【点描・永田町】「令和おじさん」が急浮上の理由
新元号「令和(れいわ)」を発表する菅義偉官房長官=2019年4月1日、首相官邸【時事通信社】
政治ジャーナリスト・泉 宏
新元号「令和」を発表した菅義偉官房長官がポスト安倍の有力候補に急浮上して、政界の注目を浴びている。30年前に「平成」の額を掲げて「平成おじさん」と呼ばれた小渕恵三官房長官(故人)が、その後、首相の座を射止めたことから「次の首相は菅氏か」との観測が広がったからだ。
当の菅氏は「(首相になることは)全く考えていない」と苦笑交じりで否定するが、二階俊博幹事長が「(首相に)十分耐え得る人材」と評価したことなどが「菅後継説」を後押ししている。
ここにきて自民党内では安倍晋三首相の「総裁4選論」も取り沙汰されるなど、「ポスト安倍」が不透明感を増すばかりだが、その背景には「首相候補の人材不足」(自民幹部)があるのは間違いない。
その一方で、あえて菅氏を持ち上げた二階氏の発言や党内実力者たちの反応には、2019年夏の参院選後に想定される党役員・内閣改造人事をにらんだ駆け引きがあるとの見方も少なくない。
菅氏は4月1日正午前の記者会見で「新元号は令和であります」と発表したが、続いて正午過ぎに首相が会見して新元号の典拠(出典)などを説明したことで、表向きには「安倍改元」が演出された。
しかし、翌2日の新聞各紙1面の写真はほとんどが「令和」の額を掲げる菅氏の姿だったため、インターネットでも「令和おじさん」が一気に拡散した。
もともと、政界には「首相に何かあった場合は菅氏が後継者」との見方もあり、ポスト安倍を狙う石破茂元幹事長や岸田文雄政調会長が決め手や迫力に欠けていることもあって、二階氏の発言をきっかけにメディアが一斉に「菅氏がポスト安倍に浮上」と報じたのだ。
背景に“石破つぶし”の思惑も
菅氏は秋田県のイチゴ農家出身の70歳。高校卒業後集団就職で上京し、苦学して法政大学を卒業した後、政治に目覚め、自民党有力議員の秘書を経て横浜市議となり、1996年衆院選で神奈川2区から初当選して現在8期目。
当初は小渕派(現竹下派)に入ったが、その後は堀内派(現岸田派)に移り、現在は無派閥だ。ただ、政治家としての実力と面倒見の良さで、若手を中心とした無派閥組を束ねる「菅グループ」は、大派閥に迫る30~40人規模に拡大している。
新元号発表と併せて菅後継説が浮上するきっかけとなったのは、4月7日投開票の統一地方選前半戦での菅氏の“戦績”だ。唯一の与野党対決となった北海道知事選では、菅氏が擁立を主導した鈴木直道前夕張市長(与党推薦)が圧勝した。
その一方で、最大の焦点だった大阪ダブル選を陣頭指揮した二階氏は、地域政党「大阪維新の会」の完勝を許し、麻生太郎副総理兼財務相が新人の擁立をごり押しした福岡県知事選も、現職が大勝するなど、菅氏との落差が際立った。
さらに、麻生派の塚田一郎・前国土交通副大臣の「忖度(そんたく)」発言と、二階派の桜田義孝前五輪担当相の「復興より議員」発言で連続した辞任騒動でも、「事実上の更迭を主導したのは菅氏」(官邸筋)とされる。
このため、麻生、二階両氏とのあつれきも目立つ一方で、党内での菅氏の存在感も一段と拡大している。
こうした党内力学の変化に伴い、参院選後の党・内閣人事での菅幹事長説も浮上するなど、菅氏の去就が注目され、相対的にポスト安倍の一番手とされてきた石破氏の存在がかすみ始めているのが実態だ。
首相や麻生、二階両氏も「石破氏を首相にしたくない、との考えでは一致している」(麻生派幹部)とされるだけに、今回の菅後継説浮上の背景には、「ポスト安倍レースでの“石破つぶし”の思惑がある」(閣僚経験者)とみる向きも少なくない。