みりんの徒然声

日々、感じたことを日記や詩でお届けします

みりんの徒然声 月の真下

2016-08-23 21:05:06 | 日記
今もきっと何処かで笑っている、泣いているあなたにこの歌が届きますように。

あたしは強いから彼女より強いからきっとあの人も離れて行った。
ふとした瞬間に思い出すこの曲はやはりお芝居で使ったものだ。海賊の物語だった。まだワンピースもそんなに流行ってはいなかった。一世を風靡した海賊の棟梁が一人になりたがる物語だ。海賊は考える。誰にも気がつかれず、大切な者を傷つけず一人になる方法はないかと。やがて一人になった海賊は海賊船ではなくちっぽけな船で海へ漕ぎだす。月の真下に行きたいと海賊は言った。月の真下から月を眺めてやろうと。海へ漕ぎ出すとき静かにこの歌が流れる。題名も歌手もわからない。この歌を持ってきたのは歳上の女の先輩だった。彼女も震災で亡くなった。まだ三十代後半から四十代前半だったろう?彼女も独身だった。どんな気持ちでこの歌を聞いていたのだろう?一人、息を閉じた病院の風景はどんな感じだったろう?海が近くて月は最後に見えただろうか?古くなったDVDを見ながらあたしは何度も彼女に問うが答えを知ることは永久にないのだろう。優しい人だった。世の中の悲しいことには全部泣いちゃうような優しい人だった。なんで彼女が死んであたしが生きているんだろう?親にまで疎まれているあたしが。海賊は進む。晴れている日ばかりじゃないから海は嵐になったり、大雨が降ったりする。手のひらが海水でしわしわになって血が滲む。初めは嬉しかった。これくらいしないと月の真下に、着いたとき達成感がないと。ただ、だんだん不安になる。真っ暗な海原で、でたらめに舵を漕いで何も見えなくて。海賊は言う、月の真下がこの世のものとは思えない位美しい所なら痛みなど吹き飛ぶだろう。だけど僕は知っている。月の真下はただの海だろう。だだの海だろう。じゃあなんで漕いでるんだ?あなたの好きだった手のひらをこんなにして泣いて、焦って、不安で。もうちょっと、もうちょっと、だと思うのだけどまだ月の真下にはたどり着いていない。と終わる。曲が大きくなる。涙がでる。あたしの逃げたいと思うのは月の真下を、目指すのと同じかも知れない。曲、最後まで聞きたい。わからない。もういない彼女の顔が浮かぶ、あたしの結末。月の真下にあたしもまだたどり着いてはいない。


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