ー薔薇園にてー
初夏の清々しい日、
市川動植物園にある薔薇園を訪ねた。
私の住む鎌ヶ谷グリーンハイツから
自転車で10分か15分で行けるところ。
私はいつも午前中に一仕事を終わらせ、
昼食の後にこの薔薇園を時々訪ねている。
薔薇園のベンチに一人静かに座っている女性がいる。
薄いピンクのカーディガンに黒いハンドバックをそばに置いて
幾分微笑んでいるような風にして座っている。
薔薇に似合う女性だな、と思った。
しばらくすると立ち上がって
薔薇を一輪一輪確かめるようにしてゆっくりゆっくり歩を進めている。
真っ赤な薔薇の前ではしゃがみ込んで眺めている。
そして立ち上がるとまた、
一輪一輪確かめるようにしてそぞろ歩き、
後戻りして先ほどの真っ赤な薔薇の所に戻って
しゃがみ込んで眺めている。
黒いハンドバックから白いハンカチを取り出して
目の辺りを軽く押さえている。
立ち上がると先ほどのベンチに戻り、ゆっくりと腰を下ろした。
ただ薔薇を鑑賞しているだけじゃなさそうに思った。
私は薔薇園を一回りして蛍の里の看板がある東屋で腰を下ろした。
「あの女性は一体何なのだろう……」
気になって仕方がなかった。
私は千葉日報に月二回掲載されるエッセーを、
心待ちにしているほどではないが、気が付けば読む、
その程度に楽しみにしている。
「赤い薔薇」と題するエッセーが掲載されている。
あの不思議な女性を見かけて1月半ほど経っていた。
「赤い薔薇」のタイトルに、
「エッ!」と思った。
「まさかあの女性ではあるまい?!」と思いつつ目を通した。
「私は毎年初夏の頃ほぼ毎日、
市川動植物園にある薔薇園を訪れます」と書き出して、
「生きていれば今年15歳、高校生になる男の子を4歳の時亡くしている。
自堕落な生活が2,3年続き、
たまたま訪れた市川動植物園の薔薇園で
赤い薔薇に心が癒され立ち直ることが出来た。
そして今は
子を亡くした母親をテーマに小説を書いている。
と云うようなことが綴られていた。
私はあの日見かけた女性が書いたエッセーに違いない、と思った。
NHK短歌添削コーナーの
「薔薇園の色あふれいる中を行く白い日傘のありて眩しむ」を
ベースに書いた豆本小説です。