佐野元春『VSITORS』(1984)の衝撃を振りかえる。
結局、サウンドストリート世代だから。1984年当時の日本のポピュラーミュージックシーンが(私にとって)どんな感じだったか思い出してみる。月曜の人、佐野元春はレギュラー番組を放棄して(今なら普通に生放送できるだろうけど)伊藤銀次に任せ、ときどきテープ録音でNYの空気を伝えてきていた。火曜、坂本龍一はYMO散開後初のソロアルバム『音楽図鑑』を完成させた。矢野顕子は『オーエス オーエス』を発表。もちろんプロデュースは坂本・矢野コンビで、名曲「GREENFIELDS」には山下達郎がコーラスで参加。ムーンライダーズをはじめて聴いたのもこの年。坂本龍一のサウンドストリートに鈴木慶一がニューアルバム『AMATEUR ACADEMY』を携えて現れたのが出会いだった。水曜は…パス。木曜、山下達郎はサントラ『BIG WAVE』。ビーチボーイズって「サーフィンUSA」だけではないんだな、と気づかされた。達郎プロデュースワークの重要作、竹内まりや結婚後第一弾『VARIETY』もこの年。そして金曜、渋谷陽一はプリンス『パープル・レイン』を前にまだ態度を保留していた。
それ以外にも、細野晴臣はノン・スタンダード・レーベルを始動させ、アルバム『S・F・X』をリリース。さらに大瀧詠一が現時点でのラスト・アルバム『EACH TIME』を発表したのが1984年なのだ。
個人的にはまだCDプレイヤーは持ってなかった。上記のうちリアルタイムでアナログLPを買ったのは『オーエス オーエス』『VARIETY』『EACH TIME』の3枚。あとはすべてラジオから録音したテープを聴いていた。今ではだいたいCDで持っているけど、あの頃ほどは聴かないものだねえ。
で、何が言いたいかというと「昔はよかった」なんて話ではない。日本のヒップホップ・ミュージックを語る上で、『VISITORS』は最初の一歩とされることが多いが、その歴史的な意義だけで評価されるものでもない。(ちなみに上記のアルバム中で、細野の『S・F・X』にもヒップホップの要素が感じられる。今ほどの情報流通のスピードはなかったとはいえ、当時ヒップホップムーヴメントに気づいたのは、佐野だけではなかった)20代後半の、国内でそこそこの地位を築きかけたミュージシャンが、いきなり単身渡米。NYでの、まだまだアンダーグラウンドの匂いがしていたヒップホップとの出会い。それまで培ってきた佐野元春スタイルとの融合。もちろん過去をすべて捨て去るほど新人でもないし、ヒップホップが単なる味付け程度に終わるほどベテランでもなかった。その絶妙のブレンド具合は、渡米時期が少しでもズレていたら成しえなかったであろう、不思議な危うさを湛えている。その後の佐野元春が、いくら望んでも到達できない奇跡の特異点、それが『VISITORS』。
もうひとつ、1984年の佐野元春作品で忘れてはならないのは、松田聖子に提供した「ハートのイアリング」。さすがにヒップホップ色は一切ない。『VISITORS』の前衛性に危機感を抱くファンは、「SOMEDAY」タイプのメロディアスな作品に安心したかもしれない。聖子の全盛期の終わりを飾る、大名曲。
前置きが長くなった。では、8cm。
バンド名「HAL FROM APOLLO '69」の表記は、「HAL」にアンダーラインが正しいみたい。
①DRAGOON -Short Cut-
作詞・作曲:zoe
女性ヴォーカルのhalと、ギターのzoeのふたりユニットのようだ。打ち込みの重いビート、エフェクトのかかった、ぶっきらぼうなhalの声。コアなファンがいそうな音楽。
②SUNDAY MORNING BLUE
作詞・作曲:佐野元春
『VISITORS』の4曲目に収められた、佐野の抒情的な側面がストレートに出た作品。ヒップホップテイストは感じられない。冒頭「汚れたベンチ ストロベリーワイン 道端のサンディペイパー」と、淡々としたNYの風景の描写から、「世界はこのまま何も変わらない 君がいなければ」とややホームシック的な孤独感を表明するサビへ。アナログLPではA面ラストで、尖ったビートに疲れた耳の休憩所的な位置づけか。
このカヴァーは、インダストリアルな喧しいビートに、スペイシーなサウンドエフェクトが加えられ、感情を抑えた囁き系のhalの歌声が乗る。全体として「漂流する宇宙船の中の孤独」を表現しているように聴こえる。
もともとは、佐藤奈々子プロデュースによる佐野元春トリビュートアルバム『Border』(1996)に収録されたトラック。
定価930円、中古で20円。
ジャケの女性がhalさんだろう。裏はサングラスの男性。たぶんきっとzoeさん。
バンド名からして「2001年宇宙の旅」を意識しているのかな。「APOLLO '69」は月面着陸を成し遂げたアポロ11号のことだろうけど。halさんが69年生まれってだけだったりして…
