【桜井紀雄が見る劇場型半島】韓流アイドル・少女時代のティファニーが袋だたきに…ネットの旭日旗で炎上 韓国系米国人にも容赦なく…
「少女時代」のティファニーさんがインスタグラムに投稿した写真。アップ時には日の丸の絵文字が使われていたという
韓流女性グループを代表する「少女時代」のメンバーがインターネットで大バッシングに遭い、番組を降板させられる騒ぎになった。韓国の解放記念日前日に旭日旗模様が入った写真を投稿したことが理由だ。韓国で旭日旗は「戦犯旗」とレッテルを貼られ、そのデザインを使った芸能人らは“非国民”として糾弾されてきた。海外ブランドや芸術作品までやり玉に上がり、歯止めが利かない状況だ。それこそが、自分たちの「正義」に合わないものを徹底排除しようとする危険なナショナリズムだとの自覚は見られない。
「よりによって光復節に」…謝罪も「誠意ない」
「こんにちは。ティファニーです。こんな大切で意義深い日に、私の失敗で多くの方々にご心配をおかけして申し訳ありません」
「たくさんの方々を失望させた私自身が、とても恥ずかしく、深く反省しています」
少女時代メンバーのティファニーさん(27)は、韓国で日本統治からの解放記念日に当たる「光復節」の今月15日、画像投稿サイトのインスタグラムにこう手書きした謝罪文を掲載した。
「失敗」とは、ネットへの2つの投稿のことだ。前日の14日、東京ドーム・コンサートでの打ち上げパーティーの写真をインスタグラムにアップした際、コメントに日の丸の絵文字を使った。
ネットで指摘され、絵文字は即座に削除されたが、今度は、別の投稿サイトの写真に「TOKYO JAPAN」の文字に旭日模様をあしらったスタンプを使っていたのが見つかった。
韓国人がナショナリズムを高揚させる光復節の時期だったことが火に油を注いだ。「よりによって光復節に日章旗だけでなく、旭日旗を使うとは!」とネットでは非難が巻き起こった。
ティファニーさんは、米サンフランシスコ生まれの韓国系米国人だ。韓国社会の“タブー”に無自覚で、東京からの投稿だからと、日本っぽいデザインを悪気なく選んだ可能性が高い。
だが、謝罪文を掲載した後も、「どんな過ちをしたか書かれておらず、誠意がない」などと批判は収まらず、韓国のテレビ局、KBSは18日、人気バラエティー番組からティファニーさんを降板させると発表した。
KBS側は「国民の情緒に与える影響に対して共感し、降板を最終的に決定した」と説明した。
化粧品会社のイメージモデルがティファニーさんから別のモデルらに交代したことも「騒動のせいだ」と憶測を呼んだ。会社側は「1カ月前には、新しいモデルが決まっていた。騒動とは全く関係ない」と釈明に追われた。
国際慣例のはずが…海自艦入港を阻んだ世論
韓国紙によると、少女時代は2009年にも、旧日本軍機のゼロ戦や旭日旗を連想させるデザインをアルバムのジャケットに使ったとして、ジャケットを全て廃棄し、リリースを延期したこともあったという。
今回のティファニーさんの投稿については、日の丸の絵文字を使ったぐらいでは、騒動がこれほど尾を引くことはなかっただろう。「旭日旗」の方がより問題視された。
韓国で、旭日旗は「戦犯旗」と言い換えられ、これまでも度々ヒステリックな反応が投げ付けられてきた。
今年5月には、韓国海域で実施された海上自衛隊と米韓両海軍などとの共同訓練で、入港先が急遽(きゅうきょ)変更される事態が起きた。南部、済州(チェジュ)島の軍港にも入港予定だったが、海自の艦艇2隻が「軍国主義の象徴である旭日旗を掲揚している」と韓国メディアがあおり立て、地元住民の間でも「戦犯旗を掲げて入港させるな!」と抗議が起きたためだ。
そもそも、旭日旗は正式な自衛艦旗であり、海自艦艇はこれまで何度となく旭日旗を掲げ、韓国の港にも入港してきた。韓国国防省も「海軍(自衛艦)旗を掲げるのは国際的な慣習だ」として、全く問題にしてこなかった。
メディアや市民団体が騒ぎ立てたとたん、当局も「親日だ」との非難を恐れ、「国際的な常識だ」との反論もできずに引き下がる。韓国で“旭日旗狩り”が世論の風向き次第で、いかに恣意(しい)的にわき起こってきたかを物語る。
韓国社会で、「旭日旗=戦犯旗=絶対悪」との認識が根付くなか、難癖としか言えない抗議も平然となされてきた。2012年のロンドン五輪の体操日本代表や、14年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ブラジル大会の日本代表のユニホームが「旭日旗を連想させる」と韓国世論の猛反発を受けた。
W杯のユニホームは、胸のエンブレムから光彩模様が放射状に伸びるデザインだったが、紺地の濃淡で表現されただけで、赤い旭日旗を思い浮かべる方がむしろ難しいぐらいだ。
今年3月にも、米スポーツ用品大手のナイキが、プロバスケットボールNBAの元スター選手、マイケル・ジョーダン氏とコラボして発売したバスケットシューズがやり玉に挙がった。
靴底にあしらった日の出のデザインが「旭日旗」だと、ナイキだけでなく、ジョーダン氏にまで抗議書簡が送られた。韓国国内で通用する「正義」を海外企業や世界的スターにまで無理強いしようとしたのだ。
踏み絵と化した「光復節認証ショット」とは?
