あめつちの便り「土の音」🌺
【星(光と闇)からの提言①】日曜エッセー「道標」
「ワァー、プラネタリウムの星みたい」。
銀河が浮き出て見える星空の下に来た都会っ子の声だ。
また "光害" や "スモッグ" の中で星の存在を知らずに育った子は、望遠鏡の通訳で初めて見る星に涙した。
ささやかな夜の自然環境の原体験でさえ初めに机上の教材がありき、との風潮に遮られて久しい。
私が子どものころ、野外で無心に遊びつつ「一番星見いつけたーっ」と、たそがれの中に現れる星を見て帰宅時間のかなり正確な目安とした。
古来、星の光は海を往く者の生命の道標であり、船位の指針とした。六千年余り前、バビロニアで星々を崇める星辰宗教が起こり、黄道十二宮(星座)が生まれた。天と人の間に情操的な交渉が始まり天文台は神々を祭る神殿に建てられた。
古代日本でも、夜は神の祭りが行われるほど神聖視され、地方には生活風土に応じ愛着を持たれてきた星々がある。
牡牛座のプレアデス星団として光芒を放つ "すばる" は、明け前の西空に輝くころサンマが捕れることを示し、農耕の折り目を見定める重要な星とされた。
今、見上げてみれば都会の星は、いつかの子どもたちの瞳のきらめきと共にその輝きを失った。
大気汚染と過剰な電気照明による光の洪水は、私たちから星空を奪うほか農作物が減収、生物生態系を狂わせ、ヒトに "睡眠覚醒リズム障害" を起こす。
「光害」はエネルギー資源浪費の象徴と言える。
夜空の光害調査では、金沢市中心部は郊外の山間部に比べて二十倍も明るい。
「星空の街」として知られる石川県の穴水町では、昨年八月十二日の「星の日」にペルセウス座からの流れ星が夜空のキャンバスに無数の輝線を描いた。
文字通り "星のふる里" の頭上に浮かび上がる銀色の天の川も、自然に育まれた質の高い文化生活を称えるように悠久の流れを誇っていた。
百五年前、穴水まで足を運んだパーシバル・ローエルは日本の精神文化を世界に紹介、また、冥王星の存在を予知した天文学者である。
西欧文明の模倣に明け暮れる日本で、学生たちに「劣悪なる欧米人になるなかれ、優秀なる日本人たれ」と強調した。
穴水星の会が主唱する星祭り ☆ローエルウイークリー1994☆ で注目されるのは五月三日の夜の "ライトダウン作戦" 。
地球と宇宙の恵みに感謝し、星空の自然景観を満喫する。世界的な先進文化の街にふさわしい。
ギリシャのピタゴラスいわく「星は音楽を奏でている。それが聞こえないとしたらあなたの耳が調節されていないだけである」
私は一層グレードアップしたの星空の下、仲間と土で作った土笛 (オカリーナ)を手にし、星たちと合
奏してみるつもりだ。
【略歴】うえむら・あきら 石川県生まれ。長期洋上帆走生活や太平洋島嶼地域の住民とコンミューン生活を共にした。この後、自然塾での体験活動など自然との対話を基底とする社会福祉道場として「学修の広場」を主宰。
(日曜エッセー「道標」北陸中日新聞1994.5.1)
☆冬の星座 A=432Hz オカリナ4C(ハ長調)
:https://youtu.be/9SCUy0MX4AQ