結局、サウンドストリート世代だから。1984年当時の日本のポピュラーミュージックシーンが(私にとって)どんな感じだったか思い出してみる。月曜の人、佐野元春はレギュラー番組を放棄して(今なら普通に生放送できるだろうけど)伊藤銀次に任せ、ときどきテープ録音でNYの空気を伝えてきていた。火曜、坂本龍一はYMO散開後初のソロアルバム『音楽図鑑』を完成させた。矢野顕子は『オーエス オーエス』を発表。もちろんプロデュースは坂本・矢野コンビで、名曲「GREENFIELDS」には山下達郎がコーラスで参加。ムーンライダーズをはじめて聴いたのもこの年。坂本龍一のサウンドストリートに鈴木慶一がニューアルバム『AMATEUR ACADEMY』を携えて現れたのが出会いだった。水曜は…パス。木曜、山下達郎はサントラ『BIG WAVE』。ビーチボーイズって「サーフィンUSA」だけではないんだな、と気づかされた。達郎プロデュースワークの重要作、竹内まりや結婚後第一弾『VARIETY』もこの年。そして金曜、渋谷陽一はプリンス『パープル・レイン』を前にまだ態度を保留していた。
それ以外にも、細野晴臣はノン・スタンダード・レーベルを始動させ、アルバム『S・F・X』をリリース。さらに大瀧詠一が現時点でのラスト・アルバム『EACH TIME』を発表したのが1984年なのだ。
個人的にはまだCDプレイヤーは持ってなかった。上記のうちリアルタイムでアナログLPを買ったのは『オーエス オーエス』『VARIETY』『EACH TIME』の3枚。あとはすべてラジオから録音したテープを聴いていた。今ではだいたいCDで持っているけど、あの頃ほどは聴かないものだねえ。
で、何が言いたいかというと「昔はよかった」なんて話ではない。日本のヒップホップ・ミュージックを語る上で、『VISITORS』は最初の一歩とされることが多いが、その歴史的な意義だけで評価されるものでもない。(ちなみに上記のアルバム中で、細野の『S・F・X』にもヒップホップの要素が感じられる。今ほどの情報流通のスピードはなかったとはいえ、当時ヒップホップムーヴメントに気づいたのは、佐野だけではなかった)20代後半の、国内でそこそこの地位を築きかけたミュージシャンが、いきなり単身渡米。NYでの、まだまだアンダーグラウンドの匂いがしていたヒップホップとの出会い。それまで培ってきた佐野元春スタイルとの融合。もちろん過去をすべて捨て去るほど新人でもないし、ヒップホップが単なる味付け程度に終わるほどベテランでもなかった。その絶妙のブレンド具合は、渡米時期が少しでもズレていたら成しえなかったであろう、不思議な危うさを湛えている。その後の佐野元春が、いくら望んでも到達できない奇跡の特異点、それが『VISITORS』。
もうひとつ、1984年の佐野元春作品で忘れてはならないのは、松田聖子に提供した「ハートのイアリング」。さすがにヒップホップ色は一切ない。『VISITORS』の前衛性に危機感を抱くファンは、「SOMEDAY」タイプのメロディアスな作品に安心したかもしれない。聖子の全盛期の終わりを飾る、大名曲。
前置きが長くなった。では、8cm。
バンド名「HAL FROM APOLLO '69」の表記は、「HAL」にアンダーラインが正しいみたい。
①DRAGOON -Short Cut-
作詞・作曲:zoe
女性ヴォーカルのhalと、ギターのzoeのふたりユニットのようだ。打ち込みの重いビート、エフェクトのかかった、ぶっきらぼうなhalの声。コアなファンがいそうな音楽。
②SUNDAY MORNING BLUE
作詞・作曲:佐野元春
『VISITORS』の4曲目に収められた、佐野の抒情的な側面がストレートに出た作品。ヒップホップテイストは感じられない。冒頭「汚れたベンチ ストロベリーワイン 道端のサンディペイパー」と、淡々としたNYの風景の描写から、「世界はこのまま何も変わらない 君がいなければ」とややホームシック的な孤独感を表明するサビへ。アナログLPではA面ラストで、尖ったビートに疲れた耳の休憩所的な位置づけか。
このカヴァーは、インダストリアルな喧しいビートに、スペイシーなサウンドエフェクトが加えられ、感情を抑えた囁き系のhalの歌声が乗る。全体として「漂流する宇宙船の中の孤独」を表現しているように聴こえる。
もともとは、佐藤奈々子プロデュースによる佐野元春トリビュートアルバム『Border』(1996)に収録されたトラック。
定価930円、中古で20円。
ジャケの女性がhalさんだろう。裏はサングラスの男性。たぶんきっとzoeさん。
バンド名からして「2001年宇宙の旅」を意識しているのかな。「APOLLO '69」は月面着陸を成し遂げたアポロ11号のことだろうけど。halさんが69年生まれってだけだったりして…
偶然かもしれませんが、元春の渡米のタイミングの良さは感じられますね。出会い頭の良さが功を奏しました。
あの作品はホームランだったのか、ポールを切れた特大ファールだったのか?そういう問題作なのが良いですね。
若き日の元春が1983年のニューヨークをリアルタイムに活写した音の日記。今聴いても新鮮です。
ちなみに僕は「visitors」を聴くま前にとんねるずの「shikato」という元春のパロディソングを聴きまして、間接的に元春を知りました。
…なんてボヤキはいいとして、元春。都市色さんほど深く長く聴いていないのでアレなのですが、コレと「エレクトリックガーデン」(もちろんカセットブック)は買いました。あとあのクリスマス12インチね。
1984、私は高1。ふりかえってみて、あまりの密度の濃さに改めて驚きました。大瀧さんが新譜プロモーションで出演したラジオ番組を片っ端から録音して喜んでいた思い出があります。前年の『MELODIES』から続く達郎のオーバーワークぶりも凄まじいですね。今じゃ考えられないスピード!