでくださいっ」
どんなに怪訝そうな目で葉山さんに見られても暑くても今日はずっとこうしてなきゃ!
とにかくこんな人混みにいたくない!
「は、早く!行きましょ!!」
「(ボーリング)やる気まんまんだねぇ(笑)」
ニヤリと笑った
やっとボーリング場に入った
周囲を見渡しても見知った顔はない
「ふはぁ〜!暑かったぁ〜!」
「そりゃそうだろうよ。ほれ。」
葉山さんは自販機で買った水を手渡してくれた
「足のサイズ幾つ?受け付けしてくっから。」
慣れたように受付に向かった
よく見ると普段着の葉山さんって結構オシャレさんなんだな
黙ってたらそれなりに良い男?みたいだけど 何考えてるかほんとわかんない人だからな
根っから悪い人じゃなくて
ただ不器用なだけなんだろうなって最近わかってきた
―――
「葉山さーん。まだやるんですかぁ?もう終わりにしましょーよ。疲れましたよぉ。」
6ゲーム目が終わっても葉山さんは7ゲーム目を続けようとしている…
どんだけボーリング好きなのよっ!!!
「これが最後だっ!今度こそパーフェクトを取ってやる!!」
めっちゃ燃えてる…
もう執念としか思えないんですけど…
「じゃあ一人でやってくださ~い」
「は?何言ってんだ!痩せたいからここに来たんだろ?」
「もう3キロは痩せましたぁー。」
「んな訳ねぇだろっ!ほら、やんぞっ!」
結局 7ゲーム目も付き合って葉山さんは最後の最後で1本だけピンが残ってしまいめちゃくちゃ悔しがりながらもボーリングを終了してくれた
「ほんと腕の力無くなっちゃいましたよ。」
「弱っちいな。図体だけかよ。…あ、いや、すまん… 腹減ったし飯行こうぜ…」
…今 謝った?
葉山さんが? 空耳?聞き間違い?
ほんと
どうしちゃったんだろう…?
ーーー
創作料理のお店に入って周囲を見渡した
よし、ここも知り合いはいないなっ!
「なぁ。なんでそんなに周り気にしてんだよ。」
「えっ、そんなことないですよ?(苦笑)」
「…… 」
怪訝そうな目で私を見てメニューに視線を移した
いつもの葉山さんだ…(苦笑)
そんなにつまらなそうな顔してるのになんで私と今こうして向き合ってるのか全く理解できない
「ダイエット中だもんな。俺が決めてやるよ(笑)」
おや?ちょっと笑った?
「なんでもいいんで早く頼んでください、お腹空いたので!(笑)」
葉山さんが頼んでくれたのはほんとにヘルシーなものばかり
「こんなんで葉山さん大丈夫です??」
「俺は晩飯でガッツリ食うさ。」
と言ってニヤリと笑った
「一応気遣いしてくれてるんですね(苦笑)」
「ったり前だろ。ダイエットに付き合うって約束したしな(笑)」
なんだか超ご機嫌…
今日は貴重な葉山さんの笑顔をよく見る…
って、ちょっと!
約束なんてしましたっけ!?
あ、そうだ
俺が痩せさせる!なんてこと言ってた…
私、頼んでないんですけど!!
―――
食事を終えてお店を出た
「よし。飯食ったし今から一駅分、歩くぞ!」
そう言って歩きだした
また歩くんだぁ…
できればもうここで解散しませんかね…
線路沿いの道を歩く
ウォーキングというより散歩の速度
やっぱり私のことを気遣ってくれてる…?
何本もの電車が通り過ぎて行く
もう目的の駅が見えてきた
「そういえば、葉山さんなんか話があったんでしたよね?」
「あ、あぁ…」
それっきり黙ったまま歩き続けてる
話は?? なんなのよぅ
「ダイエットなんですけど、これからは一人で頑張りますから葉山さんにはもう、」
「俺が…田中さんに付き合いたいんだ。 」
ドキッとした
「なんでそこまで、、」
葉山さんの足が止まり
また電車が私達の横を通り過ぎていった
「… 俺、田中さんが… 好きなんだよ… 」
ーーは?
