安土城主の織田信長に仕えた茶人、千利休が愛した茶会の菓子がルーツとされる「安土のふなやき」が2023年度、文化庁が地域で受け継がれてきた食文化を顕彰する「100年フード」(伝統部門)に認定された。
見かけなくなった郷土の味を復活させようと、19年度から、近江八幡市の安土町商工会女性部が「おもてなしの逸品にしよう」と取り組んできた。
↑写真 中日新聞より
「ふなやき」は薄力粉と強力粉、ベーキングパウダー、黒砂糖などが原料。もちもちとした食感と程よい甘みが特徴で、抹茶に合う。
商工会の高木敏弘会長は「安土では団塊の世代まで、ふなやきは子どものおやつだった。卵や牛乳、砂糖などの量で味は変わり、各家庭の味があった」と懐かしむ。
文献によると、利休が催した茶会で「ふの焼(やき)」という茶菓子が使われていた。後に安土で食されるうち「ふなやき」に転じたとみられる。
菓子の多様化が進み、ふなやきは次第に姿を消していった。「安土近辺の郷土食。特産品として復活させ、地域おこしを」という高木会長の思いに共鳴し、女性部が再現に乗り出した。
↑写真 中日新聞より(ホットプレートを使い、ふなやき作りに精を出す女性部員たち=近江八幡市の安土町商工会館で)
女性部員46人がレシピを考え、試作を繰り返した。昨年10月には、地元の老蘇小学校で出前授業を開き、ふなやきの歴史や思い出のほか、作り方を伝えた。11月には、あづち信長まつりで販売。目標の500個を上回る600個余が完売した。年配者は「懐かしい」、若い人も「素朴な味でおいしい」と好評だった。
安土町内の料理店が懐石料理の先付やデザートとして取り入れ、和菓子店はさくら餡(あん)など季節のあんこを挟んで商品化する動きも。高木会長は「26年の安土城築城450年祭などで来訪者をもてなし、PRできれば」と意欲的で、女性部の長谷川茂子部長は「ふなやきは安土のお母さんの味。次世代に伝えたい」と話した。
文化庁によると、「地域に根差したストーリーを持つ食文化」などの認定基準があり、23年度は50件を認定。滋賀県内では「大津のうなぎ食文化」と「石部のいもつぶし」も認定を受けた。
<中日新聞より>