「エスカレーター」
茉子は間もなく5年生になる、
4年生ではいじめに苦しんでいるようだった。
もう3月、間もなく4学年が終わる。5年生になれば、クラス替えもある。
茉子は、4月になれば、4月になれば、と一途に我慢を重ねてきた。
祖母の文恵はそれとなく茉子の頑張りを分かっていた。
茉子を労わってあげたかった。
4月から新たな学年が始まる。
なにか、お祝をしてあげたかった。
何が良いだろうか、しばらく思案していた。
何か華やかなものを贈ってあげたかった。
着るものが良いか、持ち物が良いか、身近な持ち物が良い、と思った。
持っているだけでお婆ちゃんを思い出し、
慰め励まされる、そんな持ち物が良いと思った。
文惠は度々船橋駅にある東武デパートへ出かけては
あれこれ思いめぐらせた。
ふと気が付くと、いつも最初に子供服売り場を見る。
「やっぱり、洋服にしようかしら……」
その都度迷っている。そして、
「子供服と洒落た物入れにしよう!」と心に決めた。
子供服売り場を2,3周見て回ったが、
適当な洋服が見当たらなかった。
4階の小物売り場を見よう、と思って下りエスカレーターに乗った。
上りエスカレーターに中学時代の同級生小山明子さんがいる。文惠は、
「小山さん!」と声をかけた。
小山さんは気付いて、下の方を指さして、
折り返し4階へ行きます、とジェスチャーで示した。
5階は子供服売り場、
小山さんも子供の洋服を見に来たのかな、と文惠は思った。
エスカレータを降りたところで小山さんを待った。
小山さんはエスカレーター途中で、
「お久ぶり!」と懐かしそうに大きな声で云った。
エスカレーターを降りるなり、
「娘がね……デザインしたの……」
娘がデザインした子供服が東武デパートで売られている。
それを小山さんは見に来た、と云うのである。
「チョッとお茶でも……」と云って二人は
4階エスカレーターそばにあるティールームへ入った。
文惠は孫の進級祝いに子供服でも、と思っている事、いじめにあい
4月のクラス替えに期待している事情などを掻い摘んで話した。
「娘はね、子供服のデザインをしているの」
小山さんの娘自慢か、と一瞬、文惠は思った。
「お孫さん、茉子ちゃんと仰るの、
一度連れていらっしゃい、娘にデザインさせるから!」
「エッ!」一瞬文惠は息を呑んだ。
「そんなに、お金はないわよ!」と先ず本音の部分を先に云った。
「お金何って、要らないのよ、娘にデザインさせたいのよ!」
小山さんは急に強い調子で云い始めた。
「おしゃれ、だとか、かわいらしだけが子供服のデザインじゃない!
娘は口癖のように云ってるのよ……」そして、
「茉子ちゃんと仰ったかしら、いじめにあい、
4月を待って耐えている、素敵じゃない!」小山さんは続けて、
「是非、娘にデザインさせてあげたいのよ!」
茉子ちゃんは多くの人に支えられているのよ、と云う
メッセージが伝わると文惠は思った。