- AbemaTIMES
- 2018年06月22日 17:41
ドッキリ企画が本当の事件に…TBS「水曜日のダウンタウン」から考える"お笑いの境界線"
TBSテレビのバラエティ番組「水曜日のダウンタウン」の"芸人連れ去り企画"が波紋を呼んでいる。
先月下旬、同番組のスタッフが東京・恵比寿の路上でお笑い芸人を連れ去るロケをしていたところ、目撃者たちが本当の事件だと思い警察に相次いで通報。警視庁は番組関係者に厳重注意し、TBSは20日放送分の内容を急遽差し替えて放送。同社広報は「警察及び関係者の皆様にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ありません。当該企画については見直しを検討し今後再発防止につとめます」とのコメントを発表している。
問題となったのは先月30日に放送された企画の第2弾だった。前回、新横浜駅近くで連れ去られ、倉庫に閉じ込められたコロコロチキチキペッパーズのナダルが別の芸人をおびき出し、自分の代わりに閉じ込めさせることに成功できたら脱出、というものだった。人気漫画『ジョジョの奇妙な冒険』をモチーフにした企画だったが、放送時には批判の声も上がっていた。
同番組には、過去にも中止になった企画がある。安田大サーカスのクロちゃんをマンションに閉じ込め、視聴者がツイートだけを頼りに居場所を探し出すというものだった。しかし大勢の人が関係のないマンションに集まってしまい、近隣の人が警察に通報、企画が中止になってしまった。
Twitterには
「過去に出演者が"この番組は犯罪スレスレだよ"と言っていたが、それが今回の件で立証されたな」
「プラカードを持ってカメラを回しながらガチの誘拐をする事件が起こったらシャレにならないからね」
という批判の声がある一方、
「もう地上波じゃなくてネット配信にしてほしい。せっかくの面白い企画がもったいないな」
「昔はこれくらいの企画でも何も言われなかったのに世知辛い世の中ですね」
など、番組サイドに肯定的な声も見られた。
21日放送のAbemaTV『AbemaPrime』に出演したタレントのふかわりょうは、「悪意はなかったとはいえ、公共の場で一般の方を巻き込んでしまったのだから、こうなってしまったのは仕方がない」とした上で、「笑いは人、時代、タイミングによって感じ方が変わり、影響を受ける。震災のときにお笑いを不謹慎と見る議論もあった。でも私の信念として、時代のせいにはしたくない。確かに今まではできていた事ができなくなっているのかもしれないが、他にやれることがあると信じているし、"時代のせいで、あれもできないこれもできない"と片付けたくない」と話す。
「昔、人の家に行って蛇をばらまいて驚かせるという企画があった。動物プロダクションにお金を払って借りてきた蛇だろうが、僕はヒールにされた蛇がかわいそうで笑えなかったし、きっとそう思ったのは僕だけじゃなかったと思う。そしてその思いを皆がネットで発信するようになった。ドッキリをやるときには必ず嫌悪感を抱く人もいる。面白いと思う人にも、面白くない人にも権利がある。作り手は臆する事無くそれらに向き合うべきだ」。
東京工業大学の柳瀬博一教授は「1970年代、この手の問題でいつもドリフがやり玉に挙がっていた。ご飯を粗末に扱う、金ダライで人を叩く。僕たちも小学校で真似して怒られた。でも、ちょっとした常識を越えたときに面白さが生まれたり、子どもが喜んだりするのがお笑いで、そこには必ずしも不謹慎や嫌悪感との境目はない。むしろ笑いの後ろには必ずそれがある」と指摘する。
「もちろん交通違反や犯罪に関わるようなことや、怪我人が出るようなことはアウトだが、今回は”ごめんなさい””今後はミスしないように”で終わりの問題だと思う。タイミングが違えば"バカなことやってるな"で終わっていたかもしれないが、ちょうど浜松で起きた誘拐殺人が報じられていたので、報じる側にもそういう空気があったのだと思う。そして受け手もそれを感じて"けしからん"と話題にしている。だから一つずつ、あまり大きく炎上させないで、お笑いの過激さについて考えていけばいいと思う」。
「リディラバ」代表の安部敏樹氏は「まず、犯罪予防の観点からも、通報した人を悪いと言うのは問題だ。一方、面白さには危うい部分や、やらせなしのアドリブの部分から生まれることもあるし、何かの表現をするときには必ず不快な思いをする誰かもいる。だからといって、やってはいけないということにはならないし、法律の範囲内で、信念を持っているんであればいいのではないか。作り手側が過剰に反応してしまって、自主規制している部分がある」と指摘する。
チームラボ代表の猪子寿之氏は「人間はミスすることがある。それをいちいち報道して、みんなで集団リンチするような風潮があると思う。ミスした人を裁くのは裁判所であって、法に委ねるべき。そして善悪は非常に難しい問題。ある側面だけを切り取れば簡単に善悪の判断がついてしまうかもしれないが、世の中の人が関心を持っているからといって報道が取り上げたり、そこで関係のない素人の僕らがコメントしたりするのもおかしい」と指摘する。
司会のテレビ朝日・小松靖アナウンサーは「もちろん社会の規範に照らし、公序良俗に反するものはいけないが、テレビの人間としては、企画としてギリギリを攻めようとした時に、コンプライアンス意識とのせめぎ合いの中でどちらを取るかということだと思う。ここからは個人的な見解だが、自分が見てきたテレビというのは、その時々の世の中の価値観やルールとされるものを踏み越えながらワクワクさせたりハラハラさせたりするメディアだったと思う。
だから今回のようなことでコンテンツが萎縮していくのは寂しいという気持ちもある。ただ、コンプライアンス意識が強くなっている中、折り合いをどうつけていくのかということはコンテンツ供給側としては真剣に考えないといけない。そうでないと皆さんに本当に満足していただけるようなものが作れなくなるし、自分たち自身、生き残っていけなくなる。ネットによって、今までは見えなかった声が可視化されるようになった。それらに耳を傾け、意見を謙虚に受け止めつつ、限界を踏み越える勇気も持ち続けたいなと思う」とコメントした。(AbemaTV/『AbemaPrime』より)