何故死んでしまったの…祥一郎の生きた証

私は2015年12月28日、20数年共に暮らした伴侶である祥一郎を突然喪いました。このブログは彼の生きた証です。

トタン屋根の二人の愛の巣 そして運命の気まぐれ

2016年03月20日 | 死別体験
(※写真は二人で暮らした東京谷中に有ったトタン屋根アパートの跡地。もう何も無くなっている。)

祥一郎と初めて一緒に暮らした、戦後焼け残ったような、トタン屋根のアパート。

申し訳程度についているキッチンと、後でつけたしたようなベニヤ張りの狭いトイレ、そして6畳一間の部屋。


隣の住人の話やトイレの音まで丸聞こえで、雨の日はうるさいほどの雨音が天井に響いていた。


東京は谷中にあった、初めての二人の愛の巣。

いや、愛の巣というわりには、あまりにも粗末な部屋だったけれど、確かにあの頃はふたりは恋人、ステディと言っていい関係だった。

同じ布団で眠る時、あいつは首を挙げて私の腕枕を催促する。そして眠りに入る時は必ずお休みのキス。

私と祥一郎にもそんな時期があった。なにしろ知り合ってまだ数年だったのだから。


「おっちゃん、好きから。」なんてよく言われたものだ。好きだからではなく、「好きから。」。

それに若干戸惑いを覚えた事も有る。なにしろ人にそれほど愛されたことがなかったから・・・

二人で毎日銭湯に行き、貧しい食事をし、せまい部屋で肌を寄せ合って座り、あいつの好きなドラマに付き合わされる。そして同じ布団で身体を寄せ合って眠る。


そして休みが合えば、ミュージカルを見に行く、夏にはプール、ディズニーランド、映画もそれなりに観たと記憶している。
泊りがけの旅行は、結局一回しか行けなかったけれど。


あれから年月が経つうちに、まあいわゆる倦怠期の夫婦のようになったけれど。


いや、私にとっては倦怠期ではなかったかもしれない。

人ひとりとこんなに長く暮らしていく内、一人暮らしにはもう戻れないまでになっていったのだ。

ひと一人のパワーというのは凄いものだなと思う。

存在そのものが、他人の生活感価値観を変えて行くのだから。この保守的で頑固な私でさえ。

そうなのだ。「肉親とだって暮らしたくないのに、他人と一緒に暮らすなんて鬱陶しくてまっぴらごめん。」と思っていた私の人生観を、祥一郎は変えたのだ。


いや、家族を持つというのことはそういうことなのだと、理屈ではわかっている。

しかしゲイである私が、一人で無頼に生きて来た私が、まさか家族と思える存在を得るとは。
運命というものは気まぐれなのか、面白がっているのか・・・・・・


そしてまた運命に翻弄されることになる・・・・・・・・・・・・・・


たった一人の家族と死別するという、運命の気まぐれに翻弄されることになったのだ・・・・・・


私は、もし運命を司る存在があるとするならば、それを憎む。こんな気まぐれで面白がっているような運命を私たち二人にもたらした、それを心の底から憎む。

シャム猫のレイコと祥一郎

2016年03月19日 | 喪失感
祥一郎・・・・・・・・・・・・・勿論覚えているよね。

お前が一番可愛がっていたシャム猫のレイコのことだよ。


レイコを飼いだしたのは、お前と知り合うかなり前だったと思う。おっちゃんがまだ大阪のスナックで働いていた頃、お客さんに貰ったんだ。

猫を飼うのはおっちゃんは初めてで、色々苦労したよ。
気が強い猫で、ちょっと餌をあげるのが遅れると、あちこちにオシッコかけたり、ウンチしたり。

でも寝る時は必ずおっちゃんの布団にもぐってきて、腕に頭を乗せて寝てたな。

その後東京で働くことになり、一時的に知人に預かってもらうことになった。でも一時的だったはずが、何年もあずけることになってしまったけどね。


そして東京でおっちゃんは祥一郎と出逢う。
何年か一緒に暮らし、お前は散々迷った揚句、再度大阪に舞い戻ることになったおっちゃんについてきたね。
そしてレイコと出逢うんだ。

