のりひめのひとりごと Monologue of Noriko

2012年からオーストラリアと日本を行き来しています。日常のいろいろを書いてます。

引き出しは人生の宇宙★のりひめエッセイ

2011-09-28 15:09:52 | のりひめエッセイ
のりひめの1200字エッセイ掲載中で~す

「引き出しは人生の宇宙」

 あなたの居間の引き出しはなにが入ってい
ますか?

 わたしの20年来愛用している引き出しは、
ホームセンターで買った黒い3段の事務用引
き出し。自宅だけでも8回引越ししているが、
ずっと使い続けている。
 一番上には、爪きり、耳かきや、画びょう、
セロテープなどの文房具。2段目は内服薬、
3段目は外用薬である。
 この中味は、ほぼ変わらない。私はコンタ
クトなので、朝と夜はメガネをかけなければ
なにも見えないのだが、それでも必要なもの
はみつけられる。安っぽいので、引越しのた
びに買い換えたいと思うのだが、リビングの
どこかにすっとおさまり、日常に溶け込んで
役にたっている。

 吉祥寺にいたときには、作りつけの家具が
あり、そこにも引き出しがあった。しかし、
一番使うものは、黒い引き出しに入っていた
ので、そこには二番手の大事なものがしまわ
れた。次の引越しのときに、ダンボールに入
れられたそれらは、ダンボールのまま、次の
引越しまで開けるられることはなかった。

 先日実家に帰って気がついた。実家の引き
出しも同じものが収納されている。一番上の
段は、わたしの引き出しの中身とほぼ同一だ。
 ついでにたんすものぞいてみた。下着、靴
下、Tシャツ、そのほかの衣類の分類も、同
じである。勘であけてみても、すぐに探して
いるものが見つかる。

 夫の実家の母の引き出し。これも一番上が
文具だが、2段目3段目は書類が入っている。
薬は別の場所にしまってある。

 夫の引き出しと夫の母の引き出しはよく似
ていて、十分なあきスペースがあり、きちん
と区切って行儀よく整理されている。
 対して私と私の実家の引き出しは、分類は
されているが、入れ方が適当だ。引き出しの
中ではものが自由にただよっている。多くな
ったらいらないものを捨てる。

 引き出しというのは、その人の暮らし、生
きてきたにおいが染み付いているものではな
いか。親の世代、その親の世代から脈々と受
け継がれた伝統があるのではないか。何世代
かさかのぼっても同じ配置だったりして。

 引き出しになにかをしまうことは、自分の
人生の小さなダイジェスト版をしまうことな
のだ。

 居間の引き出しは公共の場所だが、オフィ
スの引き出しは、かなり私的だ。
仕事の書類や必要な文具とともに、自分だけ
のものがひそんでいる。飴、胃薬、使いやす
い修正液、綿棒や糸ようじ、書きかけの手紙
や、誰かに渡そうとしている誕生日カード、
家族の写真など。あなたの写真もだれかの引
き出しにそっと入っているかもしれない。

 ひとりひとりの人生がちょっとだけ詰め込
まれた引き出し。小さなものたちの集合に、
人生の宇宙が映し出されている。

(2011年7月31日)

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