モジリア

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おじさんが読む「赤毛のアン」

豆本小説 てとて 1

2013年03月04日 | 豆本

ブログの方向性を見失いました。

昨年2月~3月の60日間毎日豆本小説と称して

1000字~1600字の小説を毎日1話60編書きました。

お目にかけられる程度の作品は3本程度です。

今日は「てとて」全般をお目にかけます。

 

豆本小説 「てとて」

 母親の明子が剃刀、歯ブラシなどの洗面用具を持って徹が入院している

病院を訪れたのは事故から4日後だった。

プレス機に挟まれ、右手指全部を失い救急車で病院に運び込まれた。

付き添っていた妻の由美子に代わって一時、明子が付き添うことになった。

由美子は徹の身の回りを片付け、近藤先生の回診の準備を終えると、

「お母さん、お願いします」と云って、由美子はそそくさと病室を出て行った。

 明子は病室で徹と2人になると、怪我のことを聞いて良いのか、

怪我のことには触れない方が良いのか落ち着かなかった。

徹はそんな母親を見て、不憫に思った。

「かあちゃん・・・・・・」

徹は久方ぶりで、

「かあちゃん」と呼びかけた。

普段工場では「よう」とか「ねえ」で済ませているのに、

かあちゃんといわれて明子は改まったものを感じた。

「かあちゃん、近藤先生が・・・・・・」

徹のようすに、明子は明るいものを期待した。

そして、向かい合って話す話題があるらしいことに明子はすこし緊張した。

「近藤先生がね・・・・・・」と徹は2,3度いいよどんだあと、

「近藤先生がね『親子だったら移植できる』と言ってるんだよ」

明子の顔が急に変わった。

明子は咳き込むように、

「移植って、徹の右手のことかい?」

「そうだよ」と徹。

明子は心底うれしそうだった。

「本当かい!本当かい!」と明子は乗り出すようにして徹の布団をゆすった。

一呼吸おいて徹は、

「うそだよ、かあちゃん!」

明日につづく