気まぐれ徒然なるままに

気まぐれ創作ストーリー、日記、イラスト

風 2

2020-04-09 21:35:00 | ストーリー
風 2





俺が千葉に越してきた頃の話だ

まだ21の俺は田舎から都会に越してきて
期待でワクワクしたスタートだった

同じアパートの二階には年齢の近い女の子が住んでいた

彼女も少し前に田舎からこのアパートに上京してきたらしくお互い地理もわからない同士だったからか俺達は直ぐに仲良くなった


方向音痴な彼女より俺の方が早く周辺の地理や店を覚えたから よく一緒に近所のスーパーマーケットに食材の買い物に出掛けた

のんびりした性格の彼女は俺よりも田舎町で暮らしていたようで

純粋で俺より世間知らずな所があったから変なやつに騙されたりしないかと見てて心配になるほどだった

そんな彼女に
俺は気がつけば恋をしていた


一年が過ぎた頃だったか…
定期的に夜 彼女の部屋に訪ねてきている男がいることがわかった

スーツにネクタイ姿
随分と歳上の大人のサラリーマン

きっと… 彼氏なんだろうな…

同じアパートだから二階に上がる階段を革靴で昇るカン、カン、という音がする度に俺は胸が締め付けられた

そんな夜は同じアパートに居たくなくて俺は携帯と財布を持ってコンビニに出かけていた

いつものように帰り道の公園で携帯を見ながら時間を潰してると雨がポツポツと降ってきた

仕方なくアパートに戻って鍵を開けようとした時
二階の部屋のドアが開いて口論する声が聞こえた

声のする方を見上げると彼女が男に出て行ってと泣きながら訴えていた

男は諦めたのか 本格的に降りだした雨の中を大通りの方向に歩いて行った

その後ろ姿を彼女は泣きながら見つめていた


それからの彼女はいつもと変わらなかった

買い物に行くんだけど米とか重い物を買うなら一緒に行かないかと尋ねると彼女は笑顔で行くと応えた

あの男と完全に別れたのだろうか…
気になるけど 俺達はそういう話をしたことがない

彼女は通り過ぎるスーツ姿の男に自然に目がいっているのを俺は気づいていた

やっぱりまだ忘れてないんだと
俺の胸はその度痛んだ


買い物を済ませてアパートに帰る途中にあるいつも時間潰しをしていた公園の横を通りすぎようとした

公園には子供連れの母親が数人いた

彼女は俺に 不倫についてどう思うかと尋ねてきた

ーー あの男は既婚者だったのか


俺は不倫についてなんて考えたこともなかった
まだ22だし俺の日常には無い話

俺の両親は仲が良いとも悪いともいえない
本当にどこにでもいる普通の夫婦

親父は趣味のサーフィンはたまにやってたけどサーフィンをしない休日は家で一人で音楽を聴いてる

昔のディスコミュージックを聴いてはどうも踊っているようだった
(ドンドンと音がしていたから)


うるさい!とオカンにどやされるとおとなしくヘッドフォンに変えて機嫌良く聴いてる

平日は職場から毎日直行で帰宅してたし親父が浮気してないのは俺から見てもわかる


でも 誰もが結婚する時は浮気なんかするつもりなんかなくて 世界で一番好きな相手と結婚してんだろ?と漠然と思ってたぐらいで 浮気とか不倫とかについて深く考えたことなんかなかった


彼女は俺に良いご両親の元で育ったんだねと微笑んだ

良い両親かどうかはわからないけど それを見て育った俺にはそれが普通だと思ってた

彼女の両親は不仲だったようで早く自立して暮らしたいと実家から離れた今のアパートに暮らし始めたようだ

彼女からそんな薄暗い過去の話を聞いたのは初めてだった

幸せになるのって難しいんだよと
彼女は少し悲しげに微笑んだ

難しいかな
俺はそうは思わないけど…

幸せなんて旨いもん食ってても思うし
良い波が来てて大好きなサーフィンをやってる時は最高!って思うし…

そんな風に普段の日常の中で幸せと思えることが沢山できればいいのに

俺が単純だから?と言うと
佐々木くんとこうして話してるだけで楽しいからこれも幸せってことかな?と笑った


それから たまに一緒に飯作ったり一緒にゲームで対戦したりするようになった

ゲームをする時は俺の部屋に来る彼女

初めて俺の部屋に彼女が来た時は心臓がバクバクだったけどそれも段々慣れてきた頃

彼女の携帯にまたあの男から着信が入った

彼女は鳴り続ける携帯を取ろうかと迷っていた
俺はその携帯を勝手に切った

あんなに泣いて辛い思いをしたのにまた繰り返すなんてダメだ

そうだねと微笑んだ表情が 少し寂しそうに見えて
俺は衝動的に彼女を抱き締めた


彼女から女の子の使うシャンプーのいい匂いがした
手に伝わる細い肩に 俺の胸は急にドキドキして

このまま これからどうしたらいいのか
よくわからなくなった


抵抗しない彼女は今どんな顔してるんだろう

泣いてるかな 困ってるかな
恐る恐る身体を離して彼女の顔を覗きこんだら

恥ずかしそうな表情をしていた

その表情に俺も凄く恥ずかしくなって
ごめん!と彼女から離れた


俺 君が好きなんだ
もうずっと前から…

ずっと胸に秘めていた気持ちを彼女に告白した

彼女は戸惑いながらも嬉しいなと微笑んだ


でも…
俺達は付き合うこともなく

一年後 彼女はアパートを引っ越していった


俺も彼女を忘れるために
海の近くのアパートに引っ越してサーフィンに没頭した


それからも女の子と知り合っては何となく良い感じになって その流れで付き合ったりもしたけど

やっぱり時々思い出すのは
あのアパートで出会って恋をしたあの子だった


俺 本当に あの子が好きだったんだ ーー






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