やっぱり本も好き

忘却率がUPしているのでメモとして

木の一族      佐伯一麦

2005年04月21日 16時52分53秒 | 
「木を接ぐ」「雛の棲家」「一輪」と読んできて、何か救いは
ないのだろうか?と心にかかっていた。「私小説」ということで。
そしてこの本で離婚の経緯を知った。
重く暗い話だけれど、逃げないひたむきさに何故か
応援したくなるのです。

豚を盗む      佐藤正午

2005年04月20日 22時34分51秒 | 
「生きることの大半は繰り返しです」と言われて素直に「そうですね」と
相づちがうてるような、優しさとユ-モアに満ちているエッセイです。
エドウィンとは江戸勝という日本の会社だった。
シ-トベルトをして走る暴走族はいるか?
日常の些細なお話が面白く、特に「サイン」は爆笑です。

あのひとの棲む国      茨木のり子

2005年04月13日 22時22分23秒 | 
あのひとの棲む国 それは人肌を持っている
握手のやわらかさであり 低いト-ンの声であり
梨をむいてくれた手つきであり オンドル部屋のあたたかさである
詩を書くそのひとの部屋には 机が二つ
返事を書かねばならない手紙の束が山積みで
なんだかひどく身につまされたっけ
壁にぶらさげられた大きな勾玉がひとつ
ソウルはチャンチュンドンの坂の上の家
前庭には柿の木が一本 今年もたわわに実ったろうか
ある年の晩秋 我が家を訪ねてくれたときは
荒れた庭の風情がいいと ガラス戸越しに眺めながらひっそりと呟いた
落ち葉かさこそ掃きもせず 花は立ち枯れ
荒れた庭はあるじとしては恥なんだが
無造作をよしとする客の好みにはかなったらしい
日本語と韓国語ちゃんぽんで 過ぎ来し方を様々に語り
こちらのうしろめたさを救うかのように
あなたとはいい友達になれると言ってくれる
率直な物言い 楚々とした風姿 あのひとの棲む国
雪崩のような報道も ありきたりの統計も 鵜呑みにはしない
じぶんなりの調整が可能である

地球のあちらこちらでこういうことは起こっているだろう
それぞれの硬直した政府なんか置き去りにして
一人と一人のつきあいが 小さなつむじ風となって

電波は自由に飛び交っている 電波はすばやく飛び交っている
電波よりのろくはあるが 何かがキャッチされ 何かが投げ返され
外国人を見たらスパイと思え そんなふうに教えられた
私の少女時代には 考えられもしなかったもの

 小さなつむじ風が世界中を吹き渡ってくれることを祈っています

千円贅沢      中野翠

2005年04月10日 16時10分46秒 | 
自分を潤わせる小っちゃなムダづかい。
お祭りのおこづかいみたいに1000円握りしめて
好きなものを買う・・・・・楽しいゾ!
中野式上等少女趣味ワ-ルドへご案内と帯にあります。

精神分析的に見るとどういうことになるのだかわからないが、
私はどうも、おろしがねと、それからザル(および、カゴ)と
ホウキに弱い。ちょっと変わったのを見ると買わずには
いられなくなる。
 
  独自の視点、独自の切り口、粋な遊び人の風情を感じます。

みんないってしまう    山本文緒

2005年04月09日 15時22分05秒 | 
 みんないってしまうんだな。この手の中に確かにあったと
思ったものが、みんな掌から零れ落ちてしまった。
永久に続くのかと思ったもの。初めての手痛い失恋も、
幸せだった新婚時代も、子育ても、郊外の家での
延々とつづいた日常生活もみんな過去になった。
 ひとつ失くすと、ひとつ貰える。そうやってまた毎日は回っていく。
 幸福も絶望も失っていき、やがて失くしたことすら忘れていく。
 ただ流されていく。思いもよらない美しい岸辺まで。

   短編集です。希代のスト-リ-テラ-だそうで、読みはじめると
   はまります。

ジャンプ       佐藤正午

2005年04月08日 16時33分04秒 | 
何の先入観もなく読み始めグイグイ引き込まれ一気に読んだ。
ミステリ-なのかもしれないが、人物描写が上手で、さりげなく
誰にでもある「もしもあの時ああしていれば」が身につまされ
自分の人生も振り返りつつ考えさせられた。

