モジリア

74歳のブロガー。ギネスを目指す!(^^)!
おじさんが読む「赤毛のアン」

豆本小説 てとて 2

2013年03月05日 | 豆本

徹は左手を額に当て、天井を見つめながら、

「かあちゃんのうれしそうな顔をみて、

オレはそれだけで充分だ」と徹はしんみりした調子でいう。

「えっ、うそなの?うそじゃないよね!うそじゃないよね・・・・・・」と

明子は数回繰り返した。

「かあちゃん、本当にうれしそうだったね、ありがとう!」

明子には失望感が漂っている。

 徹の創作うそ話がこれほど明子を喜ばせ、そして、

悲しませるとは思いもよらないことだった。

 

 由美子の話によると、その日以来明子は考え込んでいる。

「徹は優しい子だから、私の右手が欲しい、と言えない、

だから移植をあきらめている」と思い込んでいるらしい。

 

「徹さんは、そんなに優しい人じゃないのにね」と由美子は悪戯っぽく笑った。

「母は強し、されど女は弱し!」ということかな、由美子は独り言のように言う。

「徹さんをお母さんに捕られちゃったよな気がするの」

徹は呆気にとられていると、

「私はいやよ!絶対いやよ!お母さんの手を移植するなんて・・・・・・」

「馬鹿だなァ移植なんて出来るわけがないだろう!」と徹がムキになっても、

「私はいやよ!絶対いやよ!」と由美子は繰り返していた。    

 (おわり)