もうその頃はレイコもかなり歳を取って、目も殆ど見えなくなっていた。

それがいじらしかったのか、本来の飼い主のおっちゃんよりも、お前はそれこそレイコを猫かわいがりしていたね。

お前とおっちゃんが喧嘩すると、

「おっちゃんには大阪に友達ようさんおるけど、おっちゃんが居らん時はうちにはレイコしか話相手がおらんねんで。」
なんて泣いて言ってたこともあったっけ。

当然レイコはお前に一番なつくことになる。寝る時もいつも一緒。

おいたをしたレイコをおっちゃんが怒ると、お前がいつもかばってた。


しかし何年か一緒に過ごした後、レイコは乳がんになってしまう。

病院に連れていったけど、切除してもまた再発すると言われて、どうしようもなかったね。

日に日に弱っていくレイコに、お前は付きっきりだった。

そしてある日、おっちゃんが仕事から帰って来てすぐにレイコは息を引き取った。

「おっちゃんが帰ってくるのを待ってたんやで。きっと。」なんてお前は言ってた。

その後のお前の悲しみようったら、なかったね。

死んだレイコにはろくな事をしてやれなかったけど、お前はレイコの爪を切ってそれを後生大事に持っていた。


東京に舞い戻って来ても、お前は毎朝必ず自分の母親と、レイコに水を挙げて、線香立ててたね。

レイコはおっちゃんを通して、祥一郎、お前と出逢ったことは良かったのかもしれない。


おっちゃんの生活が安定しないのでレイコにも苦労をかけたけど、お前と出会えて少しは一生を穏やかに終えたんじゃないかと思ってるよ。



おっちゃんはたまにレイコの夢を見ることがあった。いつも黒い間深い帽子をかぶって、手には長い黒い手袋をしているんだ。人間の形をしているけど、何故かレイコだってわかるんだ。

その話しをお前にしたことは無かったけど、ある日お前がレイコの夢を見たって話をし出して、その中に出てくるレイコの格好がおっちゃんが見たものとまったく同じだったのはびっくりしたよ。

「おっちゃん、レイコはまだうちらの傍におるんやで。」なんてお前は言ってたね。

気の強い、念の強い猫だったから、或いはそうなのかもしれない。


祥一郎・・・・・・・・・・・・・・・

そしてお前も天に召されていった・・・・・・・・・・・

レイコと逢ったかい?きっと逢えたよね。そしてお前は抱き上げて、きっとまた猫かわいがりしているんだな。


祥一郎・・・・・・・・・たった一人で生きて行くことになったおっちゃんは、そっちの世界の方が楽しそうに思えるよ。

だから・・・・・・もういつ死んでもいいんだ・・・・・・・・・・・・
55年はそれほど長い人生では無いと思うけれど、もう目いっぱい苦労したし、嫌な事もたくさんあった。もういいんだよ・・・・本当に・・・

唯一お前と過ごした年月だけが、人間らしい穏やかな生活だった。

お前が満面の笑みを浮かべてレイコと遊んでいる姿を、おっちゃんも微笑みながら傍で見てみたいな・・・・・・・・・・・・・。

味気ない夕餉

2016年03月19日 | 死別体験
昨夜、ちょっとした料理を作った。

コンビニに弁当を買いに行く気力もなく、出前のパンフレットを見ても食欲をそそるものもないので、
よく作っていた、玉子とトマトの中華風の炒め物と、大根の味噌汁。

祥一郎が居た時もたまに膳に出した料理だ。


ところがそれが、味覚がおかしくなったのではないかと思うくらい、不味いのだ。

いや、不味いというのは正確じゃないな。

食事をしているという感覚が希薄なのだ。それこそ砂を噛むような味というか、餌を食んでいるというか。

つくづく味覚というのは、環境に左右されるんだなと感じた。


二人で暮らしていた頃は、美味いの不味いの言いながら、たわいもない会話をしながら、それでも炊いたご飯を全部平らげ、そこそこ満腹になるまで二人とも食事を堪能していたのだということを改めて理解した。


共に食事をしていた伴侶が突然居なくなってしまった環境で食べるたったひとりの夕餉。

献立を考える喜び、美味しくなれと思いを込めながらする料理、そして同じテーブルで共に食べるということ、そういう環境がもう無い今、私の食事は未来永劫こういうものなのだろうか。


それでも何かを腹に入れないと仕事に差し障りが出るかもしれないので、無理矢理口に押し込んでいる。仕事をする意味も分からなくなってしまったのに・・・・・・・・・・・

もういっそのこと、ガスコンロも調理器具も食器も全部捨ててしまおうかとも思ってしまう。


祥一郎・・・・・・・・・

お前と食べた食事は、例えちょっと失敗した料理でも、ぶつくさ言いながらでも、人間の食事だったね。

お前と出逢う前は、普通に一人で食事ができていたのに。

やっぱりもうお前と出逢う前には戻れないんだな。


祥一郎・・・・・・・・・・・・・・

おっちゃんは空腹だよ。お腹がではなく、心が空腹だよ・・・・・・・・・・・・・・

祥一郎・・・・・・・・・何故死んだ?おっちゃんをひとり置き去りにして・・・・・・・・・・・・

あの日をなぞる・・・・・・・・・・・・・・・・

2016年03月18日 | 死別体験
何も予定の無いオフの日。

散々迷った挙句、最終電車で新宿に向かう。

新宿二丁目・・・・・・・・・・・・・・言わずと知れたゲイの街だ。


私はゲイ・・・・・そのセクシャリティを捨てることはできない。そもそも捨てる捨てないというものではなく、自分自身の一つの属性であるから、それから自由になることはできない。