 新聞の書評
  ジャンプはヒロインの意志を描いた長編と読めないこともないが、
  けっしてそうではない。失踪したヒロインは青年を映す鏡だ。
  自分の人生を選びとったつもりでいる青年の真実を映す鏡だ。
  この逆転の構造がすばらしい。

Xへの手紙      小林秀雄

2005年04月08日 11時17分13秒 | 
 この世の真実を陥穽を構えて捕らえようとする習慣が身について
この方、この世はいずれしみったれた歌しか歌わなかった筈だったが
その歌はいつも俺には見知らぬ甘い欲情を持ったもののように聞こえた。
で、俺は後悔するのがいつも人より遅かった。
習慣が身についてこの方というよりも、自分の弱点がはっきりして
この方と言った方がいいかも知れない。俺も人並に自分の弱点から
逃れようとはしなかった。逃れようとするどころか、どうこいつを
可愛がろうと心を砕いて来たに相違ないのだ。
そして人並に三十になって、はじめて自分の凡庸が
しみじみと腹には入った。

ある苦労人に言わせると「光陰矢のごとし」という諺が、
凡そ人間の発明した諺のうちで、一番いい出来だそうである。
なる程何はともあれこの諺は極めて悲劇的である。
悲劇的なものは、何はともあれ教訓的なのだろうと俺は思う。

俺は元来哀愁というものを好かない性質だ、あるいは君も
知っている通り好かない事を一種の掟と感じてきた男だ。
 
  小林秀雄はミ-ハ-本読みには、全部を理解はできないけれど
  何か魅力的な男を感じさせる文体で好きです。





 

かんたん短歌の作り方    枡野浩一

2005年04月07日 11時38分30秒 | 
六年前NHKTVで、かんたん短歌塾なる番組を見て、簡単と誤解して投稿
お題「コロンボ」
 外見で決めつけることの危うさを教えているのねコロンボ刑事
               ペンネ-ム 知ってしまったかみさん
これが入選してしまい、ヒェ-と思いあわててこの本を読み
またもやヒェ-、簡単な言葉だけでつくられているのに、読むと
思わず感嘆してしまうような短歌が「かんたん短歌」です。
自分には無理とさっさと読む側にまわりました。
 こんなにもふざけたきょうがある以上どんなあすでもありうるだろう
 振り上げた握りこぶしはグ-のまま振り上げておけ相手はパ-だ
 靴下のたるみをなおす要領で俺を肯定したい日もある
 気付くとは傷つくことだ刺青のごとく言葉を胸に刻んで
 だれだって欲しいよだけど本当はないものなんだ「どこでもドア」は
                           枡野 浩一
 日溜りに置けばたちまち音たてて花咲くような手紙がほしい
                           天野 慶
 この刺青が好きと女が言ったので今日は俺のカラダ記念日
                           筒井 康隆
 嫌われて長生きしたくはなけれども可愛がられて死ぬよりはまし
                           作者不詳
  短歌って奥が深いです。

がんばりません     佐野洋子

2005年04月06日 19時52分03秒 | 
私は私のままでバアさんになる。
幼くして親の顔色をうかがい、結婚してからは相手の調子に合わせ
子供のために髪ふり乱して母親をやって、とにかく世間様に何とか
顔を向けようと努力して来た。もういいじゃんか。
子供が成人したら、生涯たった一度だけ好きに生かせていただく。
たった一つ私が今から心がけているのは、物欲を持たないということだけで、
死んだ人間が残すものはそれがわずかな金でも、身のまわりのものでも
始末がやっかいである。私が死んだと同時に、私のまわりのどんな小さな
紙切れでもパンツでもシュワ-ッと消えて地面に吸い込まれて行ったら
どんなにいいだろうと思う。

女の孤独ってのは一つ所にじっとうずくまっている孤独である。
窓から見える風景は変わらない。そこで地面に根を生やして
動けない孤独である。母を待ち子を待ち続け死を待つ孤独である。
男のようにひっくり返ったら死ぬかもしれぬなどという悲壮感に
うっとりしていたら困るのである。
初めから地面にはいつくばって悲壮感などというかっこのいいものは
持てないのである。

 共感する所がいっぱいあります。爆笑する所もいっぱいあります。