新潟久紀ブログ版retrospective

柏崎こども時代30「漫画家志望(その3)」

●漫画家志望(その3)

 標題と表紙画のインスピレーションだけで衝動買いした楳図かずお先生の「漂流教室」第3巻であったが、読み進めるほどにこれまでの"漫画を読む"という行為では感じられなかった気持ちの高ぶりをもたらし引き込まれてしまう有様で、休むことなく単行本を一気に読み上げてしまうほどだった。
 自分とほぼ同学年の小学生が見知らぬ砂漠へと突如放り出されてサバイバルするという設定の驚きと、その世界観を身の毛もよだつほどに感じさせるおどろおどろしいまでの書き込み描写やディテールのリアリティに、これが今までは接するほどに単純に面白くて楽しいばかりだった少年漫画作品群と同列のものなのかと腰が抜けそうだった。
 それにしても、読み終えても衝動買いまでさせた表紙に描かれている虫の怪物のようなものが直接的に登場してこない。一冊目を読み終えた後に即座に既出の単行本を探して買い揃えていくごとに分かったのであるが、表紙を飾るのは次の巻の内容のシーンなのだ。普通であれば今読んでいる巻のハイライトが表紙にされる筈だと思うのだが、次巻を買わずにはいられなくさせるマーケティング戦略ということなのか。楳図かづお恐るべし、小学館編集部恐るべし、と子供心に妙なところで感心したことを覚えている。
 内容の具体はネタバレになるので記述できないが、感じ入った点をいくつか書いてみたい。
 先ずは、大人である教員達がもろい存在として描かれ、精神的に崩壊していく姿も描かれているという衝撃だ。
 私はひねくれものだったのか、学校の先生というものをどこか胡散臭く感じることが多かった。同級生たちからごぞって人気のあるような教諭はあまりに良い人であったり優しかったり爽やかすぎていて、その出来過ぎ感がかえって信用ならなかった。
 そんな中で、少年漫画においては頼れたり尊敬できる存在として現れがちな大人、とりわけ学校の先生というのが、想像を超える環境激変に際して、子供に向けて来た安定感のベールを簡単に剥がされて崩壊していく様は、痛快ですらあった。温厚な人柄で学童達からからかわれてさえいた給食材料納入業者のおじさんが豹変して暴君化していく姿なども、人間の表向きの姿だけを信じ切ってはいけないという教訓を、小学4年生の僕の心に深く刻み付けてくれたものだ。
 そう。「漂流教室」は少年向け漫画として連載されてはいたが、大人になるまでの経験を通じて得られるような教訓やらある種の哲学的な"ものの考え方"などを学ばせてくれた。おそらくは作者もそれを意図していて、小学生くらいの時期だからこそ少し背伸びの情報を求めたがるという心情を読んでストーリーを展開していたのだろう。
 見渡す限り何もない砂漠の中に小学校に居ながら校舎とともに放り出され、常識人たる大人達が適応できない一方で子供たちは発想の柔軟さと実直さでサバイバルを展開していくのだが、使えるのは校内に残る限られた物資のみ。
 水道が使えないとなればプールの水を流用したりビニールで蒸発水を採取したりし、給食用のストック食材や運よく校舎に付随していた倉庫の保存食などを分け合ったり。低学年が夜の暗闇におびえて騒げば、校内にあった複数の自転車のダイナモを連結させて照明につなぎ、上級生たちが交替で自力発電して凌ぐ。果ては盲腸の手術を麻酔無しで医者の子息が見様見真似でやりきるとか…。
 あまりに極端で現実離れした舞台設定ではあったが、子供たちを襲うエピソードは普通に生きていても天災や事件事故などで身に降りかかり得る危機であり、一つ一つそれらに対処していくストーリーは、正に現実の生活にも通じる危機管理や危機対応のマニュアルになり得るものだった。時空を超えた母との交信とか妄想の産物とか、フィクションならではの要素も含まれていたが、それらでさえも、子供が想像の幅を広げるのに制約など考えなくてもいいんだよという作者のメッセージのように、柔軟な子供心であった私は受け止めていた。
 人生の折り返しを越えて久しい今になっても、生きる上での必要なことの基礎は全てこの作品から得られたと思えてならないのが、楳図かずお先生の「漂流教室」なのだ。

(「柏崎こども時代30「漫画家志望(その3)」」終わり。仕事遍歴を少し離れた実家暮らしこども時代の思い出話「柏崎こども時代31「音楽班に入る(その1)」」に続きます。)
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