エンターテイナーじゃけん

　もねもねちゃんがおらんで、なんとのう殺風景だった部屋に花が届いたけん。

差出人は動物病院……。

わしの家の歴代のネコたちを最後まで面倒みてくれた、界わいイチの名医じゃけん。

今でこそ南大沢に動物病院が何軒もあるけどのう、ひと駅となりのこの病院をこれからも使うと思うけん……。

……、いや、いまは使う家族がおらんのう……。




　家に戻ったもねもねちゃんだったけど、症状は一進一退だったけん……。

サークルの中を動きまわったかと思うと、へたりこんでしもうたり……。

とくに、大きく口を開けて呼吸するんは、かなり苦しい時のサインじゃけん……。

なにより、横たわるコトがしんどいらしうて、ずっと伏せとるけん……。

肺に負担がかかるんかのう……。


　負担といえば、通院もそうじゃけん……。

なにしろ飲んだり食べたりしとらんけん、点滴を受けんといかんけん……。

病院にいかんワケにはいかんけど、移動するごとに消耗しとるけん……。

しかも、こんどは点滴で補った水分を排泄しとらんのが気がかりになったけん……。


　夜になると、ネコのような甘えた声でわしらを呼んだけん……。

さみしうて、かまってほしいんか……、それとも苦しいんか……、それはわからんけど、あごや耳のうしろをなでると、少しは落ち着くようじゃけん……。


　日曜日、病院は通常休みだけど、点滴を受けたついでで、再入院をお願いしたけん……。

通院の負担と、尿毒症の不安から決断したけん……。

これが、最善と判断したけん……。


　……、その日の夕方……、病院から電話があったけん……。

かなり辛そうだが、面会にくるかちう内容だったけん。

こういう電話をするなんて、よっぽどのコトじゃけん。

クルマを飛ばして駆けつけると、先生が……、

「たったいま亡くなりました……」

と申し訳なさそうにいうたけん……。

寝てるのかと思って、ちょっと目を離したら、振り向いたときには……。

わしらが到着する直前のコトだったそうじゃけん……。

酸素室を覗きこむと、もねもねちゃんは寝とるように横たわっとったけん……。

この数日見なかった、穏やかな顔だったけん……。

穏やかないい最後だったけん……。

ダレも死に目にあえんかったんは、いちばん悲しいトコロは見せんちう、エンターテイナーとしての意地だったからに違いないけん……。