今回の話題は脱原発ではありません。
しかし、言葉によって騙されてきた日本の原子力政策のように、私たちの周辺にも言葉によって騙されてきた歴史があります。
昨年、当会のメンバーが主催で講演会を開催したご縁で、今年7月に詩人のアーサー・ビナードさんは、宇部市西岐波にある、第二次大戦中に水没事故のあった長生炭鉱跡の視察に来られました。
(長生炭鉱跡のピーヤの前で説明を聞くビナードさん)
言葉について鋭い洞察力をお持ちのビナードさんにとって、「長生炭鉱の水非常」という言葉が、どうしても頭から消えなかったようです。
東京・上野界隈の商店主の集まり「上野のれん会」が出版しているタウン月刊誌「うえの」8月号に、「非常識?」というエッセイを寄稿されました。
生憎、ビナードさんのエッセイを、このブログに載せる訳に参りませんが、毎日新聞の書評に、そのエッセイについて書かれていました。
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毎日新聞書評 8月24日
「うえの 8月号」(上野のれん会・200円)TEL03-3833-8016
アーサー・ビナードのエッセイは、駅で見かける「非常口」の標識から始まっている。
ついで戦時中の山口の炭鉱で起きた落盤事故。
事故というと責任追及になるので当局が採用した正式名称が「水非常」。
ついては終戦の詔書に使われた「非常ノ措置」をもって時局を収捨のくだり。
彼には言葉こそ最も雄弁な証拠物件だ。
そこから日本人の習性があぶりだされていく。
あれほど「安全」を振りまいていた原子力行政は、いまや「規制」一点張り。
新基準委合格すれば再稼働可。
正式には誰一人「安全」とはいわないですませていく。
ビナードが引用でくくると、時代が見せかけのズルさを露呈する。
楽しいタウン誌の中に最も良質の文明批判がひそんでいる。
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私たち一般日本人が見逃している言葉に、嗅覚鋭いアメリカ人の詩人は、何か、うさん臭さを感じたのでしょう。
私たちは、時勢の流れの中で、何か引っかかる、おかしいと感じる感覚、この感覚を失わないようにしたいものです。
そして何かときなくさい臭いのする今こそ、『言葉の護身術』をしっかり身に着けなければ、と思います。
※参考
長生炭鉱の水非常を歴史に刻む会HP
また、8月31日に、アーサー・ビナードさんの講演会が、脱原発の情報発信源の「たんぽぽ舎」でありました。
講演の内容は、とても幅広いものでした。
たんぽぽ舎のメルマガより引用。
http://www.labornetjp.org/news/2014/0901tanpopo
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1.水尾寛己さん(たんぽぽ舎会員)の報告
盛況で熱気に包まれた「たんぽぽ舎25周年のつどい」
〇アーサービナードさんが、講演『戦争は続くよ、どこまでも』(「線路は続くよ、どこまでも」を文字ったもの)(約90分)を行った。
第5福竜丸の船員の被ばく、ベンシャーンの描いた絵、内部被ばくを知らなかったこと、
実感のわく情報を提供してくれたのは、たんぽぽ舎と語る。
燃料棒は燃えない、使う前はウラン棒、使った後は(ウラン棒でなくて)「絶望」と、言葉のペテンを突かれた。
また、広島のウランと長崎のプルトニウムの違いを明らかにし、
アメリカの言っていた「戦争を早く終わらせるために原爆を作った」は、ペテンだと語られた。
さらに沖縄の「辺野古への移設」という言語についても、普天間基地は港がないのに辺野古には軍港を作るから、
移設ではなく基地の新設でペテンであることをわかりやすく、ユーモラスに語られた。
2.山野容子さん(たんぽぽ舎ボランティア)の報告
◆アーサー・ビナードさん講演会
広告産業の作り出す言葉には、だまされてはいけない、原爆と原発は同じだ、 とアーサーさんは警告します。
〇講演で日本全国を飛び回っている詩人アーサー・ビナードさんの守備範囲は広い。
言葉を武器に、原発・TPP・沖縄、等々、政治、経済、社会の広範な問題に鋭く切り 込んでいきます。
今回は、第五福竜丸から始まり、ベンシャーン、落語、名刀村正と内部被ばく、原子爆弾と原発を経て、辺野古へと繋がっていきました。
広告産業の作り出す言葉にはだまされてはいけないとアーサーさんは警告します。
なぜ終戦が8月15日なのか? 私たちは知らされていません。
原爆と原発は同じだ、ということも。
〇同じ「言葉」でも、アーサーさんから発せられるそれは、現在の日本の暗澹たる状況の中で、私たちに希望を与えてくれるものです。
---必ず、勝てる---
私たちが、政治家や専門家、マスコミのごまかしを見抜き、力を合わせれば・・・
☆最後に、アーサー・ビナードさんが朗読された詩を載せておきます。
ぼくはこまかく読んでみた。
基地の移設計画案を。
そして致命的な欠陥が見つかった。
辺野古の海を埋め立てて
基地機能を移すというが
海のジュゴン機能を
どこに移す予定か
なにも書いていない。
海草の移設先も示されず
大切な藻場機能も珊瑚機能も
どこへ持っていくつもりなのか。
もし移せないものなら
計画を「移設」と呼ぶのは偽りだ。
かわりがいないのなら。
かけがえのないものなら。
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ちょうど、沖縄県辺野古でボーリング調査の掘削を始めた8月中旬頃に、ビナードさんは、辺野古にいらしてました。
そして海上保安庁の職員が無理やりにカヤックの人々を排除するのを、目の当たりにご覧になっていたようです。
http://www.qab.co.jp/news/2014082157447.html
そして、こんな詩を書かれています。
「2014年の終戦記念日を、ぼくは沖縄県名護市辺野古で過ごした。
美しい砂浜は小さな島ととてつもなく豊かな海が眼前に広がる。
ところが、終戦記念日の前日から日本政府は辺野古の海を決定的に致命的につぶす埋め立てを始めた。
本当の終戦記念日は、みんなが立ち上がった時にやってくる。」
この度の辺野古の攻防は、改めて、まだ日本はアメリカの植民地状態、占領は終わっていないと、強く感じる出来事でした。
しかし、ビナードさんは最悪の場面でも、冷静に前向きな思考を失くされません。
http://www.magazine9.jp/article/mikami/14204/
脱原発を目指す私たちにも、追い込まれても、諦めないで、前向きに思考できる能力が、今、必要不可欠なように思います。
また、国や専門家・マスコミの言葉のペテンに騙されることなく、皆で力を合わせて、脱原発で平和な社会を築くように、邁進したいものです。
最近、ビナードさんは大活躍で、もう1件、追加します。
以前に出版された、予言の書ではないかと言われる『戦争のつくり方』という本が、『新・戦争のつくり方』(リボン・プロジェクト著マガジンハウス出版)として、間もなく再発行されます。その帯に、下記のビナードさんの文章が載ります。
“よくよく考えれば、「平和」の反対語は「戦争」じゃなくて「ペテン」だとわかります。
ぼくらがペテンにひっかかるところから、もう戦争は始まっています"
ちなみに、以前に発行された『戦争のつくり方』には、下記の電子本があります。(中身を見ることが出来ます。)
http://www.ribbon-project.jp/sentsuku/
(み)