ブログの方向性を見失いました。
昨年2月~3月の60日間毎日豆本小説と称して
1000字~1600字の小説を毎日1話60編書きました。
お目にかけられる程度の作品は3本程度です。
今日は「てとて」全般をお目にかけます。
豆本小説 「てとて」
母親の明子が剃刀、歯ブラシなどの洗面用具を持って徹が入院している
病院を訪れたのは事故から4日後だった。
プレス機に挟まれ、右手指全部を失い救急車で病院に運び込まれた。
付き添っていた妻の由美子に代わって一時、明子が付き添うことになった。
由美子は徹の身の回りを片付け、近藤先生の回診の準備を終えると、
「お母さん、お願いします」と云って、由美子はそそくさと病室を出て行った。
明子は病室で徹と2人になると、怪我のことを聞いて良いのか、
怪我のことには触れない方が良いのか落ち着かなかった。
徹はそんな母親を見て、不憫に思った。
「かあちゃん・・・・・・」
徹は久方ぶりで、
「かあちゃん」と呼びかけた。
普段工場では「よう」とか「ねえ」で済ませているのに、
かあちゃんといわれて明子は改まったものを感じた。
「かあちゃん、近藤先生が・・・・・・」
徹のようすに、明子は明るいものを期待した。
そして、向かい合って話す話題があるらしいことに明子はすこし緊張した。
「近藤先生がね・・・・・・」と徹は2,3度いいよどんだあと、
「近藤先生がね『親子だったら移植できる』と言ってるんだよ」
明子の顔が急に変わった。
明子は咳き込むように、
「移植って、徹の右手のことかい?」
「そうだよ」と徹。
明子は心底うれしそうだった。
「本当かい!本当かい!」と明子は乗り出すようにして徹の布団をゆすった。
一呼吸おいて徹は、
「うそだよ、かあちゃん!」
明日につづく