モジリア

74歳のブロガー。ギネスを目指す!(^^)!
おじさんが読む「赤毛のアン」

豆本小説 ランドセル

2013年03月08日 | 豆本

 「ランドセル」

鎌ヶ谷市立南部小学校は教室が市内で最も多く、

児童数が最も少ない小学校です。

 

隣接する鎌ヶ谷グリーンハイツは

団塊の世代が多く住み、小学生も少ない。

 

マーちゃんは去年5月、両親と3年生の姉の4人で福島県から

鎌ヶ谷グリーンハイツ16号棟に避難してきた。

今年4月マーちゃんは南部小学校へ入学する。

 

マーちゃんの家は津波で流され、

小学校の講堂で避難生活を送っていたが、

お父さんの高校の同級生の世話で

鎌ヶ谷グリーンハイツに引っ越すことになった。

 

マーちゃんのお父さんもお母さんも

なるべく早く福島へ帰りたい、と思っていた。しかし、

放射能問題が深刻化するにつれ、

グリーンハイツで腰を据え、生活を立て直そうと考えるようになった。

 

マーちゃんは新しいランドセルを買ってもらった。

南部小学校へ入学するのを期に本籍も鎌ヶ谷市へ移すことにした。

 

お父さんは決意を固めるためにも本籍を移し新たに出発したかった。

だが、お母さんは本籍地を移すことには抵抗があった。

 

鎌ヶ谷で生活を立て直す覚悟はあるのだが、

何時の日か、生まれ育った福島へ帰りたい気持ちもある。

本籍、と云う痕跡だけでも残しておきたい気持ちだった。

 

お姉ちゃんが夏休み、お姉ちゃんの部活で学校のプールに

お姉ちゃんと一緒にお母さんとマーちゃんは付いて行った。

 

南部小学校の近くは梨畑が多く

、梨農家の庭先には旗を立て、袋詰めになった梨が売られている。

 

お母さんは4個入り五百円の梨を買った。

お金を払い、梨を受け取ると、梨屋のおばさんは、

「チョッと待ってください」と云って奥から梨を三個持ってきて、

「商品にはなりませんが、食べられますから……」と云ってお母さんに渡した。

 

四個買って三個おまけにもらう、マーちゃんはすごく得した気になった。

お母さんは、おばさんに話しかけたい気になった。

 

「ありがとうございます……」と云って福島県から避難してきたこと、

鎌ヶ谷で生活を立て直そうと思っていること、そしてお父さんは

退路を断つためにも本籍地を鎌ヶ谷に移そうとしていることなどを話した。

 

おばさんは、じっと聞いていたが、

「そうですか、それは大変でしたね……」と云って、

また奥から紙に包んだものをお母さんに渡して、

「ホンの気持ち!引っ越し祝いです、頑張ってください!」

と云ってお母さんの手に握らせた。

 

「知らない人に……いただけません!」と云って押し返そうとしたが、

「気持ちです!気持ちだけですから……」と云って

返そうとするお母さんの手を押し留めた。