旭日旗に対して、韓国では、なぜここまで激しい拒絶反応を示すのか-。
韓国紙の朝鮮日報(電子版)が、《いつも問題になる「旭日旗」とは何なのか?》と題し、韓国で旭日旗がどうみなされているのかを解説している。
記事は、旭日旗が現在問題になるのは「旧日本軍が象徴として使っていたからだ」とした上で、「『朝日が上る勢いで帝国を築く』という日本帝国主義の思想が込められている」と主張。「ナチス・ドイツの象徴だった(かぎ十字の)ハーケンクロイツと同じ、戦争犯罪人が作り出し、使用した『戦犯旗』なのだ」と結論付ける。
前段では、「日本では昔から武家の紋章や漁船の大漁旗として用いられてきた伝統的な紋様だ」とも説明しているにもかかわらず、「戦争犯罪」の一点に論理を集約させてしまっている。
その上で、「世界の人々に大きな被害を与えた日本が、歴史的悔悟なしに旭日旗を使い続けているのも問題だが、もっと問題なのは、最大の被害者だった韓国人すら、この旗がなぜ問題なのかを知らないということだ」と自国民の「歴史に対する無知」を叱責する。
ティファニーさん以外にも、旭日模様のTシャツや帽子の着用が明るみに出たアイドルやお笑いタレントが度々謝罪に追い込まれてきた。
“戦犯旗狩り”は自国民に向けられるとき、「歴史認識不足」を責め立てる証拠にされ、問答無用に謝罪を強いるなど、暴力性を増す。
逆に、多くの芸能人らが自らの愛国心を証明するため、光復節に、わざわざ韓国国旗である太極旗を手にした自撮り写真や、「大韓独立万歳!」といったコメントをSNS(ソーシャル。ネットワーキング・サービス)にアップしたりする。「光復節認証ショット」と呼ばれ、愛国心を問う、いわば“踏み絵”となっている。
韓国で、愛国心が絡む問題に関して「言論の自由」が入り込む余地はほとんどない。
世界に押し売り、社会を圧殺する「正義」
世界的な競売会社のクリスティーズが、米ニューヨークのロックフェラー・センターにあるオフィスのショーウインドーに展示した油絵も抗議の対象になった。
「日の出」と題した作品が「旭日旗を連想させる」と韓国メディアや韓国系住民が騒ぎ立てたのだ。赤い太陽から黄色い7本の光が放射状に広がる様子を描いたもので、旭日旗というより、単に太陽を描いたものとしか言えない。
こんな難癖が通用するなら、もはや、太陽と光彩を描くことが許されなくなる。「表現の自由」の侵害であり、ここまでくれば、韓国人が世界の笑いものにされかねない。
しかし、韓国社会では、“旭日旗狩り”は錦の御旗のように「正義」としてまかり通っており、タブーを犯してまで異議を差し挟まない。日本からも、ネットのネタになることはあっても、歴史からくる後ろめたさも働き、正面切って反論することはまれだ。韓国の独りよがりの「正義」の行き過ぎにブレーキをかける人間がいないのだ。
今回、米国で生まれ育ったティファニーさんが標的にされたのも象徴的だ。
数年前には、人気男性グループ「2PM」の米国出身のメンバーが、ネットに韓国を卑下する書き込みをしたとして、大バッシングされ、脱退と帰国を余儀なくされたことがあった。
韓国社会は、日本以上に民族的同一性が高く、ナショナル・アイデンティティーに反する価値観を排除する傾向が強い。ティファニーさんに対しても「旭日模様ぐらいで、目くじら立てなくても…」といった寛容な声は封殺された。
そうした自分たちのイデオロギーに反するものを否応なく排除する姿勢こそが、韓国でも悪の権化と位置付けるナチス・ドイツが犯した排外主義と重なるものではないだろうか。
韓国社会は、「愛国」は無条件に好ましく、「親日」は絶対悪だという「正義」を前に、排他的ナショナリズムの危うさに気づきにくい構造に陥ってしまっている。多様性を圧殺するこの構造が社会を息苦しくしている。
とはいえ、韓国や中国で旭日旗が悪感情の対象となっているのは、残念ながら事実だ。ただでさえ、ナショナリズムが高揚するサッカーなどの応援で、日の丸で済むところを旭日旗を振りかざして敵愾(てきがい)心をむやみにあおるのは、好ましい行為とはいえないと思う。
一方で、韓国の「正義」の押し売りに反論することなく、聞き流す姿勢も、隣人として向き合っていかなければならない日本人がとる賢明な態度とはいえない。かといって「韓国人と付き合わなければいい」と極論に逃げ込むようでは、排外主義という点で何ら変わりがない。
旭日旗について、歴史や伝統、文化的背景に至るまで論を尽くし、着せられた「戦犯旗」の汚名をそそげるのもまた、日本人だろう。健全な「異論」は対立ばかりを呼ぶものでもないはずだ。(外信部記者)