新潟久紀ブログ版retrospective

人事課行革班3「初顔合わせ。険しい雰囲気でのスタート」編

●初顔合わせ。険しい雰囲気でのスタート

 「一様に険しい」。人事課の執務室の奥まったところに押し込まれるように新設された、行政改革システム班の机に座る5人の顔を見渡しての第一印象だ。通常の係単位の組織ならば係長職に相当する行政調査員という職名が二人、各々の元に主査か主任又は主事による二人ずつが配置された総勢6人体制だ。私の直上で人事課に残留してスライドしてきた調査員の表情は特に厳しいものであった。
 始業の時間となるが、異動辞令の交付式の10:00までには間がある。新設されたばかりで昨日までの年度末から継続されるような定型的事務を持たない我が班員は、適当な雑談話に興じていたが、少しして、その調査員は、班員に向けてチーム発足の挨拶よろしく重々しく口を開いた。「行政システム改革班は、これまで人事課で抱えていた行革関連の取組を引き継ぎつつ、旅費の不適正支出問題の事後にあたり、建設的に仕事の進めかたを改革していくという前向きで希望ある仕事を進めていくために新設された筈であった…」。
 開設のその日から班の任務が「過去形」で語られることを不気味に思いながら、続く調査員の言葉に皆が静かに集中する。「当班では旅費問題の再調査を担うことになる。先日までの県議会で散々なまでに"ずさん"とコケ下ろされた調査をやり直すのだ。不適正支出額を報告した矢先から次々と漏れ落ちが判明した前回のような失態を再び示せば、組織的に悪意を持った隠蔽として場合によっては刑事事件にも及ぶかも知れない。更なるやり直しは許されない。絶対に失敗できない仕事をしなけれはならない」。
 ついに"刑事事件"というワードまで飛び出したか。これは大変なタイミングで着任してしまったものだ。それにしても徹底した再調査とやらはこの班のたった6人でできるのか。漏れ聞くところによれば、初回は、本庁の各部局の主管課と呼ばれる元締め部署に対し、関係する出先機関も含めた不正支出内容を取りまとめて報告をさせたものだったという。県職員は、給与を負担している義務教育学校勤務の教職員も含めれば、二万人ほどもいて、頻度はともかく旅費を執行している職員は非常に多い。班員のマンパワーを考えると、初回と同様に系統組織単位で取りまとめさせるという県庁の内部管理の基本的手法を踏襲した上で、その精度を上げるということになるのだろうか…などとおぼろげに考えていた。畳み掛けるように調査員は続ける。
 「県職員自身により行う内部調査が否定されたわけなので、"出直しの再調査"は、方法そのものから外部の有識者の指揮の下で行わざるを得ないというのが方針だ」。そうか、我々6人は外部の人間主導で行う調査を事務局をやるのか、つまりお手伝いをする立ち位置でいいということか…、などと安堵していると、とんでもない話が続く。「問題の性質上、公金不適正支出の再調査のためにさらに税金を投入して外部から大勢の作業員を動員することは出来ない。外部の識者を委員とする"第三者委員会"を設置し、調査方法の決定や作業の監督、結果の審査などの指揮を執ってもらうことになる。委員会に諮る調査方法案や調査そのもの、取りまとめなどの作業は"我々で行う"こととなる」。
 それでも、義務教育の教職員を含めて二万人にも及ぶ県職員の、目がくらむような膨大な旅費支出件数を考えると、調査方法は抽出して不審事案がある部署を絞り込んで調査して行く方法かな…などと、これから先々を考えたときに自分の作業量をできるだけ控えめに見積もって、心の中で若干なりとも安堵を求めたい一心だったが、調査員はダメ押しをしてきた。「旅費支出の悉皆調査。つまり数万件に及ぶ全件数を調査して結果をまとめないと、県として対外的にもたないだろう。」
 この調査員は初回調査をほぼ一人で担当して、先日閉会するまでの議会において散々に"ずさん"ずさん"と言われ続けてきた実務の当事者その人なのだ。さすがに深刻さと迫力が違う。私を初め人事課へ新入りした面々はさらに重苦しい雰囲気になったところで、当班の業務を監督する課長級の"参事"という職名の人が、自身の辞令交付を終えて班の近くで独立して配置された自分の机に戻ってきた。昨日まで県庁で最も過酷な職場の一つとされている財政課の課長補佐だった人なので、追い打ちで更に暗く厳しい話をされるのだろうなと私は身構えた。
 「調査員の話の後段から聞こえたけど、要は不適正支出を包み隠さず漏れなくあぶり出すことに尽きる。やるべき事はある意味シンプルなので、淡々かつしっかりとやって行きましょう。確かに旅費の全件調査を少人数のチームで一元的にやるなんて前代未聞だし、想定される作業量は膨大で計り知れないけど、何とかしていきましょう」。40代後半の割には殆どが白髪の参事は、言葉明るく口元は笑顔で我々を励まし、しかし眼鏡の奥の眼差しを鋭くして続けた。「ここは班だからスタッフ制。一人ひとりが自律的に仕事をするという体制だから仕事は各々が自身でよく考えて管理してもらう。各自、普段は呑気にしていても"決めるべきときにきっちり決めてくれればいい"から」。
 参事が昨日まで補佐職でいた財政課も、予算査定の担当者は、各々が個別に担当する部局の責任を持っていて、係のような組織としてではなく"一人親方"のように仕事をしていると聞いたことがある。行政システム改革「係」ではなく「班」であることの意味の深みにハッと気づかされた。そうかスタッフ制なのだ。上長とはいえ、厳しめの発言を続発する調査員にも、私の横に座っていて他でもない財政課から移動してきた主査にも、頼ることばかりはできず自律的に仕事をしていかなければならないのだ。
 それにしても、"決めるべきときに決めてくれれば良い"とは軽くおっしゃられたが、「好きに仕事させてやるけど、いざというときは参事自身はもとより総務部長や、ひいては知事の期待に叶う仕事ができないと許さないよ」という恐ろしい言葉だ。財政課あがりの上司から呪文を掛けられて、私の人事課での前途多難な日々はスタートした。

(「人事課行革班3「初顔合わせ。険しい雰囲気でのスタート」編」終わり。「人事課行革班4「失望の担当宣告。追い出されて会議室勤務へ」編」に続きます。)
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