“好き”って…
真剣で真っ直ぐな視線
でも少し悲しげに見えて
あの夜の葉山さんだった
「いつも会社では私だけ厳しいのに…」
「違うんだ… ほんとは俺、」
「ごめんなさい!私には好きな人がいるんです!」
葉山さんは複雑な表情をした
「俺じゃ… ダメなのか…?」
なんでそんな泣きそうな目をするの?
傷つけてるみたいで胸が痛くなるよ…
でも、私には
「ダメです。」
突然手首を強く掴まれ驚いた
「今まで本当にすまなかった。もっと大事にする。俺、ほんとはもっと優しくしたいって思ってんだ。なのに全然…うまくいかない… 」
最近なんだか様子が変だと思ってた
以前よりずっと優しくなったのは気付いてた
それはそういうことだったんだ…
「わかって欲しい、俺の気持ち、俺は本気で田中さんのこと、」
掴まれた腕を離そうとしても強く握られて振り離せない
「困りますっ、離してください、」
その瞬間
突然 私を掴んでいる葉山さんの手首を誰かが強く掴んだ
「何やってんだ!」
――先生だった
なんでここに…
どうして…
いつも穏やかな先生が
見たことのない激怒の表情をしていた
葉山さんは険しく眉間にシワを寄せた
「お前誰だよ!離せ!」
「お前こそ誰だ。早くこの手を離せ。」
冷静な口調なのに威圧的な低い声に私は動揺した
葉山さんを掴んだ先生の手がギリギリと強く握ると私を掴む葉山さんの手が緩んだ
葉山さんから私を引き剥がし先生の腕の中に引き寄せられた
「せっ、先生、あのっ、この人は職場の先輩で、」
葉山さんはハッとした表情をしていた
「“先生” …だって?」
内緒で葉山さんと二人で会っていたことを知られてしまったことに血の気が引いてきた
「職場の先輩だろうがなんだろうがそんな事は関係ない。この男が今君を困らせているのは事実だ。」
先生の恐ろしく鋭い眼は葉山さんから逸らさない
理性的に話そうとしている口調は力強くて
まるで今から男同士の決闘でも始まるかのように見えた
私の知らない先生の一面だった
「カレシ…なのか?」
葉山さんは戸惑いの表情で私を見た
「そうだ。こんな所でなにしてた。明らかに嫌がっていただろう。」
私を抱く腕の力が強くなりその声も更に威圧的になった
「あの、あの、先輩とは、何でもなくて、、」
私が話しかけても
先生は葉山さんから視線を全然逸らさない
「俺は今 田中さんと大事な話をしてたんだ。邪魔すんな。」
葉山さんも怒りを滲ませている…
本気で大人の男同士が言い争う場面なんて関わったことも見たことすらない
…恐くて震えてきた
「は?話なら電話で済ませられるだろう。なのにわざわざ休日に呼び出してまで話す内容とは何なんだ。それにこれは仕事じゃなくプライベートだろ?一体何が目的なんだ。」
私を抱くその手にますます力がこもった
「俺はただ彼女に、」
葉山さん!それ以上言わないで!
「葉山さんは!今日私の事情に付き合ってくれただけで、本当にそれだけなので、だから先生、」
それでも先生は私を見ようとしてくれない
「二度とこんな風に彼女をプライベートな事で呼び出したり関わろうとしないでいただきたい!もしまたこんなことがあったら次は絶対に許さないからな。」
強い口調で葉山さんに警告を言い放ち
私の手を強く握りしめその場を後にした
振り返ると葉山さんは何か言いたげな悲しい表情で連れていかれる私を見つめていた
―― 葉山さん
「先生、先生、あのっ、」
黙ったまま真っ直ぐ前を向いて歩く先生のその眼差しは険しいままだった
――――――――