しかし、祥一郎亡き今、自分がゲイであることが疎ましく感じる事が有る。


祥一郎が亡くなってまだ三カ月経たないというのに、同じ属性の人たちの中に身を置き、何も気遣いすることもなく会話したい願望に逆らえず、昨日、馴染みの店のドアを開けてしまった。


そこのスタッフには私に振りかかった人生最大の不幸のことは話してある。
店で人目憚らず、涙を流したこともある。
マスターはこんな壮年ゲイの背中を、ずっとさすってくれた。

昨日も部屋でひとりで居ることにどうしても耐えられず、その店に訪れたのだ。


生身の人間、それもなに憚ることなく会話できる生身の人間と、一時でも話がしたかった。
幸い、マスター始め、スタッフや、顔見知りの客とたわいもない会話をして過ごすことが出来た。


朝が白々と明ける頃、私は店を後にした。



そして気づいてしまった。

嗚呼、祥一郎と運命の出会いをした時も、こんな日だったと。

しこたま酒をあおり、酩酊し、フラフラしながら駅へ続く道であいつに声をかけたのだ。



そう、わたしはあの日をなぞりたかったのだ。

いやに派手なシャツを着た、真っ黒に日焼けした祥一郎に声をかけたあの日を。


それに気付いたとき、新宿の街中それなりの数の朝帰りの人たちの中で、思わずうずくまって泣き崩れそうになった。


時空を超えてまたあいつと出逢えるのではないか、もう一度やりなおせるのではないか、そんな
荒唐無稽なことを考えながら、辛うじて泣き崩れるのを耐え、駅に向かう。


何事も起こるはずが無い。

祥一郎、あいつはもうこの世に居ないのだから・・・・・・・・・・・・

あの日と同じシチュエーションをなぞってみたところで、大きな黒い穴の開いた心は、些かも埋まることはない。

結局とぼとぼと家路につくしかないのだ。


祥一郎・・・・・・・・・・・・・こんなおっちゃんをお前はどういう目で見ているんだい?

馬鹿な奴と思うかい?それとも「おっちゃん、淋しかったら、悲しかったら、またあの店に行ってもいいんだよ。」と言ってくれるかい?

部屋に帰って、祥一郎の遺影を見た時、あいつがほんの少しにやけた顔に見えたのは、気のせいだったのだろうか・・・・・・・・・・・・

私は何をやっているのだろう・・・・・何をするべきだのだろう・・・・・・・・

2016年03月17日 | 死別体験
酒を飲んで眠ると、祥一郎の夢を見る確率が高い。

心療内科のヤブ医者には「今の精神状態を治すなら、お酒を止めるかひかえてください。今は良い薬があるから、それで治した方がいいですよ。」

と言われている。


確かに飲んだ後の朝は、恐ろしいほどの喪失感に襲われ、あいつが居ないことを思い知らされる。
酒臭い涙が、後から後から零れることも多い。


私は弱い・・・・・・・

それでもあいつに逢いたいがために、きょうも酒をあおる・・・・・

酒が見せる夢なんて、幻影かもしれないという思いもよそに・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


祥一郎は医者からもう見離されていた。

余命いくばくもないことを知らされいた。

それでも腹水の溜まった腹部がいくらかマシになって、これはひょっとしてと思い、私は近所の病院に連れて行くべく、二人で歩いている。祥一郎の身体を支えながら。


しかし、近所の筈の病院の途中の道が工事中で通行不可であったり、知っているはずの場所が分からず迷ったり、二人でうろうろと彷徨っている。いつまで経っても病院に辿りつけないのだ。


彷徨っている内に、目の前に斜めになった祥一郎の遺影が目に入る。

夢から覚めた・・・・・・


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


今朝のこの夢のメッセージを読み解こうとするのは止めようと思う。

読み解いていも、あまりに悲しい意味にしかならないような気がするから。




先ほど髪を切りに行った。

担当してくれた若いお兄さんに珍しくなにくれとなく話しかけた。

(このお兄さんが、俺の心の穴を埋めてくれないかなあ)などと、有り得もしない妄想を抱きながら
髪を切ってもらった。


そして帰りにクリーニング店に寄り、祥一郎の残した服を受け取りに行く。
今、少しずつあいつの残した服をクリーニングに出して、整理している最中だ。吊るしたままで埃にまみれるままにしたくないから。

それに何の意味があるのかと問われれば的確な答えは出せないけれど、今はそうしたい。


・・・・・・・・・・

私は何をやっているのだろう・・・・・・

日々やっていることに一貫性が無いような気がする。


祥一郎の為にやっているのか、自分の為にやっているのか、それすらわからなくなりつつある。


でも、何かをやっていないと祥一郎に対する罪悪感や贖罪感がまた膨れ上がるような気がして、結局思いついたことをやっている。


こうして身体も心も彷徨う・・・・・・・・・・・・・

これが喪失体験というものなのだろうか・・・・・・・・・・・・

いつ終わるとも知れない・・・・・・・・・・・・・・・・・