頬袋日記

いまいち飼育法の確立されてない動物「ハムスター」に翻弄されっぱなしの「ニンゲン」の観察記録。

テンポイント

2013-10-31 10:11:58 | 「どうぶつ」のことについて。
昔、テンポイントという名馬がいました。
天皇賞、有馬記念といった大レースを勝ち抜き、同世代のトウショウボーイやグリーングラスと並んで大人気を集めました。

しかし、テンポイントはレース中に脚を骨折してしまいます。皮膚を折れた骨が突き破るほどの大怪我で、安楽死させるしかないと思われていました。
ところが、安楽死をさせずに治療を望む声が多数寄せられ、一時は助命嘆願の電話で回線がパンクするほどになりました。その結果、安楽死はさせずに、できる限り治療をして延命させようという事になりました。

治療は困難を極めました。
折れた骨を繋げて固定するためのボルトは、テンポイントの馬体重を支えきれず歪み、自立が不可能となりました。やむを得ずテンポイントの体を天井から吊り下げる形で治療を続けたものの、テンポイントは次第にやせ衰え、500キロ近くあった馬体重は300キロを切るかというところまで落ちていたそうです。見た目は馬というより「大きな犬」という程になりました。
そして、最後には横たわらせて寝たきりの状態になりました。そして蹄葉炎という障害も併発し、亡くなりました。最後まで安楽死は行われず、自然死でした。

私は子供の頃「ダービースタリオン」という競走馬育成ゲームにハマっていて、そこからテンポイントの事を知りました。
「ダービースタリオン」というゲームは競走馬を育ててレースで勝たせる事を目的としたゲームなんですが、一定の確率でレース中に故障を発生し、「予後不良」すなわち安楽死となるイベントがあり、そのシーンがいかにも葬式然として辛いものがありました。

なぜ、馬は脚が折れると死んでしまうのか。
テンポイントの話を知っている人は、現状では治療が苦しみにしかならないことを知っています。
しかし普段競馬を見ないような人は、たまたま有名な馬が予後不良になったというニュースだけを見てショックを受けて、
「脚の骨が折れたくらいで殺すなんて可哀想じゃないか」
「レースに出られなくても牧場で飼ってあげればいいじゃないか」
というようなクレームを口にしたりします。
おそらくテンポイントの助命嘆願をした人たちもはじめはそう思っていたのでしょう。

「競走馬は脚が折れるとレースで使い物にならないから殺される」
これは大きな誤解です。
できるならもう一度レースに出してあげたい、せめて子孫だけでも残してあげたい、そう一生懸命に思って馬主側も最善の努力を尽くしているのです。
しかし、治らないものは治らないのです。
治らないものに無闇と人の手を加えても、苦しむ時間を長引かせるだけだと、テンポイントは身を持って伝えています。

なんでテンポイントの事をいきなり語りだしたかというと、日本のペットの立ち位置が変わってきていて、ペットが病気になったのは飼い主のせいだから滅私奉公しろ、という声が大きくなっているように思ったからです。
インターネット某所では、飼っているハムスターの様子がおかしいので看病をずっとしていたが、30分ほど目を離して家の用事を済ませていたらハムスターが死んでしまったという飼い主に対して、恐ろしいほどの非難が寄せられていたのです。
ペットの命が危ないという時に家の用事なんかするな、徹夜してでも看ていろというのです。

それはないんじゃないかと。
30分目を離しただけで消えてしまった命なら、もう助からなかったんじゃないかと。
仮に病院に連れて行ったからといっても、搬送中に亡くなっていたのではないかと…。

なんだか、事情も知らずに競走馬の安楽死を強く反対する人たちと被るのです。
病気になったらお医者さんのところへいけば治るよ、というのは、子供のうちに卒業しなきゃいけないことだと思います。
どうにもならない命もあるんです。
それを全て人間のせいにするのは愚かしいし、おこがましいとも思うのです。

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