*『この世界の片隅に』を観ていない方はネタバレが入りますので
観てからお読みください。
一昨年の病の症状が一番重かった頃
劇場アニメ映画
『この世界の片隅に』を観た。
その頃は椅子から立ち上がるのがとても時間がかかり
体力的に不安であったが、
どうしても映画館で観たくて足を運んだ。
理由はネットでの評判とヒロインのすずさんの声を
女優の、のんさんが演じているからであった。
原作の漫画を一読した事もなければ、
監督の片渕須直氏の事も知らなかったが
プロモーションフィルムの雰囲気から十分見応えは伝わってきた。
映画を観終り
映画館を出た後の風景はいつもと全く違って見えた。
すずさんたちの人生と自分たちの人生の間には断絶などなく
すずさんたちの世代が懸命に生きたその後の世界を
自分たちが生きているという事実が
目の前に広がるいつもの風景を
たまらなく愛おしいものに変えていた。
主人公のすずさんは、私の父と同じ大正14年生まれという設定だ。
私の父は二十歳で戦争に行った。
すずさんは昭和二十年の二十歳の時に空襲で右手を失っている。
私はすずさんたちの世代の子供になる。
映画は日常の生活の中に
戦争が静かに忍び込んでくる様子をリアルに描いていた。
私は大正十年生まれの地元のおばあさんから
艦載機の機銃掃射を自転車に乗っている時に受けて、
あわてて川に飛び込んで助かったという話を聞いた事があった。
映画の中で機銃掃射を受けるすずさんを
夫の周作さんが庇って側溝に倒れ込んで守るシーンを観ながら
そのおばあさんの事が思い出された。
『この世界の片隅に』は
普段は想像する事が出来ずに断絶を感じる事が多かった世代の事を
日常風景のきめ細やかな描写や
個性や人間味溢れるセリフの一つ一つによって
見事に私たちが生きる現代と結び直してくれたように思う。
そして人はどんな悲しみが溢れる状況になっても、
身を寄せ合えば前を向いて生きてゆける事を
改めて教えてくれていた。
私は
悲しみを背負い右手を失いながらも、
たくましく生きてゆくすずさんに、
病の時、たくさんの勇気をもらった。
「両手も両足もまだ動く、負けられない。」と
この場を借りて
あの時代を生きた父母たちや多くの人々
そして、原作者の こうの史代氏、監督の片淵須直氏、音楽のコトリンゴさん
のんさんを初めてとするキャスト、スタッフをの皆様に万感の思いを込めて。
「 すずさん。 生きてくれて ありがとう。 」
「 たくさんの 勇気を ありがとう。 」
「 ありがとう。 ありがとう。 ありがとう。 」