新潟久紀ブログ版retrospective

【連載6】空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕(その6)」

●不思議なおばちゃん達と僕(その6) ※「連載初回」はこちら

 布団から出たところを殆ど見たことのないおじちゃん1人は別として、残されたおばちゃん達3人は、女性であり、どれほど容姿が悪いという事でもなかったのだから、持参品の準備などが何もできない貧困の元で結婚とまではできずとも、知的障害等による僕の感じていた"不思議さ"を許容する男性と、同居したり子供を設けるといった縁組みもあり得たのではないのだろうか。それこそ僕の父が少し不思議感のある祖母との同居を了解したように。
 僕の母も「おまえの祖母の直ぐ下の妹、すなわち縫い物や編み物の類いが達者で、割烹旅館の仲居までこなしていた真ん中のおばちゃんは、そうした事も出来たかもしれないだろう」という。しかし、一番上の姉と同様なことをされて次の妹まで出て行けば、知的障害と寝たきり、こもりきりという、どうにも対処のしようがない3人が世帯に残されることとなる。優秀とされていた母の祖父は一計を案じ、その真ん中のおばちゃんが若かりしころに言い含めたのであろう。「あなたは働いてこの家を支えるのだよ」と。
 今でこそ、知的障害者の入所施設や特別養護老人ホームなど生涯にわたり世話を委ねることができる施設が増え、それらに入所させることも一時に比べれば容量的にも家族の心理的にも格段にハードルが低くなったが、当時はそうした施設は少なく、居住環境もそう良くはなく、"姥捨て山"のごとく揶揄されて、支えが必要な者は家族の中で面倒を看るというのが大原則の時代だった。
 いかに才覚があるとは言え、老い先を考えた世帯主、つまり母の祖父は、姉弟どおしで細々とでも何とか暮らしていけるように、少しでも稼げる見込みがあった僕の祖母の直ぐ下の妹に呪縛を架したのであろう。本人も、私生児を設けるなど奔放な姉とは異なり、むしろそうした姉の振るまいを見る中で、自分は堅実に生きなくてはならないという、次女にありがちな構図にはまっていったのかもしれない。
 我ながら、子供心というのは敏感に物事を察するなあと思い起こしたものだ。祖母につれられておばちゃん達の家を訪れたとき、玄関から直ぐの部屋で黙々と作業していたおばちゃんが、実の姉とその幼い孫に対して一瞥しただけで愛想も無かったことが僕はずっと気になっていたのだが、僕の祖母から、残る弟妹を押しつけられたという意味で、割を食わされたという根深い思いがあるのだとすれば合点がいくのだ。素っ気ない態度は、積年の思いが自然とそうさせるものだったのかもしれない。
 それでもおばちゃんは背に腹はかえられない。おばちゃんは自分の姉には色々な思いがあっただろうが、その子である僕の母については、日頃身近な親族の中でサラリーをきちんと得ていて、人との付き合いにも長けていることから、頼りの綱に思っていたようだ。おばちゃんには、自分の母の生家であり立派なものだと漏れ聞く"本家"というものがあり、冠婚葬祭などのお付き合いには律儀を果たしていたようだが、所詮は分家という形で遠く離れた市街地に僅かな土地を付けて体よく追い遣った家である。現実的には頼れるものではなかったであろう。
 おばちゃんは、生まれながらの貧乏暮らしを通じて大変な節約倹約が身に染みたストイックな生き方をしていた。なので、僕の母を先々の頼りにするといっても、予め何か恩を着せておくとか貸しを作っておくとかいうことではないし、そもそも、世話の焼ける弟妹に振り回されてきたという育ち故なのか、大変に"ぶっきらぼう"な物言いだったので、僕の母に媚びるどころか"つっけんどん"でさえあった。
 それでも、自身で買い付けるお金を持ち得ない中で、パート先で料理の残りものなどを貰えば、そのお裾分けという形で、仕事帰りの足で少し遠回りして僕の家へ寄ってくれたというわけだ。日頃のがめついまでの倹約ぶりを垣間見ていた僕にとっても、おばちゃんをして相当の気遣いだったと思う。
 また、残り物であろうが何だろうが、子供のためになるものは母親ならば何よりも喜ぶもの。まして、僕という育ち盛り食べ盛りの男の子を抱えた母は、割烹で出される手の込んだ美味しい料理を有り難がった。おばちゃんは、僕にまで自身の行く末に関する何か見返りを考えていたとは思えないが、結果としておばちゃんが繰り返したこの"親切な足労"は、将来、僕がおばちゃんの看取りにまで関わっていくこと、更にその後に残される空き家の扱いに腐心することの布石になるのだ。

(空き家で地元貢献「不思議なおばちゃん達と僕」の「その7」に続きます。)
※"空き家"の掃除日記はこちらをご覧ください。↓
 「ほのぼの空き家の掃除2020.11.14」
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